ベゾスとゲイツが核融合で熾烈な競争 ――大富豪のリスクマネーは有用

General Fusion社が試験機を英国に建設へ

ベゾスとゲイツが核融合で熾烈な競争  ――大富豪のリスクマネーは有用
Image via General Fusion

要点

フランスの大型核融合プロジェクトの進展が遅く、ジェフ・ベゾスとビル・ゲイツが支援する機敏な核融合ベンチャーが「先回り」を競い合っている。大富豪が投じるリスクマネーが先端技術開発に役立っている例だろう。


英当局は18日、ジェフ・ベゾスをはじめとする大口投資家が支援する、核・バンクーバーに本社を置く核融合ベンチャーGeneral Fusionが、オックスフォードシャー州の核融合の実験施設を建設することを認可したと明らかにした。

実験施設の建設費は数億ドルで、英オックスフォード郊外にある英国原子力公社(UKAEA)のキャンパスに建設される。このキャンパスには、世界最大の実用核融合炉であるジョイント・ヨーロピアン・トーラスや、英国のメガアンプ・スフェリカム・トカマク・アップグレード炉を運営するカルハム核融合エネルギーセンターがある。

この発電所は英国政府の資金援助を受けており、最終的な商業化に必要な規模の70%で、2025年の稼働後に同社の核融合アプローチの実現性を実証するためのものだ。

General Fusionの設計は、磁場閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式の特徴を組み合わせたもので、磁化標的核融合と呼ばれる。磁力で閉じ込められたプラズマのパルスを、溶融した鉛やリチウムの渦で満たされた球体に注入する。原子炉を囲むピストンが中心に向かって衝撃波を与え、燃料を圧縮して粒子を核融合反応に導く。その熱は液体金属に吸収されて蒸気となり、タービンを回して発電する。

トカマク(軸対称な環状 [ドーナツ状] 磁場によって高温のプラズマを閉じ込める核融合のための装置)では、密度の低い大きなプラズマ場を使うが、General Fusionは、衝撃波でプラズマを押しつぶし、密度の高いミニサイズのプラズマを作ろうとしている。プラズマは密度が高くて小さいので、1ミリ秒だけ一緒にしておけば反応する。

図1. 1980年代後半に完成して以来、研究に使用されてきたサンディエゴのGeneral Atomics社が運営するトカマク型核融合実験炉「DIII-D」。特徴的なドーナツ型のチャンバーは、高温に耐えるためにグラファイトで覆われている (CC BY-SA 4.0)
図2. General Fusionの圧縮試験機 via General Fusion.

General Fusionは液体金属を使うことで、核融合エネルギーが抱える課題を解決することができると主張している。課題とは、中性子線が原子炉の壁を侵食するため、頻繁に壁を交換し、低レベル放射性廃棄物として処分しなければならないことだ。液体金属は、固体の外壁を損傷から守る。液体金属への放射線照射はあるが、定期的に交換する必要がないため、低レベル放射性廃棄物が安定して発生することはない。

General Fusionは、2018年末に初めてプラズマを発生させたが、現在では数十ミリ秒の間、リングを作ることができるようになったという。これは、核融合を起こすには十分すぎる時間だ。ライバルでビル・ゲイツが支援者となっているTAE Technologiesもプラズマリングを利用しており、同様の時間を維持することができる。しかし、TAEはリングを圧縮するのではなく、粒子ビームでリングを維持・加熱している。

図3. TAE Technologiesの核融合炉 Photo via TAE Technologies

General Fusionはこのパイロットプラントで、圧縮方式の利点を実証したいと考えている。プラズマリングは、回転する液体リチウムの層が敷かれたチャンバーに発射される。この液体リチウムは、核融合によって飛び出した高エネルギー粒子を吸収し、原子炉にダメージを与える可能性がある。

プラズマがチャンバーの中心に到達すると、何百もの空気圧式ピストンがタイミングを見計らって原子炉の壁の外側を叩き、リチウムを内側に押し込み、プラズマを球状に圧縮して着火点に到達させる。商業炉では、経済的な量の電力を生み出すためには、数秒ごとにパルスで新鮮なプラズマリングを圧迫しなければならない。

この分野では、フランスにある国際的な巨大原子炉プロジェクトであるITERは、核融合発電の最右翼にいるとされてきた。しかし、200億ドル超が投じられているこのプロジェクトの進展は遅い。2025年の稼働開始を予定しているが、実際の実現性の実証は2035年以降になると予想されている。そのため、他の技術でより早く実現しようとする機敏なスタートアップ企業が現れている。

参考文献

  1. Tom Clynes. 5 Big Ideas for Making Fusion Power a Reality. 28 Jan 2020. IEEE Spectrum.
  2. Consequences of Flux Diffusion in a Liner Compression Fusion System. General Fusion.
  3. Plasma-wall interaction on the SLiC spherical tokamak device with large-area, dynamic liquid lithium free surface. General Fusion.

📨ニュースレター登録

平日朝 6 時発行のAxion Newsletterは、テックジャーナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、最新のトレンドを調べて解説するニュースレター。同様の趣旨のポッドキャストもあります。

株式会社アクシオンテクノロジーズへの出資

一口50万円の秋のラウンドに向けて事前登録を募っております。事前登録者には優先的に投資ラウンドの案内を差し上げます。登録はメールアドレスだけの記入で済みます。登録には義務は一切ともないません。すでに数十人に登録を頂いています。

【2021年秋】(株)アクシオンテクノロジーズ個人投資家ラウンド事前登録
登録を頂いた方には優先して投資ラウンドのご案内を行います。

クリエイターをサポート

運営者の吉田は2年間無給、現在も月8万円の報酬のみでAxionを運営しています。

デジタル経済メディアAxionを支援しよう
Axionはテクノロジー×経済の最先端情報を提供する次世代メディアです。経験豊富なプロによる徹底的な調査と分析によって信頼度の高い情報を提供しています。投資家、金融業界人、スタートアップ関係者、テクノロジー企業にお勤めの方、政策立案者が主要読者。運営の持続可能性を担保するため支援を募っています。

Special thanks to supporters !

Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Kinoco, Masatoshi Yokota,  Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 黒田太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, Sotaro Kimura, TAMAKI Yoshihito, kanikanaa, La2019, magnettyy, kttshnd, satoshihirose, Tale of orca, TAKEKATA.

Read more

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

Google Cloudは10月8日、「自治体におけるゼロトラスト セキュリティ 実現に向けて」と題した記者説明会を開催し、自治体向けにゼロトラストセキュリティ導入を支援するプログラムを発表した。宮崎市の事例では、Google WorkspaceやChrome Enterprise Premiumなどを導入し、災害時の情報共有の効率化などに成功したようだ。

By 吉田拓史
​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史