量子コンピュータ企業の初上場、商業化の試金石
Image by IonQ

量子コンピュータ企業の初上場、商業化の試金石

量子コンピュータはビッグテック企業と新興企業がしのぎを削る非常に競争的な領域だ。そんな中、初めての上場企業となったIonQは商業科の試金石となる。

吉田拓史

要点

量子コンピュータはビッグテック企業と新興企業がしのぎを削る非常に競争的な領域だ。そんな中、初めての上場企業となったIonQは商業化の試金石だ。


10月1日、米メリーランド州を拠点とするIonQが挑戦的な事業計画とともに上場し、量子コンピュータ会社として初めての上場を達成した。

IonQの上場は、特別目的買収会社(SPAC)との合併によるものだ。同社にはシリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルであるNew Enterprise Associatesや、Googleの親会社であるAlphabetのVC部門である米GVやAmazon.com、ビル・ゲイツの気候変動対策基金Breakthrough Energyが出資している。今年初めにソフトバンクGが主導した資金調達を含め、非公開企業としての最初の6年間で8,200万ドルを調達した後、上場して6億3,500万ドルを調達した。

IonQもSPAC上場企業に共通する挑戦的な事業計画を携えている。2020年代中頃に事業が急速にエスカレートし、収益が2024年の6,000万ドルから2026年には5億2,200万ドルに跳ね上がると予測している。この収益予想は量子アプリケーションの開発に試験的にお金を出した企業が、本格的に量子アプリケーションを使い始めたときに、収益が飛躍的に伸びるとの予測に基づいたものだ(図1, 2参照)。

量子は次世代コンピューティングの象徴であり、業界が広く信頼できるハードウェアを製造するにはまだ何年もかかると思われるが、IonQの業績は市場がこの技術の可能性をどのように見ているかを示す指標となるはずだ。

同社はすでに22量子ビットの量子コンピューターを製造しており、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudのプラットフォームを通じて利用可能にしているとされる。

金融大手フィデリティはIonQのハードウェアを使用して、過去のデータを解析して借り手がローンを滞納する可能性を判断するアルゴリズムを作成しており、金融大手ゴールドマンサックスはある企業の株価の動きが別の企業の株価の変化によってどのような影響を受けるかを判断するために使用している。

メリーランド州のIonQは、強力なレーザーを用いて希土類金属イッテルビウムのイオンを捕捉し、それを用いて量子ビット(量子コンピューティングの基本単位)を形成する技術を開発している。

メリーランド大学とデューク大学の教授であるChristopher MonroeとJungsang Kimが、ベンチャー企業New Enterprise AssociatesのパートナーであるHarry WellerとAndrew Schoenの協力を得て、2015年に共同創業した企業だ。

Monroeは、米国国立標準技術研究所(NIST)のスタッフリサーチャーとして、ノーベル賞受賞者の物理学者デビッド・ワインランドと共同で、イオントラップ(電場や磁場を組み合わせて荷電粒子を捕捉する装置)を用いたチームを率いて、制御可能な初の量子ビットと制御可能な初の量子論理ゲートを作製し、大規模なイオントラップコンピュータのアーキテクチャを提案したことがきっかけで、量子コンピューティングの研究を始めた。

KimとMonroeは、IARPA(Intelligence Advanced Research Projects Activity)から資金提供を受けた大規模研究の結果として、正式なコラボレーションを開始。 二人は、Monroeのイオントラップの研究と、キムのスケーラブルな量子情報処理と量子通信ハードウェアの研究を組み合わせて、「Scaling the Ion Trap Quantum Processor」と題した論文を『Science』誌に寄稿した。

この研究提携は、IonQの設立の種となった。2015年、New Enterprise Associatesは、モンローとキムがScience論文で提案した技術を商業化するために200万ドルを投資した。

IonQは2024年から顧客の利用形態が拡大し、加速度的に増収増益が起きると予測。出典:IonQ, Investor presentation.
図1. IonQは2024年から顧客の利用形態が拡大し、加速度的に増収増益が起きると予測。出典:IonQ, Investor presentation.
IonQは様々なユースケースに拡大すると予測している。出典:IonQ, Investor presentation.
図2. IonQは様々なユースケースに拡大すると予測している。出典:IonQ, Investor presentation.

Amazonの元幹部でIonQのCEOを務めるピーター・チャップマンは、同社の量子マシンは「数年後には世界最速のスーパーコンピュータに匹敵する」と主張している。

チャップマンによると、量子マシン上で動作し、シミュレーションを行うために設計されたソフトウェアは、すでに従来のコンピュータよりも優れた性能を発揮しているという。これまでの研究では、機械学習モデルの学習時間を短縮するために量子コンピュータを使用することが注目されてきた。しかし、これらのアルゴリズムを実行できる量子システムは、科学実験から大規模な生産へと移行するには至っていない。

チャップマンは、この技術が通常の株式市場での投資よりもはるかに高いリスクを伴うことを認めている。

IonQは株式公開によって調達した資金を、2023年末までに64量子ビットのチップを製造するための資金に充てる予定。これは、多くの専門家が、量子コンピュータがクラウドでアクセス可能な古典的スーパーコンピュータを確実に凌駕するために必要だと考えているレベルだ。

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