メタの影の支配者: 米政界と社内で「無限の影響力」

メタのグローバル公共政策担当バイスプレジデントのジョエル・カプランは、社内と政界を股にかけた巨大な影響力を誇っている。ワシントンDC最大のロビー団体を指揮し、マーク・ザッカーバーグを災難から救ってきた。

メタの影の支配者: 米政界と社内で「無限の影響力」
2018年5月23日(水)、フランス・パリのエリゼ宮で開催された「Tech For Good」会議に参加する、フェイスブックのCEO兼創業者のマーク・ザッカーバーグ(右)と同社グローバル公共政策担当バイスプレジデントのジョエル・カプラン(左)。Christophe Morin/Bloomberg via Getty Images.

米テクノロジー誌『Wired』2022年4月号はフェイスブックのグローバル公共政策担当バイスプレジデントでワシントンDCオフィスのリーダーであるジョエル・カプランについての特集記事を掲載している。

カプランは保守系の政治アドバイザーで、ブッシュ政権のホワイトハウスで8年間働いた後、エネルギー企業のロビイストとして活動し、2011年にフェイスブックに採用された。その在任期間はフェイスブックが世界的な支配者に上り詰めた時期と重なる。

彼はフェイスブックに関する政治的発言を支配し、ワシントンDC最大のロビー団体を指揮し、マーク・ザッカーバーグを災難から救ってきた。

カプランはドナルド・トランプの極めて扇動的な投稿に対してフェイスブックが窮地に立たされていたときにザッカーバーグを救ったという。ジョージ・フロイドの死去に伴う「ブラックライブズマター」(黒人の命をないがしろにするな)の抗議デモに対し、トランプ大統領(当時)が米軍の支援を約束し、フェイスブックで「略奪が始まれば、銃撃が始まる」という扇動的な投稿を拡散させたとき、ホワイトハウスと生じた鋭い対立をワシントンにくまなく広がる影響力を行使して解決したのがカプランだった。トランプは最終的にカプランが設定したレールに収まることを選び、フェイスブックはホワイトハウスの敵にならずに済んだという。

「52歳のカプランは、ワシントンで歴史上最も強力なロビー活動を展開し、連邦政府だけでなく、各州の州都や、ますます熱心になっている州弁護士との関係も管理している。ドイツのプライバシー規則からアイオワ州の銃刀法、インドの政党まで、フェイスブックのビジネスと29億人のユーザーを取り巻く国際法や政策を評価し、形成し、しばしば妨害しているのだ」とWired誌に寄稿したスタンフォード大学ロースクールを拠点とするライターであるベンジャミン・ウォフォードは書いている。

フェイスブックは昨年2,000万ドルをロビー活動に費やし、その額は公開企業としてアマゾンに次ぐ米国第2位である。このロビイストの軍団を率いるのがカプランだ。

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カリフォルニア大学バークレー校のコンピュータサイエンス教授で、最近バイデン政権のホワイトハウスの技術改革に関するアドバイザーを務めたハニー・ファリドは、「ジョエル・カプランは、おそらくほとんどの人が聞いたこともないような、フェイスブックで最も影響力のある人物だ」とウォフォードに語っている。

フェイスブックはこの4年間、リベラル派と保守派を納得させるために、不可能な綱渡りをしてきたが、カプランは、政治家をフェイスブックのコミュニティ基準から除外したり、ブライトバートのようなフェイクニュースサイトを処罰から守ったり、フェイスブックの政治的偏向を緩和するようなアルゴリズムの変更を抑制するなど、保守派の利益を叶えるための極めて重要な役割を担ってきた。

「著名な技術系コメンテーターであるカーラ・スウィッシャーは、彼を『脅威』と呼んでいる。昨年、コモンセンス・メディアのCEOで、フェイスブックを徹底的に批判しているジム・スタイヤーは、カプランが『民主主義に大きなダメージを与えた人物の一人として歴史に名を残すだろう』と公言した」とウォフォードは書いている。

2015年12月にトランプがイスラム教徒へのヘイトスピーチを投稿した時には、カプランは投稿の削除に反対し、同社の中に「政治家がフェイスブックのコミュニティ基準に違反しても罰せられないルール」が生まれることになった。世界中の政治家がこのルールを活用し、過激で扇動的な言動をフェイスブックで拡散させ、政治的利益を得ている中、カプランのチームはフェイスブック上の偏向を減らし、過剰な分極化を防ぐ「コモングラウンド」と呼ばれる、最高製品責任者クリス・コックスが主導した取り組みを潰したとされる。

しかし、2021年はカプランの著しい影響力に逆噴射が与えられた1年となった。2021年に起きた2つの出来事(フェイスブックが発生の状況に深く関与していた1月6日の国会議事堂襲撃事件と、プロダクトマネージャーから内部告発者となったフランシス・ホーゲンの証言)が、フェイスブックに対する超党派の立法の機運を高めている。最近では、カプランはワシントンDCの司法長官の標的となり、その弁護士は彼の電子メールを見るよう要求しており、彼の解任を求める市民運動も行われている。

Wiredの特集は非常に詳細に渡っており、カプランの影響力がフェイスブック社内とワシントン、そして間接的には国際政治にまで「無限」の伸張をしていたことを描いている。超党派の立法はフェイスブックにさらなる打撃を与えるか、それともカプランの影響力が勝るのか、今年は社会に大きな悪影響を及ぼしてきたと考えられるソーシャルメディア企業の岐路の年となりそうだ。

https://www.wired.com/story/facebook-joel-kaplan-washington-political-influence/

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