トロントで未来都市を開発するGoogle

Alphabet子会社のSidewalk Labsはトロントの東部ウォータフロント地区の開発をめぐりWaterfront Trontと契約を交わしました。未来都市に期待が集まります。

トロントで未来都市を開発するGoogle

Alphabet子会社のSidewalk Labsはトロントの東部ウォータフロント地区の開発をめぐり、カナダ連邦政府、オンタリオ州政府、トロント市が共同で構成しているWaterfront Trontと契約を交わしました。Sidewalk Labsは12エーカー(約4ヘクタール)のウォーターフロント地域の開発を開始します。この4ヘクタールはパイロットであり、プロジェクトは下の写真で示される地域を含む、最大約324ヘクタールに上ると言います。開発対象区域は北米最大規模の未開発地域にあたります。

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1.ビジョン

Sidewalk Torontoが掲げるビジョンを意訳します。

東部ウォーターフロントはエネルギー利用、ハウジング、交通を含む都市が直面する大きな課題をデジタルテクノロジーと都市デザインを組み合わせることで解決を図ろうとする新しいタイプの場所になるでしょう。 住宅や小売スペースをより手頃なものにするため、さまざまなユースケースに柔軟に対応可能な建物や新しい建築方法を取り入れる場所になるでしょう。人を中心とした通りの設計と様々な交通手段が、プライベートカーよりも手頃で便利な場所です。同時に、地球環境を守るため、エネルギー、廃棄物、およびその他の環境問題に革新を促す場所でもあるのです。家族が一日中一晩中屋外で楽しむことができ、コミュニティの関係が強い場所。そして、誰もが受容できるプライバシーとセキュリティを諦めることなく、デジタル技術とデータによって強化された場所です。

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2.ロスのない交通手段

交通手段には私用車は用いられないと考えられます。下図のように、

  • 自動走行シャトルバス
  • 歩行者を感知し臨機応変に変わる信号
  • 車両移動用地下トンネル

を使うことで、都市内でのロスのない人とモノの移動を達成することを目指しているようです。地下に電線や水道管などを集約し、物流ロボット用の経路を確保します。これにより地上の景観がよくなるとともに都市インフラの効率化も図れます。

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3.多用途に適応し、低価格な住宅、小売店用不動産

米国内の一部地域では不動産価格が高騰しており、中間、低所得者層が住宅を手に入れるのには大きなハードルがあります。都市計画者が住宅のデザイン、建築方法などまで一貫して決めていくならば、より「都市ユーザ」のニーズにかなう住宅を生み出せます。

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4.センサーデータによる都市のソフトウェア化

Sidewalkの計画書によると、公園のベンチ、浪費されるビン、騒音、環境汚染のレベルなど都市のすべてのものにセンサーを取り付けるようです。そのほか人々は常に超高速のインターネットを利用することができます。 あらゆるセンサーからもたらされたデータにより、都市のリアルタイムのアップデートが可能になるかもしれません。蓄積されたデータから長期的な都市開発の画も描けるようになるはずです。計画書は「プライバシーやセキュリティをあきらめることをせず」これらを達成すると表現しています。

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5.都市内発電や医療の民主化

プロジェクトはサーマルグリッドや遠隔地ではなく都市内で行われる発電、すぐさま利用できる医療施設などの開拓者になる予定です。住人のコミュニティの結びつきが深い場所になるようです。すべて米国が抱える課題を踏まえたビジョンです。

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6.カナダのシリコンバレー

Alphabetのカナダ本社もこの地区に移転することが確約されているため、トロントとしても巨大企業を招き寄せることができます。ドナルド・トランプの大統領就任以降、米国は技術者の移民を受けいるのが難しい状況であり、トロント大は近年の人工知能のブレークスルーの震源地のひとつで、Alphabetはトロント大のジェフリー・ヒントン氏が設立した企業を買収するなど、この地域に深い関心があるでしょう。テック企業が好む未来都市ができれば、トロントの地位は相対的に上昇するはずです。

Every image via Sidewalk Toronto

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)