Googleのヘルスケア戦略の行方

新型スマートウォッチの発売を予告したGoogleだが、スマートウォッチのゲームでは出遅れており、多くの未解決の問題がある。7年かけてWatchの健康機能を構築し、研究機関とのコネクションを構築してきたAppleに対して、Googleはどのように遅れを取り戻すのだろうか。

Googleのヘルスケア戦略の行方

数カ月にわたる噂の末、Googleは年次開発者会議において「Pixel Watch」と呼ばれる独自のスマートウォッチを、この秋に発売すると発表した。デバイス&サービス担当SVPのRick Osterlohは、Googleが昨年買収したFitbitの活動量とフィットネスのトラッキング機能を含む機能のいくつかを詳細に説明した。 同社は2014年からAndroidベースのウェアラブルOS「Wear OS」を製造しているものの、Googleがスマートウォッチを自社開発するのは今回が初めてとなる。

Googleはスマートウォッチのゲームでは出遅れており、多くの未解決の問題がある。7年かけてWatchの健康機能を構築し、研究機関とのコネクションを構築してきたAppleに対して、Googleはどのように遅れを取り戻すのだろうか。また、健康機能がウェアラブルのマーケティングにいかに重要であるかを考えると、健康部門を再編したGoogleは健康機能を売りとするのか、あるいは、健康という強い切り口なしに、スマートウォッチは成功するのだろうか、という問いも浮上する。Osterlohは、今秋発売予定のPixel Watchについて、今後数ヶ月のうちにさらなる詳細が明らかになるだろうと述べている。

他の大手ハイテク企業と同様、Googleはここ数年、健康やヘルスケアにさらに力を注いできたが、その成果はまちまちだ。スマートホーム機器「Nest Hub」やウェアラブル端末「Fitbit」による睡眠トラッキング技術などの消費者向け製品から、EHR検索ツール「Care Studio」や臨床向けAIまで、Googleはヘルステックへの注力を強め、ヘルスケア市場への参入を拡大させてきた。

Googleは、Appleと同様に、パーソナル・ヘルスケアにおいて、デバイスと結びついたデータ・プラットフォームという優位性を持っている。例えば、Google Fitは、Wear OSやAppleのiOSと同様に、Android向けの健康追跡プラットフォームである。複数のアプリやデバイスのデータを融合させた1つのAPIセットである。Google Fitでは、Garmin WatchなどのAndroid対応デバイスを接続することで、健康情報を一元的に収集することができる。

Pixel Watchのようなハードウェアは医療機関を飛び越えて、人々の健康データ収集を行い、得られたデータにクラウド側で負荷化価値を与えることができるため、重要な戦略の鍵だ。ChromebookからPixelフォン、家庭用デバイスに至るまで、同社の独自デバイスはGoogleユーザーがデータを管理し、Googleがそれをマネタイズする手段を提供している。

Googleはデータ収穫の基盤であるポジションを強めようとしている。Googleとサムスンは5月中旬、Androidアプリとデバイス間でユーザーの健康データを同期するためのツールセットを開発者に提供するプラットフォームとAPIであるHealth Connectを作るために提携したと発表した。これにより、ユーザーは複数の異なるプラットフォームで自分の健康やフィットネスのデータを簡単に記録できるようになるはずだ。

一方、医療機関で収集されるデータも無視できない存在だ。Google Cloudの医療部門を担当するジョー・マイルズは「私たちは、医療におけるAI/MLの次のフロンティアとして、臨床記録や検査結果などの非構造化フォーマットから臨床や業務ワークフローに影響を与えるインサイトを抽出するために、NLPが役立つと見ている」と述べている。同社のクラウド部門は、医療機関に対し、何十年にもわたってサイロ化されてきた医療データに相互運用性をもたらし、人工知能(AI)と機械学習(ML)によって、医療機関がデータから新しい洞察を得るための新しい機会を生み出せると売り込んでいるのだ。

Googleは医療データを活用したヘルスケア・アルゴリズム開発のため病院チェーンと提携も行ってきた。病院チェーンのHCAは、21の州で約2,000の拠点を運営しており、複数年の契約により、デジタルヘルス記録やインターネット接続された医療機器からのデータをGoogleに統合して保存することになったと2021年5月に報じられた。Googleは以前、セントルイスに本拠を置くアセンションなど、米国の著名な病院システムと取引を行い、患者の個人情報へのアクセスを許可されている。Googleとアセンションは、患者情報の検索ツールの開発を目指した。

Googleはまた、フロリダ、アリゾナなどに展開する病院チェーン、メイヨー・クリニックと、膨大な医療、遺伝子、財務データの保存とアルゴリズム開発の取り組みを組み合わせた野心的な取引に成功してもいる。契約では、Googleは必要に応じて患者の特定情報にアクセスすることができることになった。

昨年医療部門を再構成

一見順風満帆にみえる医療部門だが、実際にはその戦略には波乱があった。同社は2021年8月にGoogle Health部門を解散し、その社員をさまざまな取り組みに分散させたのだ。その結果、同部門のトップは会社を去った。インサイダーが入手したリークメモによると、Googleが統一された健康戦略からピボットし、全社で570人の従業員を再配置するため、これらのプロジェクトはGoogleの無数のチームや部門に分割されることになったという。

ヘルスケア専門部門を閉鎖する動きは、Googleにおける統一的なヘルスケア戦略の終わりを告げるものだと、市場情報企業CBインサイツのヘルスケア担当主席アナリスト、ジェフ・ベッカーはFierce Healthcareに語った。「Googleでは、トップダウンで大規模なヘルスケアを追求するのではなく、ビジネスラインの垂直的なヘルスケア戦略に戻ろうとしている。Google全体の分断されたヘルスケア戦略は、決して解決されることはなかった」と述べた。

このヘルスチームの再配置以降も政府機関との人材の回転ドアは続いている。Googleは最近、米国食品医薬品局(FDA)でデジタルヘルスを担当していた人物を採用した。月曜日にLinkedInページに掲載された声明によると、FDAで13年の経験を積んだバクル・パテルは、Googleのグローバルデジタルヘルス戦略および規制関連業務のシニアディレクターを務めることになる。彼は先月、FDAの仕事を辞めている。パテルは珍しい存在ではなく、現FDA長官のロバート・カリフは、元アルファベットの上級顧問であり、Googleの最高健康責任者カレン・デサルボは国家医療IT調整官室(ONC)の前室長である。

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By 吉田拓史
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