EV産業は中国の電池に深く依存:フォードのCATLとの「補助金工作」が際立たせた事実
米政府の莫大な補助金を得ながら、寧徳時代新能源科技(CATL)の電池供給を受けようとした、フォードのEV新工場計画は、中国の電池なしでEVを作るのがいかに難しいかを際立たせた。
米政府の莫大な補助金を得ながら、寧徳時代新能源科技(CATL)の電池供給を受けようとした、フォードのEV新工場計画は、中国の電池なしでEVを作るのがいかに難しいかを際立たせた。
マルコ・ルビオ上院議員(米共和党)は13日、フォードが35億ドルを投じてミシガン州に電池工場を建設する計画の一環として、中国の電池企業、CATLの技術を使用する契約を見直すようバイデン政権に要請した。
ルビオ氏の論点は「米国のカネを中国の国策企業のために使うな」ということだ。同氏はTikTokの禁止を要求するなど、対中タカ派の最先鋒として知られている。
ルビオ氏がやり玉に挙げた工場のビジネス構造は、フォードがインフレ抑制法(IRA)の補助金を受けつつ、中国企業との協業を実現するため、複雑だ。工場とインフラの所有権はフォードが持ち、CATLはリン酸鉄リチウム正極(LFP)などの重要技術をライセンス契約により所有・供給するとされる。
昨年成立したIRAは、EVに対する新たな税額控除を適用するが、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を指す「懸念外国法人」の部品を含む自動車は、この税額控除を受けられない。フォードとCATLの契約はこの規制を迂回するためのものだろう。
CATLは、車載電池市場を席巻しつつある。韓国の市場調査会社SNEリサーチが2月7日に発表した統計によると、CATLは21年のシェア33%から37%に成長し、他を引き離した首位(下図参照)。中国企業は、昨年の上位10社のうち6社を占めた。中国メーカー6社を合わせると、世界市場で60.4%のシェアを占めており、21年の48.2%から大きく上昇した。
フォードが、政治的リスクを負ってでもCATLと組みたい理由は、LFPのコストパフォーマンスと関係がありそうだ。工場で生産される予定のLFPを正極とする電池は、エネルギー密度が低い分、ニッケル酸リチウム(NCA)や三元系(NMC)を正極とする電池より安価だ[1]。2021年、テスラは、量販電気自動車(EV)に使用する電池を、NCAからLFP正極を用いた電池へ変更すると発表している。このLFP電池を供給するのがCATLである。
IRAは自動車メーカーの投資戦略を米国内に集中させようとしている。フォードは14日にドイツと英国中心に欧州で従業員3,800人を削減する計画を明らかにした。これはEVへの移行とIRAを踏まえた生産施設の米国シフトを意味しているようだ。
2015年、中国政府は「中国製造2025(Made in China 2025)」計画を発表し、その中でEVを10年以内に支配する目標産業として具体的に位置づけた。特に中国共産党は、EVの電池技術に資金を投入して開発し、国内で製造された電池を優遇する措置を取り、電池材料の加工プロセスについても国内に囲い込むようと努めてきた。
参考文献
- H. Walvekar, H. Beltran, S. Sripad and M. Pecht, "Implications of the Electric Vehicle Manufacturers’ Decision to Mass Adopt Lithium-Iron Phosphate Batteries," in IEEE Access, vol. 10, pp. 63834-63843, 2022, doi: 10.1109/ACCESS.2022.3182726.