大型IPOの失敗率が高い

今年の大型IPOでは発行価格を下回るケースが相次いでいる。潤沢な資金によってユニコーンの規模が急拡大しているが、それに伴って膨らみすぎた風船が弾ける確率は上がっている。

吉田拓史

要点

今年の大型IPOでは発行価格を下回るケースが相次いでいる。潤沢な資金によってユニコーンの規模が急拡大しているが、それに伴って膨らみすぎた風船が弾ける確率は上がっている。


11月初め、Paytmの創業者であるビジェイ・シェカー・シャルマは、南インドの丘陵地帯にあるティルパティを訪れた。インド史上最大のIPO(新規株式公開)を行う前に、「神の祝福を求める」には、幸運と自らの富をもたらすことで有名なティルパティ寺院が適していた。

しかしIPOは台本通りにはいかず、フィンテックの株は公開から2日間で3分の1以上も急落し、インドの株式市場史上最悪のデビューとなった。25億ドルを調達し、200億ドルと評価されたこの株式は、その後回復したが、発行価格の約23%下回ったままだ。

売り出し株と新規発行株の総額で25億ドルと、同国IPO史上最大の買い付け募集に対し、1.89倍の応募があった。今年インドのテック企業のIPOでは応募倍率が数十倍に上る過熱状況が続いていたが、Paytmへの市場の反応は冷めていた。

6月に発表した2021年1-3月期の業績は、前年度比10%減となったが、販売促進費などを大幅に削減し、最終的な赤字額は前年度比40%減の170億ルピー(約260億円)となった。赤字の削減は評価されたが、収益の伸びを重視する投資家には嫌われた。さらに心配されたのは、中期的な収益性だ。Paytmが黒字になる日は来るのだろうかということだ。

Paytmは21年度の収益の49.7倍で評価されていた。Paytmの決済ベースのビジネスモデルは、政府が支援するインド国立決済公社(NPCI)が開発したリアルタイムのリテール決済システムであるUnified Payment Interface(UPI)によって破壊された。

UPIは2019年12月に消費者と加盟店の両方に向けて開始され、PaytmのGMV(商品総価値)の65%を占めているが、26年度までにはさらに85%まで増加すると予想している。Paytmは独自決済基盤とUPIの双方をサポートしているものの、UPIアプリの地位を固めたPhonePeとGoogle Payに大きく溝を開けられた。

IPOの大失敗により、Paytm、その株主であるソフトバンクとアントグループ、IPOのブックランナーであるゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、シティグループに注目が集まっている。また、投資家や起業家の間では、インドが米国や中国に次ぐハイテク新興企業の主要な進出先としての地位を確立するために期待されていた、一連の新規株式公開が頓挫するのではないかという懸念が広がっている。

インドのフィンテック企業であるMobiKwikはPaytmの暴落の後、当初11月に予定していたIPOを延期し「適切な時期に上場する」と発表した。

競合のフィンテック企業BharatPeの共同創業者であるAshneer Groverは「Paytmの上場の失敗は、インドにおけるIPOの熱狂的なサイクルを終わらせるものだ」と公式に批判した。「私は投資家に、Paytm以前とPaytm以後の2つの市場が存在するとよく言っていた。理由はいたってシンプルで、PaytmのIPOの価格設定が間違っていたからだ」。

49%が発行価格下回る

この傾向は世界的なものだ。FTが引用したDealogicのデータによると、ロンドン、香港、インド、ニューヨークで今年行われた10億ドル以上の資金調達を行ったIPO43社のうち、49%が発行価格を下回って取引されている。

これに対し、2019年に上場した大型IPOのうち、約33%が市場に出てから1年後に発行価格を下回っており、2020年に上場したIPOのうち27%が取引開始から1年後に発行価格を下回っているという。2021年は失敗案件の割合が顕著に高まった年となった。

失敗したIPO企業の中には、英国のフードデリバリーアプリDeliverooや代替食品メーカーのOatly、インドの決済大手Paytmなど、上場した中でも特に有名な企業が含まれている。

投資家は過去10年間で、公開市場よりも高いリターンを求めて、プライベート・エクイティ・ファンドに200兆円以上の資金を投入してきた。しかし、コンサルティング会社のBainによると、2009年以降、米国の公開株式のリターンは、米国のバイアウトのリターンと15%程度で一致している。この同等性は、プライベート・エクイティ・ファンドに、次の取引に移るために資本をより早くリサイクルするよう圧力をかけているようだ。つまり、投資先を早くIPOさせ、投下資本を流動化し、次の投資に回そうとする傾向があるということだ。

FTによると、ゴールドマンサックスは今年、10億ドル以上を調達した13件の案件を主導したが、そのうち9件が赤字となっている。その中にはDidiや米国の株式取引プラットフォームRobinhoodも含まれている。ライバル銀行のモルガン・スタンレーが主導した14件のうち、Paytmを含む6件はIPO価格を下回る価格で取引されていた。

しかし、それでも新規株式の大量発行には歯止めがかからない可能性が高い。近年のベンチャーキャピタル投資に投下された資本の量は未曾有のものであり、それらは常に出口をさがしているからだ。