TaboolaとOutbrainの合併が示す「ネイティブ広告の悲しい結末」

TaboolaとOutbrainの合併は、ネイティブ広告が旬を終えたことを示している。TaboolaもOutbrainもユニコーンに成長したものの、大手テクノロジー企業の河川傾向が高まる中、事業の将来に陰りが見え始めており、合併の他の選択肢はなかった。

TaboolaとOutbrainの合併が示す「ネイティブ広告の悲しい結末」

デジタル広告会社であるTaboolaとOutbrainは先月、合併を発表した。彼らの製品はデジタル広告業界では「コンテンツレコメンデーション」と呼ばれている。ニュースサイトに「おすすめ機能」をつけて広告をまぶす事業である。彼らはプレスリリースのタイトルを「FacebookとGoogleとの有意義な競争相手を創造するため、TaboolaとOutbrainが合併する」としている。

もちろん、米国のデジタル広告業界の人なら、広告収益のほとんどが複占(Duopoly)に集中していることを知っている。FacebookとGoogleである。近年少し変化が起き、Amazonが強力な三番手の地位を確固たるものにしている。AmazonにはUXの低下のような副作用が見えるものの、購買というアクションに最も近い広告販売者という特権を享受している。三者以外のプレーヤーもマイクロソフト、AOL等で構成され、世界で最も強者への集中が進んだ業界に仕上がった。市場調査会社eMarketerによると、Google、Facebook、Amazonは米国のデジタル広告支出の70%を握っているという。

Taboolaは合併の結果そのサイズを二倍近くにすることに成功した。同社は、23のオフィスをもち、50か国で営業することになる。その顧客にはCNBC、NBC News、USA TODAY、産経新聞社、Huffington Post、Microsoft、Business Insider、The Independentなどの大手パブリッシャーを含む20,000のパートナーが加わる。同社は月間ユーザー数は毎月26億人に達する、とプレスリリースで述べている。もちろんこれは、彼らが同じ顧客を同じ顧客と識別しないまま数えたせいで26億に達しているだけで、「26億人がTaboolaの製品に月に一度でも接触する」というわけではないと推測する。

報じられている合併の条件はこのとおりだ。Taboola CEO の Singoldaは合併後の会社のCEOの地位を引き継ぐ。合併契約の条件に基づき、Outbrainの株主は、合併会社の30%に2億5000万ドルの現金を加えた株式を受け取る。現在の経営陣と両社の役員は、新しい役員会を構成する。Taboolaの社長兼COOであるEldad ManivとOutbrainの共同CEOであるDavid Kostmanは、合併後の統合のあらゆる側面の管理に密接に協力する。Outbrainの共同CEOであるYaron Galaiは、合併後の会社の成功に引き続き取り組み、合併後12か月間、移行を積極的に支援するとプレスリリースは説明している。

今回はデジタルマーケティング、デジタルメディア、広告業界等にいる人を対象読者としている。僕は以前、TaboolaとOutbrainの双方のCEOにインタビューをしたことがあるし、業界のエコシステムを理解しており、合併の良い説明ができるのではと思い、この記事を書いてみた。結論は「ネイティブ広告が終盤戦を迎えた」ということに尽きる。これですべてが予見できたならここで読むのをやめればいいかもしれない。

Ⅰ. 合併の背景

TaboolaとOutbrainは広告主がインターネットトラフィックを獲得するのを支援する仲介事業のライバルである。トラフィックをどこから持ってくるかというと、パブリッシャーからいただく。従来型のディスプレイ広告では満足できる収益を得ることのできないパブリッシャーは、追加の収益源を確保するためにサイトの下部を明け渡す。この下部に誰もが見たことのある「ウィジェット」を差し込む。これでサイト間を結ぶ「高速道路」が開通したわけだ。そしてそこには広告コンテンツという料金所ができあがり、通行者がクリックすると、裏側で広告主がレコメンド屋とパブリッシャーに対価を払うという面白い仕組みである。

