ベトナムEVメーカー・ビンファストの茨の道
ベトナムの新興EVメーカー・ビンファストが米IPOを申請した。開示された財務は燦々たる内容だ。今後も親会社の支えに頼り赤字経営を続けざるをえないEVメーカーは、厳しい競争の中で生き残ることができるだろうか。
ベトナムの新興EVメーカー・ビンファストが米IPOを申請した。開示された財務は燦々たる内容だ。今後も親会社の支えに頼り赤字経営を続けざるをえないEVメーカーは、厳しい競争の中で生き残ることができるだろうか。
ベトナムの富豪が支援する電気自動車(EV)メーカー、ビンファストは、米ナスダックでの新規株式公開を申請したことを明らかにした。
米国証券取引委員会への提出された目論見書のF-1ファイルは、今後の厳しい道のりを示唆している。ビンファストは2021年に13億ドルの損失を出し、今年9月までの9カ月間で15億ドルに近い損失を出している。9月時点で、ビングループと金融機関は、営業費用と設備投資に充てるために約75億ドルを投資している。
ビンファストは、必要不可欠な追加資本は、ビングループや金融機関からの融資を含む、追加の負債および株式による資金調達で賄われる可能性があると説明している。目論見書によると、ビンファストは生産規模の拡大、製造オペレーションの確立、ベトナム国外でのマーケティング、販売、サービス網の拡大に伴い、当面、損失を出し続ける見込みだ。
救いは、親会社のビングループがベトナムで確固たる地位を築いていることだ。2011年から2021年にかけて、ビングループの売上高は約50倍の50億ドル超に膨れ上がった。営業総利益は過去10年間で10倍に膨れ上がり、2021年末日で約8億ドルとなっている。同グループの利益の大半は、不動産事業によって賄われており、その余剰資金が、EVのような新規事業に注ぎ込まれている。
ビングループは最近、ハイテク分野への拡張を望む傾向を示している。昨年は、国内スマートフォン市場の10%強を自社モデルで獲得していた非上場子会社VinSmartを清算し、新たにベンチャーを2社立ち上げた。電池製造子会社のVin esと、Googleの人工知能部門DeepMindの元研究員が率いる機械学習部門のVin aiで、自動運転技術の開発を任務としている。
ビンファストの挑戦は、ベトナムのグエン・スアン・フック大統領の意図と密接に絡んでいるだろう。同国政府の目標は、サムスンのような韓国の財閥のように、国際競争力のある巨大なハイテク・コングロマリットを作ることだ。ベトナム企業で、ビングループほど、その条件を満たす企業はない。
ビンファストは2019年に内燃機関(ICE)自動車の製造を開始し、ベトナム初の国産自動車メーカーとなった。現在はEVに全面的に注力しており、最後のICEモデルの生産は11月上旬に終了している。同社は現在、中型の「VF8」と大型の「VF9」という2種類の電動SUVの予約を受け付けている。
9月末時点で、ビンファストの2車種の予約は全世界で約5万8,000台。現時点では、すべてのビンファストをベトナム北部ハイフォンの工場で生産しているが、2024年7月までに20億ドルを投資し、年産15万台の米国工場の稼働を目指している。
ビンファストは5〜6年以内に約100万台のEVを製造・販売することを目指しているが、これまでのところ、販売台数はそのごく一部にとどまっている。目論見書によると、同社は2026年までに全世界の生産能力を年間110万台にまで拡大する計画だ。
ビンファストのIPO計画は、ほぼ2年前から噂されていた。ブルームバーグ・ニュースは2021年初め、ベトナム最大のコングロマリットで、親会社であるビングループがEVメーカーの20億ドル規模の米国IPOを検討していると報じた。同社は4月、IPOを秘密裏に申請していた。