越EV新興企業ビンファストは侮れない

ビンファストはEV市場の一角を崩すかもしれない。品質はまだ一線級ではないが、日中韓メーカーがかつて通った道だ。多量の資本を燃やすベトナムメーカーの成長には目を見張るものがある。

越EV新興企業ビンファストは侮れない
出典:ビンファスト

ビンファストはEV市場の一角を崩すかもしれない。品質はまだ一線級ではないが、日中韓メーカーがかつて通った道だ。多量の資本を燃やすベトナムメーカーの成長には目を見張るものがある。


ベトナムの電気自動車(EV)メーカー、ビンファストはインドネシアを手始めに東南アジア市場に積極的に進出する計画を明らかにした。レ・ティ・トゥ・トゥイ最高経営責任者(CEO)は16日、ブルームバーグのインタビューに対して、世界的な事業拡大計画を後押しするため、「多くの資本」を調達する見通しだと明らかにした。

ビンファストの主要株主は、ヴィンファスト株4,600万株の売却を想定しているという。売却益はヴィンファストの拡大計画に充てられるという。

最近のビンファストの資金調達はとても積極的なものだ。ベトナム一の富豪として知られるファム・ニャット・ブオンの資本(*1)によって生まれ、育てられた同社は、8月、米国の特別目的買収会社(SPAC)との合併によって、ナスダックに上場した。17日時点の時価総額152億ドル(2兆2,700億円)であり、この物差しにおいては、同社は日産に匹敵し、マツダ、三菱自、スバルら後続勢を引き離している。ヴィンファストの時価総額は一時28兆円近辺まで上昇していた。

この高いバリュエーションは、鵜呑みにできない。浮動株が著しく少ないことで実現されている側面があるからだ。8月の合併時、SPAC投資家は、ビンファストのバリュエーションに満足せず、大半は合併時の償還で手堅いリターンを得ることを選んだ(SPACの投資家にはこのようなリスクにさらされずにリターンを得られる方法が保証されていることが多い)。これは、SPACの株主の大半が、合併の資金を提供するのではなく、資金の返却を要求したことを意味する。その結果、合併後の会社の株式を保持することを選んだ投資家には、有利なワラントが付与されている、とブルームバーグのコラムニスト、Chris Bryantが書いている。

ただし、ビンファストの生産能力 / 販売台数は無視できない水準まで成長しているのは確かだ。トゥイは、ブルームバーグに対して、同社は今年、4万5,000台から5万台を販売するという目標を達成する見込み、と明らかにした。これは、米国におけるテスラのライバルと目されるリビアンと同水準の販売台数だ(ただ、リビアンはより難易度の高い商用バンやピックアップトラックを扱っている)。2017年設立のEV会社としてはかなり優秀な数値である。同時期に生まれたEV新興企業を見ると、死屍累々なのだ。

10月初旬に公表された4−6月期の未監査決算によると、ヴィンファストは第3四半期に10,027台の自動車と28,220台の電動スクーターを納入した。同社は、ブオンが95%の株式を保有するベトナムのタクシー会社に7,100台を販売したとも発表した。

ビンファストのクルマは、まだ米市場の要求に達していないのかもしれない。米EVメディアInsideEVsのSteven Ewingは、ビンファストの5人乗りセダン「VF 8」は、現代自動車のIoniq 5やフォードのMustang Mach-Eに対抗する準備ができていない、と断じた。「ビンファストは正しい考えを持っているが、VF8は納車に対応できる状態にはない」と自動車専門誌Motor TrendのScott Evansも辛口だ。

ヴィンファストは別の理由でも苦戦している。米国に輸出される同社の車両は当面、インフラ抑制法(IRA)の税額控除を受けることができない。例えば、VF 8の価格は46,000ドルからと、テスラの「モデルY」の47,740ドルからをわずかに下回っている。しかし、テスラの車両には7,500ドルの税額控除があり、ビンファストの車両は米国製ではないため、この特典がない。

しかし、同社の米国市場への野心は本物のようだ。同社はノースカロライナ州に20億ドルの生産施設を建設している。2024年7月に生産を開始するこの工場は、電気SUV「VF 9」とVF 8を生産する予定。第1段階の生産能力は年間15万台と予想されている。米国産であればIRAの恩恵を受けられる可能性がある。

米国市場には中国勢が積極的に進出しておらず、米大手が量産化に苦戦しているのをみると、ビンファストが一角を崩せる公算はなきにしもあらずだ。

アジアへの戦線拡大も著しい。同社は現在、市場を調査しており、インドの自動車産業の中心地であるグジャラート州かタミル・ナードゥ州のいずれかに製造施設を設立し、同国のEVに対する優遇措置を活用する可能性に言及した(*2)。また、同社はインドネシアに長期的に約12億ドルを投資する意向で、来年から納入を開始し、2026年には最大2億ドルをかけて新施設を建設する計画だ。年間3万台から5万台を生産する予定。

「2025年以降に黒字化」

ビンファストの第3四半期の売上高は3億4,300万ドル増加したが、同四半期の純損失は6億2,300万ドルであった。 第3四半期は赤字幅が拡大したが、黒字化の目処は立っているとトゥイはブルームバーグに対して述べている。同社は5月、EVメーカーの経営が「順調」であれば2025年以降に黒字化し、2024年末までに黒字化を達成できると明らかにしていた。

脚注

*1:9月21日現在、Vingroupが50.8%、Vietnam Investment Group(VIG)が32.9%、Asian Star Trading & Investment Ltd.が12.9%の株式を保有している。これらの株主はそれぞれブオンが過半数を所有している。ファム・ニャット・ブオンは、ベトナム最大の複合企業で不動産、小売、家電、ヘルスケアなどにも注力するビングループを率いる。保有資産は445億ドルとフォーブスはみている。

*2:「テスラが現地生産を計画しているのとは対照的に、VinFastがCKD(Completely Knocked Down)方式を採用するのは、異なる戦略的アプローチに沿ったものだ」と、野村総合研究所の自動車小売プラクティス部長、ハーシュバルダン・シャルマはフォーブス・インディアに語っている。「テスラのインド国内生産へのコミットメントは称賛に値するが、CKDにはいくつかの利点がある。市場参入の迅速化、初期投資の削減、市場の需要への柔軟な対応が可能になります。また、VinFastは大規模な製造に着手する前に市場の反応を見極めることができます」。

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