このウィジェットへの関心が高まったのは、インターネットに慣れたユーザーがバナー広告をクリックしなくなり、新しい一手が模索され始めたときだった。ほんの数行のコードで、ウィジェットが挿入され、パブリッシャーは関連コンテンツと広告を紹介することでお金を稼ぐことができた。このウィジェットはバナー広告のような特定のスロットルを持たず、あたかも記事の最中に登場している印象を与えるためか、彼らは自らの商品のことを「ネイティブ広告」と呼んだ。

ご存知の人も多いだろうが、ネイティブ広告という言葉の定義については諸説ある。モバイルアプリの中に掲出される広告のことをモバイルネイティブ(モバイル独自のもの、のような意味合い)と呼ぶ人がいるし、フィード上に通常の記事と同じ体裁で現れるタイアップ記事広告のことをネイティブ広告と呼ぶ人もいる。これは日本に言葉が翻訳されるときにもかなり混乱があったことも知られており、これについて話し合うのはあまり生産的ではない。広告は広告であり、ネイティブという言葉を弄ぶ人たちが、主流派ではなくなったいま、この区分自体に意味がないだろう。

OutbrainとTaboolaは常にこのニッチ市場のリーダーだった。2006年とその一年後の設立以来、OutbrainとTaboolaは多くの類似点を持っている。両方ともニューヨークに本社があり、イスラエルに開発センターがある。二人の創業者は兵役を経験している。両方とも同じカテゴリの製品を提供し、どちらも大規模な資金調達(Taboola:1億6000万ドル、Outbrain:1億9400万ドル)を行い、企業価値10億ドル超えのユニコーンになり、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

Ⅱ. 合併の要因

では、この両者が合併を要因はなにか?僕は以下のような理由があると思う。とりたてて目新しいインサイトではないだろう。

  1. ニッチ市場を取り合っている場合ではない
  2. 投資家がリターンを回収するべきときがきた
  3. コンテンツレコメンデーション事業の先行き

順に追っていこう。

1.ニッチ市場を取り合っている場合ではない

この契約の完了までには何年もかかっている。両者の合併協議は2015年頃から報道されている。イスラエルのビジネスニュースサイトCalcalistが2017年の合併交渉を報じた記事によると、彼らは2017年の交渉以前にすでに2回同様の協議を開催したが、双方が資産がどのように分割されるかについて合意できていなかったとCalcalistは記述している。同メディアは、両者の合併は理にかなったものであるが、両者の株主数が多いことが障害になったようだと、記述している。

The Wall Street Journalは、Outbrainが2014年にナスダックに株式を上場するための承認を内密に提出したと報告している。邪推をするなら、Outbrainは上場での出口が見つからないのならば、同規模の同業者であるTaboolaとの合併によって、出口を見つけるか、合併後のIPOで出口を見つけた方がいい、という結論にたどり着いたのかもしれない。

実際、両者の顧客層はかぶっており、片方の受注が片方の失注を意味しうるという、とてもゲーム理論的な状況にあった。また広告事業は規模に伴い収益が指数関数的に増える性質があることから、合併により規模の経済を楽しもうとするのはとても合理的な選択肢なはずである。

デジタル広告市場の寡占状況は決定的であり、いつしぼむともしれないニッチ市場を争うこと自体があまり旨味のないゲームに成り果てていた。

2. 投資家がリターンを回収するべきときがきた

この3、4年でアドテク企業の合併買収が盛んに行われた。アドテクのVC投資は2010年代前半に盛んに執行されたので、そろそろ出口を見つけないと行けない時期に差し掛かっていたはずであり、特にこの2、3年は市場の寡占について皆が激しく議論をし、そしてそれに抗う術がないことをしり議論をやめた、という2、3年だった。寡占の正当性についての議論は、2020年の米大統領選挙の方にスライドしていっており、政治問題のような感じである。独占的な巨大プラットフォームは経済や社会にとっていいものなのか、悪いものなのか、は最近始まった議論であり、答えがあるのかどうかわからないが、政治的な決着をつけるとなるなら、人は感情的になって何らかの結論を生み出すのではないだろうか。(途中から本稿に全く関係のない話をしてしまったようだ。本題に戻ろう)

