金融市場は劇的な変化を遂げた。トレーダーはもはや取引ピットに座って手探りで株を売買するのではなく、今日ではコンピュータ・アルゴリズムによって電子的に取引が行われるようになった。証券取引所の完全自動化により、市場が実行する取引の数が増加し、これにより仲介業者はテクノロジーの利用を拡大することが可能になった。自動化の増加により、従来の人間のマーケットメイカーの役割が減少し、一般的に高頻度取引(HFT)と呼ばれる新しいタイプの電子的な仲介者(マーケットメイカーまたはスペシャリスト)の台頭につながった。

高頻度取引業者は、1つまたは複数の資産クラスにわたって完全に自動化された取引戦略を展開し、短期的な価格の規則性を識別して利益を得る。各取引で少額の収益を得ようとするが、その多くは数ベーシスポイントであり、少額の収益は、大量の取引量によって増幅される。

高頻度取引は、大まかに2つのタイプに分類できる。市場を作る(マーケットメイク)活動と、より積極的なHFT戦略(例えば、統計的裁定取引)。HFTは、アルゴリズム取引の一種であり、取引注文を入力するためにコンピュータプログラムを使用し、コンピュータアルゴリズムが注文のタイミング、価格、注文数量などを決定する。しかし、HFTは、保有期間や取引目的の点で一般的なアルゴリズム取引とは異なる。

しかし、伝統的な機関投資家は長期投資を目的として株を保有するのが一般的であるのに対し、高頻度取引業者はごく短期間、取引を目的として株を保有しているに過ぎない。米国株式市場での取引量の多くは、伝統的な機関投資家のアルゴリズム取引によるものではなく、数百社の高頻度取引業者によるものである。

1980年代後半から1990年代にかけて、金融市場の規制緩和に伴い、トレーダーは従来のオープン・アウトカム・システムを放棄し、世界中で電子取引端末を利用した取引が行われるようになり、画面上での取引へと大きくシフトしました。1990年代以降、市場の流動性の向上と技術の進歩により、HFTの普及には理想的な条件が整ってきました。TABBグループの推計によると、2009年の時点で、HFT手法を採用しているブローカー・ディーラーの自己勘定取引デスクは10~20社、アクティブな大規模ヘッジファンドは20社に満たなかった。独立系の自己勘定取引会社やヘッジファンドは100~300社と考えられている。この数百社のHFT企業が、米国株式市場の取引量の約73%を占めていた。

ヘッジファンドと伝統的な機関投資家の間で緊張関係が生まれ、HFTのメリットとデメリットについての議論が生まれている。HFTの支持者であるヘッジファンド・マネージャーや高頻度取引の専門家は、HFTは市場に流動性をもたらし、他の投資家の取引コストやスプレッドを削減すると主張する。また、HFTはマーケット・メーカーとしての役割を果たし、価格発見を助けるとも主張している。

HFTに反対する者は、バイサイドの機関投資家や機関投資家にサービスを提供する専門家であることが多く、HFTは伝統的な機関投資家が市場への影響を限定して注文を執行する能力を損なうと主張している。反対派は、取引量の市場シェアを追求するために、取引所やブローカー・ディーラーは伝統的な機関投資家を犠牲にして高頻度取引を行うトレーダーに便宜を図っていると主張している。

マーケットメイカーに変わる「市場仲介者」

一過性の価格変動は、ノイズや短期的なボラティリティとも呼ばれ、経験の浅い投資家が真の価格を判断することを困難にします。このため、投資家は売るべき時に買ったり、買うべき時に売ったりしてしまうことがある。HFTはこのリスクを軽減するように見える。HFTの取引は、マクロニュースの発表、市場全体の値動き、指値注文帳の不均衡などの公的情報と相関関係があることがわかる。

HFTは、有価証券を売買するための準備をしておくことで、仲介者の一種の役割を果たしている。市場でのHFTの役割について考えるとき、新しい市場構造と以前の市場構造を比較するのは自然なことだ。証券市場のあり方、特に仲介部門のあり方を考えると、現在の HFTを含んだ市場構造は、伝統的な市場構造というよりも、高度な競争環境に近いものであると考えられる。中心的な問題は、従来の高度に規制されていた仲介セクターの利点(例えば、継続的な流動性供給の必要性や流動性需要の制限など)が、規制に伴うイノベーションの低下や独占的な価格設定を上回る可能性があったかどうかという点である。

金融市場は,資産価格決定にとって重要な二つの機能を持っている:流動性と,情報を価格に組み込むための価格発見である。歴史的には,金融市場は,外部の投資家に即時性を提供することで,これらの目的を促進するために仲介者に依存してきた。証券取引所の完全自動化により、市場の取引能力が向上し、仲介者はテクノロジーの利用を拡大することが可能となった。自動化の進展により、従来の人間のマーケットメイカーの役割が減少し、一般的に高頻度取引(HFT)と呼ばれる新しい仲介者の台頭につながった。

