Fortniteから学ぶビジネス戦略 プラットフォームに支配をかいくぐる技法

インターネット産業のさまざまな場所にこのようなプロプライエタリな仕組みが適用されているが、その外側に脱出する術をTimはUnreal EngineとFortniteの成功という形で示したのだ。

Fortniteから学ぶビジネス戦略  プラットフォームに支配をかいくぐる技法

Fortniteが8月単月で8000万ユーザーを集め大ヒットしている。僕の関心はデベロッパのEpic Games の創業者、CEOのTim Sweeneyに向かった。僕はどういう人間か過去のインタビューや動画などを辿ってみた(末尾にリンクを並べていおいた)。自身も開発者としてわずか21歳でゲーム会社を起業し、インダストリの未来にも非常に大きな影響力をもつ、とても興味深い人物であることがわかった。

ゲームをしないぼくがなぜ興味を覚えたかと言えば、今年の夏にEpicがGoogleをあっと驚かせたからだ。EpicはGoogle PlayストアからAndroidに大ヒットゲームの『Fortnite(フォートナイト)』を渡さないと宣言し、モバイルゲームの世界を揺るがした。TimはかわりにFortniteEpicのウェブサイトからの直接ダウンロードすることでのみ利用可能になることで手を打っている。

この行動のモチベーションをTimはゲーム開発者の立場から「(Google Play Storeが課すアプリ収益に対する)30%の税金が高すぎる」と説明している。

無差別攻撃ではなかった。Timはコンソールビジネスの場合、コンソール屋がゲームパブリッシングに税を課すのは合理性があると話す。コンソールベンダーはコンソール自体を最終的なコストよりも低い価格で販売し、ゲームパブリッシングに絡む手数料で回収するというビジネスモデルを敷いている。コンソールベンダーはパブリッシャとの提携によるマーケティングキャンペーンを行うなどパブリッシャ同様のリスクをとっているからだ。

しかし、TimはAndroidやiOSのような”オープンプラットフォーム”では、ペイメント処理、ダウンロードに必要な帯域、カスタマサービスなどが30%の税を正当化するに当たらないと主張している。Timがよりロバストなモバイルゲーム流通として韓国のKakaoTalk、中国のTencent WeGameを挙げており、PCでもSteam, GOG, Origin and Battleなどがより流通としての正しい形だと指摘している。

Timの興味深い点は誰もが感じていたがあえて口にしない点を、そのまま言葉と行動にしてしまうところだ。パブリッシャとプラットフォームは「小作農と荘園領主の関係」になりがちだが、EpicはPC、ゲームコンソール、スマホのマルチプラットフォームの超人気タイトル「Fortnite」で手に入れた影響力をすかさず行使した。

Timの行動は過激だけど、たぶん戦略的な面もある。あまたあるプラットフォームの中から、Epicに最も収益貢献の低いであろうAndroidだけを敵だと名指ししたのだから。弱い相手から落とすというのは、それこそ「バトルロワイアル」の鉄則でもある。

同時にEpicの戦いを支えているのは、Timが生みの親であるゲームエンジン「Unreal Engine」だ。ゲーム開発者でありながらゲーム制作プラットフォーム提供者の立場も手に入れることで、Epicの力は強くなっている。Unreal Engineは典型的なドッグフードの成功例で、最初は自社のゲーム制作のコストを簡略化するために作られ、それから外部への提供が始まった。1200万ドルを投じたもののボツったゲーム『Paragon』の素材を無料で提供したり、今回のFortniteで使われた機能もすぐさまアップデートしようとしている。EpicはUnreal Engine4を無償化した。同社はマーケットプレイスにおけるサードパーティ開発者の取り分を70%から88%まで引き上げている。Epicはプラットフォームとしてユーザーの開発者に利益供与を始めた。

分断して統治されない

Unreal EngineはPC、スマホ、ゲーム機間の垣根を無くし、クロスプラットフォーム開発の機会を開発者に与えている。クロスプラットフォーム開発は、開発者をプラットフォームによる断片化の重力から解放し、彼らが最高の収益を追求できるようにする。

Fig01 無料公開された『Paragon』の素材 via Epic Game

同時にPCや異なる家庭用ゲーム機どうしのプレイヤーが一緒にプレイできる「クロスプラットフォームプレイ」を推進しており、これこそがFortniteに8月単月で8000万人のプレイヤーを呼び込む大きな力となっている。ユーザーをプラットフォームごとに囲い込むよりも、ユーザーどうしを繋げることでより豊かな価値が生まれてくるという。ただ単にゲームを楽しむというよりは、友人との交流を行う場としてのソーシャルなエンターテインメントにゲームは変わってきている。

来日時にTimは「メカトーフの法則」の言及しており、クロスプラットフォーム展開がFacebook、Tencent、Appleなどが享受するネットワーク効果を享受する機会を与えてくれると指摘している。

「『フォートナイト』では現実社会の友人と一緒に遊んでいるユーザーのプレイ時間は、ひとりで遊んでいるユーザーの3倍なんです。3倍ですよ!大きいですよね。メトカーフの法則(Metcalfe’s law)をご存知でしょうか。ソーシャルネットワークやゲームプラットフォームの価値を図る経済原則です。ゲーマーにとってのプラットフォームの価値は、交流できるリアルフレンドの数と比例するのです」

そしてこの記事でもわかるように彼のオープンなエコシステムと、そこでクリエイターが活躍する場をつくるという信念は筋金入りである。

「もちろん,すべてのクリエイターに真の潜在力を発揮させるには,開発者が観客にリーチできるようなオープンな市場 ― Sweeney氏が長々と語っていたような ― を業界が提供する必要がある。氏のよく知られているMicrosoftとそのUniversal Windows Platformに関する批判によって(関連英文記事),氏はアクセス可能なエコシステムの主唱者となった。さらにこれはUnrealが3年前に改定したビジネスモデルでの貢献,すなわち最初はゲームエンジンを低価格で利用できるようにし,その後,無料で使えるようにし,ソースコードも包み隠さず誰でも見られるようにしたことにも影響している。著名なAAAデベロッパからベッドルームコーダー(寝る前に趣味でプログラムを組むようなアマチュアプログラマ)まで,― 商用リリースした場合に5%のロイヤリティが課せられるという但し書きはあるとはいえ ― Gears of Warや数え切れない大ヒット作を生み出したツールと同じもので取り組むことができるようになったのだ」

プロプライエタリな仕組みを作り、分断して統治するというのがソフトウェアビジネスの鉄則だが、必ずしもその鉄則が、エンドユーザーのベネフィットに応えるかというとそうではない。インターネット産業のさまざまな場所にこのようなプロプライエタリな仕組みが適用されているが、その外側に脱出する術をTimはUnreal EngineとFortniteの成功という形で示したのだ。次の時代のビジネスを作る人が見習うべき最高のロールモデルである。

Reference

Gamasutra - From The Past To The Future: Tim Sweeney Talks

Classic Tools Retrospective: Tim Sweeney on the first version of the Unreal Editor

Epic CEO Tim Sweeney labels Google Play 30% revenue share “disproportionate” as Fortnite bypasses Android store

Epic Games: Tim Sweeney on Fortnite – the company's very own Victory Royale

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