以下はプレスリリース等からまとめた企業情報だが、Outbrainの投資家の方がベンチャーキャピタルの比率が高いように”見える”ことからも、出口戦略の要請が強まったと推測できるかもしれない。契約は、Outbrainの株主にTaboolaの株式30%に加えて、現金の2億5000万ドルが支払うことを規定しており、ファンドの満期等の理由で現金化という出口が必要だった投資家がいたのかもしれない。

Taboola

Taboolaは20,000社と契約、毎月のべ14億ユーザーにリーチ(同社説明)。従業員数1,400(開発拠点のイスラエル国内は600)。投資家はフィデリティ、バイドゥ、コムキャスト、LVMH等。

Outbrain

Outbrainはマーケター数千が利用、毎月のべ12億ユーザーにリーチ(同社説明)。従業員数800(開発拠点のイスラエル国内は約300)。投資家はLightSpeed、Viola(以前のCarmel)、Gemini、Glenrock等。

3.コンテンツレコメンデーション事業の先行き

ワールドワイドウェブが普及した当初、人々は好奇心から広告をクリックしていたが、その傾向は次第に減衰した。それと同じことがコンテンツレコメンデーションの煩雑なウィジェットにも言えるようになってきている。

両者は様々な多様化を試したが、壁にあたっているようでもある。Taboolaは2016年7月、ConvertMediaを1億ドル弱で買収している。同社は、オンライン動画のために特別に設計された推奨システムを開発していた。同年1月には、Taboolaは非公開の条件でCommerce Sciencesも買収した。CommerceSciencesは、小規模な電子商取引企業が「Amazonスタイル」のパーソナライゼーションをWebサイトに追加するためのプラットフォームを構築した。

Outbrainは2016年3月にReveeを買収した。Reveeは個々の記事がどれだけの収益を生み出しているかをパブリッシャーにリアルタイムで知らせられると主張するロサンゼルスの企業で、後に自社商品としてこのサービスをパブリッシャーに提供した。OutbrainはZemantaの買収を通じてプログラマティック広告と自社サービスの接続も目論んだ。

少なくともにこれらの買収から、両者とも黒字化しているどころか、1億ドル相当の買収を行える現金を蓄えられるだけの利益をあげていることが分かるはずだ。ただ、どちらの試みもまだ有意義な効果をあげるには至っていない。ビッグプレイヤーが強すぎるからだろう。

Ⅲ. コンテンツレコメンデーションと広告のしくみ

コンテンツレコメンデーション業者の主な役割のひとつには、パブリッシャーのトラフィックのブローカレッジ(仲介)がある。近年のインターネットでのユーザー行動は検索やソーシャルメディアを起点にしている。検索やソーシャルからウェブページを訪れたユーザーは用を済ませると検索やソーシャルに戻る。これはウェブサイト運営者側から見ると、高い直帰率として現れる。ここで業者が現れる。多くの場合コンテンツの下部に挿入されたウィジェットでコンテンツを推薦し、クリックしてもらうことで、ユーザーが検索やソーシャルへ戻らないようにする。ウィジェットによってサイトたちを束ねてつなぎ合わせて、そのなかで人々を回遊させる。その通路には広告が含まれており、これがトラフィクへの「課税」となる。彼らの広告はクリック単価(CPC)の仕組みで、クリックに応じて広告主への請求が生じ、それをパブリッシャーと分配する。彼らはいつもGoogleやFacebookのようなビッグプレイヤーからパブリッシャーを守る存在のように振る舞うが、基本的な役割はあまり変わらない。トラフィックを作り、そこに「課税」する。

