ありふれたウイルスが多発性硬化症の引き金か
今回の研究では、成人期初期にEBVに感染すると、MS発症のリスクが32倍になることなどが明らかになった。専門家によれば、今回の研究結果は、EBVが単にMSと関係しているだけでなく、MSの重要な引き金となっていることを示す「説得力のある」証拠になる。

世界で280万人が罹患する進行性の病気で、未だに決定的な治療法がない多発性硬化症(MS)は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)の感染が原因である可能性が高いことが、ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の研究者を中心とした研究で明らかになった。
多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄、視神経のあちらこちらに病巣ができ、様々な症状が現れるようになる病気だ。MSになると多くの場合、症状が出る「再発」と、症状が治まる「寛解」を繰り返す。
EBVがどのように多発性硬化症を引き起こすのか、また、なぜごく一部の人に多発性硬化症が起こるのかは、まだ明らかになっていない。成人の約95%がEBVに感染しており、子供の頃に発症することが多い。一方、MSは20歳から40歳の間に発症することが多く、米国では約100万人が罹患していると推定されている。しかし、これまでの研究では、幼少期のウイルスと後年の慢性脱髄疾患との関連性が一貫して指摘されてきた。
今回の研究では、成人期初期にEBVに感染すると、MS発症のリスクが32倍になることなどが明らかになった。専門家によれば、今回の研究結果は、EBVが単にMSと関係しているだけでなく、MSの重要な引き金となっていることを示す「説得力のある」証拠になる。
ハーバード大学の神経疫学者Kjetil Bjornevik博士が率いるチームは、1993年から2013年の間に1,000万人以上の現役軍人のコホートから採取された非常に豊富な血液血清サンプルを調査した。これらのサンプルは、比較的健康で体力のある若い軍人から、感染症、特にHIVの標準的なスクリーニングの過程で採取された。
このコホートには、MSを発症し、診断前に最大3つの血清サンプルを保管していた801人のメンバーがいた。これにより、MS患者が発症する数年前の血清サンプルを過去にさかのぼって調べることができた。また、801人のMS患者から得られたサンプルを、MSを発症していない1,566人のコホートメンバーから得られたサンプルと比較することができた。
MSを発症した801人のうち、1人を除く全員が、MSの診断時にEBV感染を示す抗体を持っていた。そして、それらのEBV感染のほとんどは、人生の早い時期に発生していた。20年という期間の初めには、801人のMS患者のうち35人だけがEBVに対して陰性だった。しかし、期間終了時には、その35人のうち34人が診断前に抗EBV抗体を獲得しており、つまりセロコンバートしていたのである。
Bjornevikらは、最初にEBV陰性となった35人と、同じく最初に陰性となった対照群の107人を比較した。その結果、MSを発症した35人のセロコンバージョン率は、対照群よりも有意に高いことがわかった。これらのデータから、セロコンが検出された人は、MS発症のリスクが32倍になると算出された。