テイクアウェイ

  • ”Global Coin(グローバルコイン)” という名称だが名実ともに ”Facebook Coin” 。ビットコインの分散的な設計と対極にある、Facebookが管理する集権的な暗号通貨
  • 先進国では、既存プレイヤーや法制、既得権との兼ね合いでGlobal Coinの浸透は難しいと考えられるが、Facebook 製品の23億ユーザーの半分以上が居住する発展途上国では、すでにモバイルバンキングが普及する例が存在し、レガシーバンキングが未発達なため、大いなる機会が想定できる

Facebookが暗号通貨「Global Coin」を6月末に公開する予定だと、The Informartion が報じています。

グローバルコインとは?

GlobalCoinはユーザーがソーシャルメディアプラットフォームを介して金融取引を行えるようにすることを目的としています。”Facebookのお金”という理解でいいはずです。

Global Coin(グローバルコイン)は革新的なビットコインのような非中央集権的なものの正反対にあたる「集権的な通貨」です。ビットコインは数千の参加者による複雑な検証手法で、取引が正しいことを証明します。一方、Facebookは100の参加者でその証明を行うということで、基本的にはFacebookがそれが正しいと裁定を下すと想像できます。つまり、既存の金融システムの果たしている機能とあまり変わりなさそうです。

違いはFacebookがその胴元であること、それから、そのネットワークへの参加には1000万ドルの手数料を課そうとしていることです。そして、それでもユーザーが得る便益は既存金融機関のサービスには勝りそうではあります。自分らのもつ資産をこのある程度革新的なレイヤーに投入することに勝機をみているのでしょう。

ではもっと詳しく順番に追っていきましょう。

1.スケールの美学

Facebookは23億の月間ユーザーを持っています。Facebookのサービスはソーシャルメディアやメッセージングアプリなど、ネットワーク効果が最も働きやすいと考えられるものです。既存の暗号通貨はテックサビーな人にしか受け入れらませんでした。ユーザー数が増えたのは「投機的関心」が膨らんだときであり、それは継続的な利用習慣に繋がりませんでした。複数の巨大アプリをもつFacebookには、ユーザーをアプリに継続的に利用するよう教育するように、コインの利用習慣を生み出せるかもしれません。

Facebookは23億ユーザーの利用を支えるため世界中にデータセンターを持っています。近年は企業のオンプレミスサーバー、自社運営のデータセンターからクラウドへの移行が進んでおり、「ハイパースケールデータセンター」への集約の時代を迎えています。Facebookのデータセンターはコンシューマアプリを支えるものとしては世界最大級のスケールを持つと想定されます。これはインターネットがGAFAMなどと呼ばれるビッグテックへと集権化していることの裏返しとも言えます。

Global Coinのノード数は100とのことだったので、これはFBのデータセンターと補助的なマイクロデータセンターで賄われるのではないかと想像します。ノードとは暗号通貨のネットワークにおいては、ネットワークに接続されているコンピューター端末のことを指します。

Global Coinはビットコインの対極です。Bitnodesというビットコインのノードをビジュアライズしたり統計を示してくれるサイトをみてください。ビットコインノード数は9561と1万に届きそうです。このノードのなかにはマイナー(採掘者)が含まれており、彼らの間でゲーム理論的な分散合意プロセスを走らせ、その結果として金融取引が確定し、チェーン上のデータ構造のなかに閉じ込めます。

Via Bitnodes

Global Coinの集権的と想定されるトランザクション処理は、Facebookが想定するユーザーの利用方法とマッチするはずです。ソーシャル、メッセージングというプラットフォームの性質から少額ペイメントが需要の大半を占めると想定できます。現状は、少額高頻度のトランザクションを処理するには、ビットコインが採用する分散型の処理ではスループット(実現可能な処理量)が足らず、いわゆるTrusted Third Party(信頼される第三者≒善意の第三者)による取引の証明が好ましいと考えられます。

加えて先進国では、既存プレイヤーや法制、既得権との兼ね合いでGlobal Coinの浸透は難しいと考えられます。欧米諸国ではFacebookへの風当たりはこれまでになく強くなっています。米国では選挙が近づき、欧州ではGoogleに制裁が加えられました。Facebookが暗号通貨をやると言ったら、マーク・ザッカーバーグは政治家一年中話をしなくてはいけなくなるかもしれません。

同時にFacebookは有力なモバイルクライアントを多数押さえているのも大きいでしょう。富裕国ではユーザーが常用するアプリは十数個に限られています。そのうちのいくつかをFacebookは押さえています。発展途上国では、FacebookやWhatAppがインターネット体験の主軸に置かれているケースがあります。FacebookがキャリアとなりFacebook関連アプリの通信料をディスカウントするような途上国プロジェクトも存在します。Google等との競争となり電波を供給するためのドローン、気球、人工衛星が登場するジャンルになりました。