僕は2016年12月にAdam Singoldaにインタビューしたとき、Taboolaの仕組みについて「逆検索(search in reverse)」と説明していた。ユーザーとコンテンツのマッチングを一手に引き受ける検索の働きとは真逆の働きをする製品であると語っていた。

また彼はコンテンツ推薦と主要テック企業の製品をこう比較していた。Facebookの場合、ユーザーが自ら属性情報をサービス側に差し出しており、それに基づいてFacebookはターゲティングをする。Googleの場合は、ユーザーは検索のインテント(意図)を示しており、Googleはその意図に対し検索広告を提示する事ができる。TaboolaはAmazonに近い。「ユーザーが誰であるか」に基づいて広告を掲出するのではなく、ユーザーの行動に基づいて広告を掲出すると説明した。近年デジタル広告で存在感を増すAmazonの広告商品にはAmazon内の行動データに基づいてターゲティングができるDSP(デマンドサイドプラットフォーム)が含まれている。この説明はかなり大雑把なものだが、Taboolaはウィジェットを設置したサイトのユーザーからたくさんのデータを収穫し、独自に分析し、それをターゲティングに活用している、というのはことを教えてくれる。

TaboolaはユーザーがWebページにアクセスした際に取得できるURL、日時、端末情報、IPアドレスなどのログを元にユーザー属性を推定することができるそうだ。(コンテンツ推薦業者は自社のタグが刺さっているサイトについてはそこそこ深いデータの取得が可能である)。これだけの情報だけでも、ユーザーがURLを踏んだ瞬間にその人の性別や年齢、おおまかな興味関心をある程度の精度で推定できるとSingoldaは説明してくれた。

最近はこのような推定に近年の機械学習の進歩を反映することで広告マッチング精度を増すという試みが出現しつつある。ウィジェットを設置したサイトのコンテンツを自然言語処理にかけ、そのコンテンツのカテゴリを見極め、そこからユーザーに提示すべきコンテンツを即座に決定するのだ。僕が前職をやめる2015年頃にはより積極的に自然言語処理を活用し、記事の本文と親和性のあるディスプレイ広告を提供したり、コンピュータービジョンで記事内画像を認識し、画像部分に広告を挿入する(ジュースの記事内画像に対し清涼飲料水の動画広告を挟むという具合だ)GumGumのような企業が現れていた。(2019年11月初旬現在GumGumは自然言語処理関連の広告商品は提供をやめているかもしれない)。ウェブコンテンツを自然言語処理をかまして分析し、広い意味の「推薦」に活かしている例は、Bytedance、Spotify等のコンテンツビジネスの強者に認められており、Taboola等の専売特許ではないようだ。

また、Taboolaの広告は往々にしてそのまま広告主のランディングページに行き、購買か申込でコンバージョンするものである。この種の大手代理店を経由しない商売っ気の強い広告主は、広告によって獲得できたかどうかを関心事とするため、Singoldaは広告主に対しポストクリックアクイジション(クリック後の獲得)の測定を提供していると彼は説明していた。決済・購買の情報とCookieだがのデータを付き合わせることで、ユーザーがウィジェットから販売サイトにランディングし、商品を購入するなどのコンバージョンをする確率を彼らはトラッキングすることができる。

Ⅳ. 戦略的な観点: 陣地縮小が予見される

新しいTaboolaが活用できるパブリッシャーのファーストパーティデータは二倍になる。「のべ」とはいえ16億の月間利用があるサイトにまたがるサービスになるため、Taboolaはパブリッシャーの代わりにファーストパーティデータを利用したビジネスを開始する可能性がありそうだ。合併前のTaboolaはパブリッシャー支援関連の製品を投入し、パブリッシャーが契約を打ち切る理由を減らす努力をしていた。アナリティクスツールの提供は、自社のデータ収穫と表裏一体であり、より詳細に渡るパブリッシャーサイトの分析が行えるようになる。

