米IPO復調は脆弱も出口を探すユニコーンは長蛇の列

米株式市場では、大型上場が3つ続き、IPO復活の機運が高まるが、実際の需要は小さいままだ。それでも、ユニコーンたちはこの出口に長蛇の列を作り始めている。

米IPO復調は脆弱も出口を探すユニコーンは長蛇の列
2023年9月14日木曜日、米ニューヨークのナスダックで行われたアームのIPOで、ゲストとともにオープニングベルを鳴らすレネ・ハースCEO(中央)。ソフトバンク・グループ株式会社は、今年最大の新規株式公開で48億7000万ドルを調達した。写真家 マイケル・ネーグル/ブルームバー

米株式市場では、大型上場が3つ続き、IPO復活の機運が高まるが、実際の需要は小さいままだ。それでも、ユニコーンたちはこの出口に長蛇の列を作り始めている。


メール配信ソフトのKlaviyoは20日(米国時間)、新規株式公開(IPO)の価格を市場予想レンジを上回り、この1週間で3件目となる米大型上場で5億7,600万ドルを調達した。

この株式売却は、19日にオンライン食料品配達会社のインスタカートが取引デビューしたのに続くもので、インスタカートは6億6,000万ドルのIPO後、株価が最大で43%上昇した(*1)。1株あたり30ドルの公募価格は、28ドルから30ドルのレンジの最高値であり、関係者によると、23倍以上の倍率を勝ちぬかないとインスタカート株は手に入らなかったという。

先週には、ソフトバンクグループ(SBG)傘下の英半導体設計会社アームが今年最大の米IPOを果たし、取引初日で25%上昇した。アームの公募株は50倍程度の倍率と言われた

さらに、金利のプレッシャーも遠のいた。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月19日〜20日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、金利を据え置いた。FRBは年内の追加利上げを想定するものの、少なくとも当面の株式市場への冷水は回避された。

これだけ聞くと「IPOの復活」機運が高まっている、と言えるだろう。しかし、早くもメッキは剥がれ落ちつつある。本稿執筆の21日時点(日本時間)で、インスタカートとアームは最高値から5分の1以上下落し、マイナス圏にある。3番手のKlaviyoの初日の上昇幅は9%にとどまった。

特にインスタカートとアームのIPOは、株式市場が華やかなりし頃のそれとは異なる。両者は、売出し数を絞ることで初日の上昇を引き出した。アームのIPOはSBGの持ち分の売出しで賄われ、インスタカートに関しては浮動株は6.7%という状態(*2)であり、そのほとんどを株式報酬に伴う費用に当て(*3)、同社がバランスシートに追加できるのは1億ドル強のみだった。これらの上場は「投資家や従業員のためのイベント」の側面が大きい。

この売出し数を制限する手法は、東証グロース(旧マザーズ)の「上場ゴール」でもよく用いられる。上場ゴールとは、上場後の見込みの薄い泡沫企業を非常に低い時価総額で株式市場に入場させる集団行動を指す。

ただし、IPOさえ叶うのならば、万全の状態でなくとも、それを実現しようとする非上場企業は多いだろう。プライベート資本市場には、1,000を超えるユニコーンが待機しており、投資家と従業員は流動化イベントを心待ちにしている。近いうちに同じようなIPOが見られるかもしれない。

エグジットの明確化は、ベンチャーキャピタル(VC)が抱える待機資金の解放を促すかもしれない。米メディアThe Informationによると、米VCは2,710億ドルの「ドライパウダー」を抱えているという。ドライパウダーは、リミテッド・パートナー(LP)から約束されているが、未実行の投資枠のことを指す。米国のVCは最終的な投資の決断を下すと、LPからの資金拠出を要請する(キャピタルコール)。この過程を通じて、LPの資金がVCのもとを通過し、スタートアップに届く。

ハイテク・セクター以外の企業も株式公開を模索している。独サンダルメーカーのビルケンシュトックは先週IPOを申請し、ニューヨーク証券取引所に株式を上場する予定だ。同社は上場株数や予想価格帯を明らかにしていない。

脚注

*1:米リサーチ会社PitchBookのデータによると、この額は2021年に390億ドルで実施された2.65億ドルのラウンドによる最後の非公開評価額から70%以上のディスカウントである。

*2:インスタカートの「浮動株」(インスタカートの株式総数のうち、現在実際に市場で取引されている株式数の割合)は、発行済株式総数のわずか6.7%に過ぎない。

*3:インスタカートはIPOで得た現金収入の約84%を、株式報酬関連の納税に充てた。

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