EVが「修理費高額問題」を完全解決するのはいつか?

優れたEVの総所有コスト(TCO)は、ガソリン車に対して優位に立っていると言われる。だが、修理費はガソリン車よりも高いことが多く、特にバッテリーの損傷では、300万円を超えることもある。EVがこの弱点を克服するのはいつか?

EVが「修理費高額問題」を完全解決するのはいつか?
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優れたEVの総所有コスト(TCO)は、ガソリン車に対して優位に立っていると言われる。だが、修理費はガソリン車よりも高いことが多く、特にバッテリーの損傷では、300万円を超えることもある。EVがこの弱点を克服するのはいつか?


英国エディンバラのテスラのオーナーが、雨で破損したテスラのバッテリーを修理するために、テスラから17,374ポンド(約316万円)を請求されたことが話題を呼んでいる。

Edinburgh couple fume as they are handed £17K bill by Tesla as they ‘drove in rain’
The pair have told of the “excruciating stress” that has been caused by the ordeal, with Tesla allegedly demanding they pay for the battery that stopped working after a drive in the rain.

故障したテスラをサービスセンターに届けた二人は、バッテリーが水濡れによって損傷しており、8年保証の対象外であることを告げられた。オーナーは1,000ポンド(約18万円)程度の請求書を予想していたが、その金額は予想をはるかに超えていた。オーナーは自分たちに過失はないと主張し、テスラは現在この苦情を調査中という。同様のケースは昨年、カナダのテスラ所有者のためになっている。テスラ・ヨーロッパはこの問題についてまだコメントしていない。

バッテリーはEVのコストにおいて大きな割合を占めている。2019年、イーロン・マスクは、テスラのバッテリーの交換には5,000ドルから10,000ドルの費用がかかる可能性を示していた。

修理費はガソリン車の2倍

レンタカー会社のハーツはテスラなどと、約20万台のEVを購入する契約を結んだが、この計画も逆風にさらされている。今週、ハーツはEVの中古市場での価値の急落と修理費の高騰を理由に、EV転換にブレーキをかけると発表した。

ハーツのスティーブン・シェールCEOはブルームバーグに対し、「修理費用は、同社がガソリン車の修理にかける費用の約2倍だ」と語った。EV調達の速度を落とすものの、シェールCEOは最終的には販売価格の下落によってEVレンタカーのマージンが改善するシナリオを示唆した。「破損やコストに関する問題を解決できれば、さらに良いものになるでしょう」。

中古市場の暴落は、テスラが販売促進のために価格を引き下げていることに起因する。1年前、中古車は記録的な水準で売れていたため、ハーツは中古車をより良い価格で売ることができた。ブルームバーグのDavid Welchは、ハーツは昨年、今年よりも8億ドル多く中古車を販売した、と書いている。

ハーツが買収した10万台のテスラのうち、半分はライドシェア会社との契約の一環としてUber運転手に割り当てられる予定だった。しかし、Uber運転手は、車を使い潰す傾向がある。このような利用率の高さは、多額の修理費につながる可能性がある。

総所有コストの現実

この2つのケースが示唆するのは、必ずしもEVはTCOでガソリン車に優位に立っていないという事実だ。もちろん、ガソリン車の場合もバッテリーやエンジン、その他の修理費用が高い部品が損傷を負った場合、同様の費用が想定される。また、労働法に守られず、最賃以下の厳しい待遇で働くUber運転手による使い潰しは、必ずしも商用車全般に一般化できないだろう。

一般的に、TCO分析で最も大きな項目は、車両購入に関わる初期費用である。通常、EVの購入価格は従来型よりも高い。一方、維持費やエネルギーコストはEVの方が低くなる可能性がある。分析には、車両税、手数料、税制優遇、ローン、損害保険などが含まれる。

テスラは2022年のインパクトレポートで、テスラのセダン「モデル3」の所有コストは、BMWやアウディと似た価格帯の商品にも関わらず、トヨタ・カローラに凌駕すると主張していた。2030年にモデル3とSUV「モデルY」のTCOを 現行の半分まで圧縮することが目標に掲げられている。

EVオーナーにとってバッテリー交換は少数派のイベントのようだ。米メディアInsierが引用したリサーチ会社リカレントの米国のEVドライバー1万5,000人をサンプルにした調査は、EVのバッテリーは概して寿命が長いことを示している。調査では、バッテリー交換が必要としたEVは、大規模リコールを排除した調整後の数値では、わずか1.5%だった(*1)。

つまり、優れたEVのTCOは、ガソリン車に対して優位に立ちうるものではある。だが、ヘビーな使用への耐性や、高価なバッテリーの損傷というコーナーケースが存在することは注視するべきだ。

脚注

*1:シボレー・ボルトEV、ヒュンダイ・コナ・エレクトリックの2つの大規模リコールを含めると、交換率は6.5%に上昇。最も古いEVでは、日産リーフが4.92%、テスラ・モデルSが3.75%と最も高い交換率だった。

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