また、新生Taboolaは「独占事業者」としてパブリッシャーの交渉力を高めたと言えるだろう。他にもコンテンツレコメンデーション業者は存在するが、TaboolaとOutbrainの規模は「その他」の業者の規模を大きく上回っていた。その2つが一つになったことの影響は大きいだろう。例えば、彼らが一方的にパブリッシャーへの収益分配を減らしたときに、転換する他の選択肢が見当たらないため、パブリッシャー側は抵抗がし難くなる。

TaboolaとOutbrainは世界最大のパブリッシャーとの独占的なパートナーシップを獲得するために大規模な(一見不経済な)収益分配取引とその最低保障を提供してきたが、契約後一定期間が過ぎるとそれが減少する傾向があると言われていた。収益分配の根拠となるデータはTaboolaとOutbrain側にしか存在せず、審判となる第三者が存在しない。これはパブリッシャー側から見た場合、あまり楽しい取引ではない。

欧米圏のパブリッシャーの多数派が最近、サブスクリプションモデルへの転換を図っていることはとても重要だ。パブリッシャーはサブスクを採用するとかなりゲームが異なってくることになる。コンテンツレコメンデーションのなかには純粋にサイト内コンテンツを推薦し、広告などを混ぜないタイプのものもある。これらに関してサブスクと親和性を保つだろうが、他方、広告を混ぜるタイプ、つまりTaboolaのようなプレイヤーはお役御免になりうるのだ。いわゆる「オープンウェブ」がないと、そのサイト間に人の往来を作るビジネスは成り立たなくなる。ニューヨーク・タイムズの購読者が450万を超え、フィナンシャル・タイムズの購読者が100万を超えたように、上位パブリッシャーはサブスクに重みを付けていくことになる。言葉は悪いが、「サブスクに失敗したプレイヤーがTaboolaを利用する」ということになるだろう。

さらに、上位層のプレイヤーではテクノロジーの採用が進んできており、内製ができてしまうこともTaboolaの脅威だろう。ニューヨーク・タイムズは一日250本の記事を読者にカスタマイズされた形で提供するため、リアルタイムフィード、専門ニュースレター、ニュースアプリのカスタマイズ機能を開発した。また、アプリとサイトの中には独自の推薦システム(レコメンデーションエンジンと一般に呼ばれるもの)が組み込まれている。このような現代的なパブリッシャーにとってTaboolaのような製品は必要がない。もっと前時代的なサイトにとっては、少しのコードで、レコメンデーションエンジンらしきウィジェットを足せるので、安上がりである。基本的には前時代的なプレイヤーが淘汰されていくのが、この業界の常であり、ダーウィニズム的なところである。

またCMS(コンテンツ管理システム)と呼ばれるパブリッシングの人たちが使うものがあり、その代表がワードプレスで、ウェブサイトの大半がこのワードプレスで構築されているが、ワードプレス自体は枯れに枯れており、普通に使うと「遅い」。クラウドの上で構築し、パブリッシュされた記事を速やかに静的コンテンツにしておいて、CDNに載せるというようなやり方で存命している。これもいつか、ワードプレスが次の世代の製品に移行することになるが、次の世代のパブリッシングプラットフォームにTaboolaが関与する事ができるか、わからない。たとえば、皆がMediumのようなサービスでコンテンツパブリッシングをするようになったら、挟まる余地はまるでないだろう。

