Googleの科学的な人事部「ピープルオペレーションズ」が得た直感に反する洞察

Googleの人事部「ピープルオペレーションズ」は、優れた社員の採用、コアプログラムの改善、才能の育成などをめぐって、「人事分野を再発明するデータ駆動型のアプローチ」を採っている。

Googleの科学的な人事部「ピープルオペレーションズ」が得た直感に反する洞察

2010年代前半、ピープルオペレーションズは問題に気づきました。それは多くの女性が会社を辞めていましたことです。シリコンバレーのソフトウェア会社の大多数と同様に、Googleのスタッフは主に男性であり、経営幹部は長い間、女性従業員の数を増やすことを優先事項としてきました。しかし、女性がGoogleを去ったという事実は、単に男女平等の問題ではなく、収益に影響を与えていました。

テクノロジー業界の一流の技術系従業員の市場は非常に逼迫していました。Googleは、その人材をめぐってApple、Facebook、Amazon、Microsoft、および新興企業の大群と潜在的な労働者のために戦っています。そのため、従業員の離職は、費用と時間のかかる新しい採用プロセスを引き起こスことを意味しました。

当時、ピープルオペレーションズを率いていたラズロ・ボックには、それを調査したところ、それが、出産にまつわる問題であることがわかりました。出産したばかりの女性の離職率は、Googleの平均的な離職率の2倍に達していました。当時、Googleは業界標準の出産休暇プランを提供していました。出産後、母親は12週間の有給休暇を得ることができました。

2007年にボックはプログラムを変更しました。母親は、全額給付の5ヶ月の休暇を取得し、また、その休暇を分割して消化することが許可されました。母親は、子供が生まれてから数か月休みをとり、しばらくの間パートタイムで戻って、赤ちゃんの年齢が上がった後でも残りの休暇を消化することが許されましいた。

このようなGoogleの人事部を形成する人たちのことを同社では「ピープルオペレーションズ」と呼んでいます。それは通常の企業では「人事部」に類するもので、人事のプロ、元コンサルタント、アナリストで構成されています。彼らは、優れた社員の採用、コアプログラムの改善、才能の育成などをめぐって、「人事分野を再発明するデータ駆動型のアプローチ」を採っているといいます。

Googleは組織を研究するために社会科学者を雇ったことさえあるのです。People&Innovation Lab科学者たちは、従業員に対して数十回の実験を行いました。それは従業員に401kの手続きをするよう思い出させるときにどのような口調を使うべきか。成功したミドルマネージャーには一定の共通のスキルがあるか。失敗したマネージャーにそれらのスキルを教えることができるか。マネージャーなしで会社を組織できるか。 従業員には現金ボーナスを与えるべきか、それともRSU(譲渡制限付き株式ユニット)、あるいは昇給か、など問いは無数にあったようです。

『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』で、 ボックは、Googleの内部ではルールブックやポリシーマニュアルはあまりない、と説明しています。厳格にテストされたデータに裏付けられた調査により、高度に資格のある従業員の一人一人が自由に最善を尽くして貢献し、他の人が問題を解決するのを助ける文化を築いたといいます。それでも、同社は、職場を「自由度の高い環境」に変えるのに役立つ10の作業規則が存在する、ボックは記述しています。これらには、自分の仕事に意味を与えること、成績優秀者を教師に変えることに焦点を当て、成績優秀者と協力して開発を改善すること、開発をパフォーマンス管理と混同しないこと、質素で寛大であることなどが含まれます。

ボックは元GEのジャック・ウェルチが採用していた、毎年労働者を厳密にランク付けし、下位10%を組織から放出する、スキームを否定しています。報酬、昇進方針、経営慣行、業績管理はすべて、「学習機関」の構築に対する従業員の貢献を促進するように設計されている、といいます。

もちろん、GoogleのHRをめぐる教訓の一部は他の会社にそのまま移植することはかなわないでしょう。検索会社は莫大な利益を上げてきており、その蓄積がなければ、できないことがたくさんあるからです。

参考文献

Farhad Manjoo. "The Happiness Machine  How Google became such a great place to work" Jan, 2015. Slate.

ラズロ・ボック. ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える. 東洋経済新報社 (2015/7/30)

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

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労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

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中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)