伝統的な仲介者と同様に、高頻度取引業者は保有期間が短く、頻繁に取引を行っている。しかし,伝統的な仲介者とは異なり,高頻度取引業者には他の仲介者が利用できない特権的な市場アクセスが与えられているわけではない。2010年5月6日に発生した「フラッシュ・クラッシュ」は、市場の公正性と市場の安定性と価格効率における高頻度取引の役割について、大きな関心と懸念を呼び起こしている 。

HFTの取引(売買)は、恒久的な価格変動の方向と一過性の価格誤差の反対方向で行われる。これは、彼らの流動性を必要とする指値注文によって行われ、平均的に、また最も変動の激しい日にも当てはまる。対照的に、高流動性供給型の指値注文は不利に選択される。HFTの流動性を要求する指値注文の情報的優位性は、ビッド・アスク・スプレッドと取引手数料を克服してプラスの取引収益を生み出すのに十分なものだ。流動性供給指値注文の場合、不利な選択に関連するコストは、ビッド・アスク・スプレッドや流動性リベートからの収益よりも小さい。

フラッシュ・クラッシュ

2010年5月6日、米国の金融市場では、E-mini S&P 500株価指数先物市場で大規模な自動売買プログラムが急速に実行されたシステミックな日中イベント「フラッシュ・クラッシュ」が発生しました。フラッシュ・クラッシュは、市場の公正性と市場の安定性と価格効率における高頻度取引の役割について、大きな関心と懸念を呼び起こしている。

S&P500、ダウ工業株指数、ナスダック総合指数などの株価指数は、非常に急速に暴落し、反発した。 ダウ工業株指数は、その時点までの日中ポイントの下落幅が2番目に大きく、約9%も急落し、ほとんどが数分以内に下落したが、損失の大部分を回復するにとどまった。株価、株価指数先物、オプション、上場投資信託(ETF)の価格が変動したため、取引量が急増した。2014年のCFTCの報告書では、金融市場の歴史の中で最も激動的な時期の1つと表現されている。

フラッシュ・クラッシュはHFTによってもたらされたと広く推定されていたが、CFTCはフラッシュ・クラッシュがHFTによってもたらされたものではないが、その高速の取引が価格の急速な崩壊を助長した、と結論づけている。

フロントランニング、スキャルピングの実態

HFTが出現する経緯とその状況を知るのに、米国のジャーナリストが記したふたつの書籍が有用だ。まず、そのひとつである『ウォール街のアルゴリズム戦争』(スコット・パターソン著)で経緯を振り返ろう。

1980年代、株式売買が仲買人(マーケットメイカー)を通じて行われていた。マーケットメイカーがその特権的な立場を利用して投資家から不当に利益を抜いている不公平な市場だった。1990年代に入って、アイランド(Island ECN)のような、コンピューターによる自動取引システム(electronic trading platform)が登場すると、米国の金融市場における注文執行の競争は急激に厳しくなった。従来のマーケットメイカーの独占力は決定的に弱体化し,HFT が新たな流動性の供給者として出現することになった。

1990年代終盤にはヘッ ジファンドの投資戦略の中心は世界の金融市場動向のマクロ観測的な視点から為替や商品、株式、債券など世界各国の様々な金融商品を売り買いするグローバル・マクロのような手法から数量分析とコンピューターを駆使した自動取引を中心とした戦略「アルゴリズム・トレーディング(algorithm trading )」へシフトした。アルゴの大きな特徴のひとつはひとつひとつの取引からの利潤は少ないが比較的安全性の高い投資戦略に基づき、自動売買によって短期間のうちに取引を繰り返し、ときにはレバレッジを利用することによって、薄利多売の投資戦略で最終的に大きな利益を上げようとするものだ。
HFT の投資戦略は自動売買と薄利多売という点では、2000年代以降のクォンツ的なヘッジファンドの投資戦略と共通する。一方でレバレッジはさほど重要ではなくそのかわりに「スキャルピング(scalping)」のような比較的単純な取引戦略を超高速で大量に繰り返すことに特化している。そのため物理的なスピードを徹底的に追及しているのだ。これを可能にしたのは技術進歩の恩恵を受けた取引システムの高速化でありそれに伴う取引コストの大幅な低下だった。

「フラッシュ・ボーイズ」

もうひとつの有用な書籍は『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス著)である。フラッシュ・ボーイズと呼ばれるHFT業者は取引所のデータセンターに証券会社がサーバーを設置し、取引所の株式売買システムとダイレクトに接続できるようにする手法を採用した。遅延の要因であるサーバー間の物理的な距離を短くしたことで、注文を出すまでにかかる時間を100 分の1 秒単位から 1000 分の 1 秒単位に縮めた。

フラッシュ・ボーイズはこの速度の絶対的な優位性を活かし、劣勢にあることに気づきすらしない大口投資家の取引を先回りし頭ハネ(スキャルピング)をする。アメリカには 10 以上の取引所がある。トレーダーは一つ一つの取引所の株価を確認して買うという面倒なことはしない。社内のトレードシステムで買い注文を出したら、最適なルートで自動で注文した株数分、各取引所に注文が発注されるが、ここで興味深い共謀が起きており、注文内容が取引所に着弾する前にHFTはそれを知り、その注文に先回りできるのだ。2013年当時の新世代のHFTであるゲッコー社やトレードボット社のアルゴは平均株保有時間2秒、注文の90%は取り消すという人間にはついていけない次元に到達していた。この結果、昔ながらのトレーダーは必要がなくなってきた。