加えて、広告技術(アドテク)の技術力という観点からも、レコメンド屋は次第にビハインドになっている。業界の巨人たちは任意のIDに対し、そのIDの属性に加え、デバイスを横断した行動データを蓄積し、そのインサイトをターゲティング精度に活かすことができる。これは圧倒的な強さである。また、フィナンシャル・タイムズのような強めのプレイヤーは広告システムを内製しており、ウィジェットをつけて広告の販売も丸投げするというようなやり方をしないので、Taboolaの商流に入る可能性はゼロに近い。また近年、GDPRやChrome以外のブラウザがサードパーティCookieを締め出す動きをしたことで知られるようになった「コンテクスチュアルターゲティング」というのがあるが(リンク先、タイトルがおかしいが気にしないでほしい)、あらっぽくまとめると、これはTaboolaが広告や通常コンテンツを推薦するときに使う手法を、ディスプレイ広告に使うやり方で、「着ている服は違えど同じ人格のようなもの」なのだ。これをワシントン・ポストは製品化しており、つまりパブリッシャーは類似商品を内製することができるようになっており、加えて、彼らがその商品のベンダーとして競合になる可能性がある。Amazonに買収された後のワシントン・ポストはその傾向が強く、ソフトウェア関連収入の割合が、通常のコンテンツ販売、広告による収益を上回りつつある。強力なライバルが彼らの足元から誕生しているのだ。

Ⅴ. トレンド変化の兆候を再度確認

最後にもう少し一般的な話をしよう。それはインターネットのコンテンツの「質」の話だ。

我々は2016年以降のドナルド・トランプやブレグジットの時代を迎えた。フェイクニュースや心理的な影響を目論む誹謗中傷の広告により人々の考えを操作しようとする「悪意の行為」への懸念が生まれている。ケンブリッジ・アナリティカ事件についてまとめたこの記事では、ソーシャルメディアを悪用し選挙結果を歪ませる試みについて詳述した。ソーシャルメディアを通じて人の脆弱性を攻撃し、うそを拡散させる技法については、この記事で紹介している。参照いただきたい。

広告を含んだコンテンツレコメンデーションのウィジェットに並ぶ記事を見れば明確だが、とても下世話なものが多い印象があるだろう。おそらく、並んでいる広告記事は、大手広告代理店等の商流とは全く異なる商流からの発注と推測することができる。合併前のTaboolaはこのような背景を踏まえ、カンヌ広告祭等のスポンサーをするなど、自身の地位向上を目指していた。

世界で最も稼いでいるニュース推薦アプリの「今日头条(Jingri Toutiao)」は、暴力や性に関連する「不適切なコンテンツ」の推薦について、中国規制当局から何度も勧告を受けている。

Toutiaoは消費者の以前のブラウジング行動に基づいてコンテンツをプッシュし続ける。ユーザーベースが大きいほど、Toutiaoのアルゴリズムを最適化するためにより多くのデータが生成され、より正確なコンテンツと広告が消費者に配信される。Webでのコンテンツ消費についても、様々なソースからそのときどきのトレンドを察知し、また自然言語処理を利用してコンテンツ自体の評価も行っていると言われる。

ここにダウンサイドがある。広告収益を最適化することを含意にしたアルゴリズムは、そのような「不適切コンテンツ」に人々が強い興味を抱くことを、活用しようとする。人々は基本的にセンセーショナルなものをクリックする傾向が強いとされている。また滞在時間を増やせば広告収益が拡大するので、勝者のアルゴリズムは広告ユーザーを中毒にする要素を内在することになる。

インターネットのコンテンツ流通はポータル、検索、ソーシャルと変遷を遂げてきた。繰り返したが、2016年以降のドナルド・トランプやブレグジット等が示した混乱は「大きな転換点」になったと僕は考えている。その次にどのようなプレイヤーが現れるのかというと、僕はサブスクリプション型の高品質で安全な情報流通が一角を崩すと思っている。利用者は時間を無駄にしたくなかったり、不快な思いをしたくなかったりする人は世界に一定数いる。そのなかで、隙間をうまくつついた形で発展してきたコンテンツレコメンデーション業者にも曲がり角がきているのではないか、と考えられる。多くの人が「あのウィジェット」の存在を知っており、かつてバナー広告に対してそうだったように、それを長い間画面上に表示させることや、クリックすることを敬遠しつつある。

この業界は本当にドッグイヤーである。重宝された技術や技法があっという間に時代遅れになろうとする。両者の合併の時期がちょうどよかったか、遅かったかはこの2、3年で分かるだろう。

Eyecatch Image Via Outbrain

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