2. デジタルバンキング

Global Coinは金融機関のリテール部門に対して競争優位性を発揮する可能性があります。

既存の金融システムにはステークホルダーが多数関与するためにコストが高くなりすぎている面があります。また既存の金融機関はインターネット、モバイル等の現代的な状況に追いついていないレガシーなシステムを使っていて、それが金融取引を遅く高価にしています。

富裕国でアントファイナンシャル的なプレイヤーに対し、金融機関のリテール部門が存続しているのは、法律で守られているからです。レガシー金融のリテール部門は法定通貨とそれを発行する中央銀行などのレギュレーターと近い距離がありエコシステムの一部になっています。暗号通貨に傾倒するヒッピーな思想の持ち主よりも、間違いなく政策決定への影響力は強いのです。

Facebookが暗号通貨において価値を見出しているのは「ゲーム内通貨」としての役割です。非効率なレガシー金融システムを経由しない決済手段としての利用を期待しているはずです。暗号通貨取引所が表現するボラティリティはあからさまな阻害要因だったでしょう。

この文脈から、最近はボラティリティを取り除いた暗号通貨であるステーブルコインが提唱されています。ステーブルコインには三種類あります。①法定通貨固定相場、②暗号通貨固定相場、③管理通貨制度、です。③は米ドル、日本円等の運営方法のことで、ニクソンショックという出来事以降、世界中に広まったものと同じです。なんというか「歴史は繰り返す」という趣があります。

ステーブルコインという考え方の発見により、Facebookが暗号通貨を採用する理が確かなものになっています。おそらくGlobal Coinは日銀やFRBの代わりにFacebookが管理する③に当たると僕は推測します。そして「あなたがグローバルコインを扱う商業銀行を立ち上げたいのなら、中央銀行たるFacebookに参加費10万ドル払ってくださいね」という枠組みなのでしょう。

3. Facebookのビジネスモデルの変化

Facebookのビジネスモデルの変化からも暗号通貨採用は、文脈に合うという感じです。

Facebookが暗号通貨を開発することをめぐる報道はこの Coindesk Japan の記事によくまとまっています。

米国では「Facebookのターゲティング広告」はこれまでになく非難にさらされています(ターゲティング広告はFacebookの専売特許ではないにもかかわらず)。ノーベル経済学賞受賞の経済学者ポール・ローマーはターゲティング広告収益に課税することで、アメリカの民主主義を損ねているビッグテックのビジネスモデルを変えることができると提案しました。

このような状況下でマーク・ザッカーバーグは開発者会議「F8」で「Facebookの未来はプライバシー」と唱えています。広告で稼ぎ続けることは難しいかもしれない。少なくともこれまで以上の収益をあげることには社会的・政治的圧力があるため、他の収益源を探らないといけないという状況でしょう。

Facebookというサービスは、途中からテンセントのモデルを取り込むことで進化してきました。ソーシャルができたあとはテンセントが先んじて成功していたモバイルゲームプラットフォーム、そしてそのあとも微信の成功を見てメッセージングアプリを自ら開発し、買収もしました。テンセントが近年手がけた事業の中で最も成功したのが、モバイルペイメントアプリの「微信包銭(Wechat Pay)」です。これはメッセージングアプリに送金機能をビルトインしたもので画期的でした。この分野ではアジアが世界をリードしています。

デジタル決済革命はアジアで起きている:先進国凌ぐ中印

ライバルのAlipayは高額ペイメントの市場を取るのに対し、Wechat Payが主に少額ペイメントの市場を取りました。Facebookは短期的にはこの機能の模倣を目指しており、長期的にはアントファイナンシャルのような複合的なデジタルバンキングの提供者になりたいのではないでしょうか。

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情報公開

暗号通貨・ブロックチェーン技術においては、自分のような小規模のスタートアップ起業家にとって短期的な機会を見つけづらい領域になりました。私もサブスクリプションメディア事業の課金決済の手数料を安価にできる点とコインの発行と上場により資金調達を済ませられる点から暗号通貨にのめり込んでいたことがあります。

注記:日本では仮想通貨と呼んでいたものを「暗号資産」と呼ぶことになったそうですが、国際的には”Crypto” あるいは”Cryptocurrency”と呼ぶので、ここでは「暗号通貨」で統一させてもらいました。

Reference

Facebook Plans Outside Foundation to Govern Cryptocurrency (The Information / by Alex Heath and Jon Victor)

フェイスブックの暗号通貨について現時点までに分かっていること~2017年の兆候から「グローバルコイン」の名称判明まで