このような高速取引を行うには大掛かりなインフラが必要である。物理的なスピードが重要になった顕著な例としてSpread Networks 社がシカゴ(CME)とニュージャージー(Nasdaq データセンター)間をできるだけ短い距離でつなぐ光ケーブルを秘密裏に敷設する様が描かれている。この光ケーブルの敷設には実に3億ドルのコストがかかったが、Spread Networks は2010年に金融機関への高速通信サービス提供を始めるとそのコストを上回る莫大な利益を上げた。

ついに光の速度へ

さらに近年のトレンドを物語る記念碑的なジャーナリストの仕事がBloomberg Business WeekのNick BakerとBryan Gruleyによる ”The Gazillion-Dollar Standoff Over Two High-Frequency Trading Towers” だった。最近のトレンドは光速に限りなく近い「マイクロ波」による通信である。Spreadのサービスが2010年にデビューしたとき、サービスはシカゴからニュージャージー州カーテレットのNasdaqデータセンターへの取引を7ミリ秒未満(ミリ秒は1000分の1秒)で執行できた。言い換えれば、ラインは光速度の約3分の2でデータを移動したということだ。

Spreadの技術は、光の約99%の速度で空中でデータを運ぶことができるマイクロ波無線通信に取って代わられた。光ファイバ回線のガラスまたはプラスチックが信号をわずかに妨害する一方、マイクロ波は空気による障害が少ないため、より高速である。また、米国にはマイクロ波アンテナを収容できるセルタワーが点在していることも理由の1つであるため、マイクロ波ネットワークは通常、ファイバー回線よりも少ない作業とコストで構築できる。Spreadは同社のネットワークの立ち上げに約3億ドルを費やしたが、同社がZayo Group Holdings に売却されたとき、価格は1億3100万ドルだった。「最強」と思えたSpred の価値はあっという間に激減していたのだ。

ダークプール

いずれにせよ、HFTに捕食されている大口投資家は「ダークプール」に逃げ場を求めるようになった。ダークプールとは証券会社が提供するサービスで、証券会社内のシステムで投資家の売買注文を付け合わせて取引を行う方法。取引参加者が匿名で価格や注文量などの取引内容が外部から見えにくいことからダークプールと呼ばれる。匿名性の高い取引が可能。注文情報の匿名性が確保されており、大口投資家はフラッシュ・ボーイズからさやを取られる可能性がなくなるという算段なのだ。

金融市場のエコシステムにも重大な影響が生まれていた。取引所から「リクイディティプロバイダー(流動性供給者)」に指定されている証券会社がある。リクイディティプロバイダーとは、特定銘柄について売り注文、買い注文、あるいはその両方を相場に即して随時出し続けている金融機関のことである。リクイディティプロバイダーは公共的な便宜のために絶えず注文を出しておくことによって、一般の投資家に相場観についての情報提供をしているという、大事な役目を担う。

一般投資家が注文を出す時点でその株には売り注文も買い注文もでていない状況が存在するだろう。しかし、リクイディティプロバイダーは、このような状況でも、100万で注文を出しておくなどして、積極的に流動性確保に努めている。しかし、リクイディティプロバイダーの指値注文は「フラッシュボーイ」の格好の餌食になってしまうのだ。

これは新しい「アスリート競技」だ。HFTにカモられるのを防ぐため、大口投資家は閉じられた自分達だけの取引所「ダークプール」を作りアルゴから避難した。しかし、ダークプールにもアルゴは入ってきて、ダークプールと他のプールとの価格差が発生した瞬間、その価格差から利幅を抜いていった。この競技は人口亭に利ざや取りのチャンスを生み出しているだけで、金融市場に求められている資源の効率的な配分をまったくもたらしていなかった。

追記

「HFT業者に存在意義はあるか」とはよく問われる質問である。私の答えはふたつある。ひとつは「全く意味がない」だ。もうひとつは「もう人間が金融取引に介在する必要性がないことを示している」だ。金融取引は全部機械にまかせてしまえばいいのではないか。

参考文献

  1. Jonathan Brogaard, Terrence Hendershott, Ryan Riordan. HigH Frequency Trading and Price Discovery. Eurpean Central Bank. Nov 2013.
  2. Albert J. Menkveld. High Frequency Trading and the New-Market Makers. Journal of Financial Markets, Vol. 16, 2013. Last revised: 31 Dec 2013.
  3. X. Frank Zhang. High-Frequency Trading, Stock Volatility, and Price Discovery. Yale School of Management. Dec, 2010.
  4. Andrei A. Kirilenkoet al. The Flash Crash: High-Frequency Trading in an Electronic Market.
  5. Kirilenko, Andrei; Kyle, Albert S.; Samadi, Mehrdad; Tuzun, Tugkan, The Flash Crash: The Impact of High Frequency Trading on an Electronic Market. Original Version: October 1, 2010 This version: May 5, 2014.

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