NVIDIA、クラウドプロバイダー化の野望

NVIDIAはチップから、システム、ソフトウェアとバリューチェーンを上昇している。そしていまや、最上流のクラウドにまで手を付けようとしている。

NVIDIA、クラウドプロバイダー化の野望

平日朝6時発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、最新のトレンドを調べて解説するニュースレターです。同様の趣旨のポッドキャストもあります。登録は右上の「Subscribe」ボタンからFreeプランでサインアップいただき、確認メールの「Sign in to Axion デジタル経済メディア」ボタンをクリックください。

要点

NVIDIAはチップから、システム、ソフトウェアとバリューチェーンを上昇している。そしていまや、最上流のクラウドにまで手を付けようとしている。

Nvidia Base CommandとSuperPodサブスクリプション

Nvidiaは2日、台湾で行われれた技術会議Computex 2021で、企業がAIプロジェクトをプロトタイプから本番まで迅速に進めることができるクラウドホスト型の開発ハブであるNVIDIA Base Comman Platformを発表した。

月額9万ドルのサブスクリプションベースで、現在、AIコンピューティングで最も優れている計算資源とされるDGX SuperPodを利用できるオプションも含まれている。クラウド向けのデータ管理プラットフォームを提供するNetAppと共同で開発されたBase Commandは、グラフィカル・ユーザー・インターフェースとコマンドラインAPIを通じて、リソースの共有を容易なものにし、研究者やデータサイエンティストがコンピューティングリソースで同時に作業できるようにするものだ。

これまで、非常に高価なSuperPodの購入に尻込みしていた企業が、このサブスクプログラムでAIプロジェクトをプロトタイプから本番までより迅速に進めることができる。顧客はSuperPodへのアクセスを数ヶ月単位で借りることができるからだ。非常に高いハードウェアを売るNVIDIAとしては、これで小口の需要を取り込めるようになり、ビジネスの裾野を広くすることができるだろう。

NVIDIAのエンタープライズ・コンピューティング部門の責任者であるManuvir Dasは基調講演で、「私たちがエコシステムに取り組んでいるのは、地球上のすべての企業で活用されるという、AIの民主化の波に完全に参加するための準備を整えるため」と語っている。

Base Commandの機能の多くは、4月のGTC2021で同社が発表していた。Base Command Managerは、DGX SuperPod上のリソースを管理するために使用される。Base Command Platformは、ワークフローをどこからでも管理できる幅広いコントロール機能を提供し、サブスクリプションサービスの提供を可能にする。

DGX SuperPodは近年のNVIDIAの成功の結晶のようなハードウェアだ。GPUのAmpereアーキテクチャを採用したA 100は昨年7月、MLPerfベンチマークで16 のAI性能の記録を更新し、二番手のGoogleのTPUに差を見せつけたように見えた。BlueField DPUは2020年に買収完了したMellanoxのSmartNICの次世代版ともいえるもの。このDPU(データ処理ユニット)は、インフラストラクチャーのタスクをCPUからDPUに移行させることで、より多くのサーバーCPUコアをアプリケーションの実行に利用できるようになり、サーバーやデータセンターの効率を高めることができるようにする。

さらに、規制当局の買収承認を待つArmからは、サーバー向けアーキテクチャNeoverseを採用し、「NVIDIA Arm HPC Developer Kit」はArm CPU、NVIDIA A100 Tensor Core GPU、およびNVIDIA HPC SDKのツール群をカバーしている。これらは買収の有無に関係なくNVIDIAが活用できる見込みのものである。仮に買収が成就した場合、NVIDIAがArmのIPの一部を開放しなくなる可能性が恐れられている(詳しくはこちらのニュースレター)。例えば、Armアーキテクチャを使いスーパーコンピューターを作ろうとした競合企業に、何らかの条件をつけることで選択肢を奪うことができる、ということが考えられるかもしれない。

既存クラウド業者のエコシステムにも食い込む準備ができている。Manuvir Dasは、Google Cloudのマーケットプレイスで、今年後半にBase Command Platformのサポートを追加し、顧客が追加サービスを利用できるようにする計画を発表した。Googleは先月、第4世代のTPUを発表し、4,096個の第4世代チップが搭載されたポッドによる従量課金型サービスをほのめかしているが、顧客の引き合いがある中で競合製品を自社マーケットプレイスから除外することは難しいのかもしれない。

AWSは、Base Command Platformとのサービス統合を計画しており、NVIDIAの顧客がGPUクラウド・インスタンスを使用してBase CommandからAmazon Sagemakerに直接ワークロードを展開する機能を提供するという。

バリューチェーンの隅から隅まで

NVIDIAは、チップからシステム、ソフトウェア、そして最終的にはデータセンターへと、明らかにバリューチェーンにおける陣地を拡大している。NVIDIAは、これらの広範な領域の至るところで、効果的な研究開発を行い、継続的に成果を発表している。

次の重要な収益源となる兆候が見える自律走行車部門は典型例だろう。NVIDIAはGPUだけでなく、自律走行車に搭載するシステムオンチップ(SoC)を開発し、包括的なソフトウェア技術バンドルであるNVIDIA DRIVEは自律走行に必要な要件を提供している。自律走行車は走るデータセンターと呼ばれるが、そのデータセンターで使われるチップ、システム、ソフトウェアも一括提供することができ、トヨタのように自律走行に大枚を叩けないサイズの自動車会社の中には、NVIDIAに多くを依存する会社が出てくることになりそうだ(詳しくはこちら)。

急成長するNVIDIAの自律走行車事業
NVIDIAの稼ぎ頭はゲームとデータセンターの二つだが、自動車部門が3つ目になりそうだ。自律走行技術企業や完成車メーカー、EVメーカーは多かれ少なかれ、自律走行の実現のためNVIDIAに依存している。

昨年、NVIDIAは2013年にGeForce Nowでクラウドゲーム市場に参入し、2020年に本格的な稼働を実現したが、これもGoogleやMicrosoftのようなクラウド事業者が参画したことからも分かる通り、NVIDIAのクラウドへの野心をほのめかしているように見える。クラウドから消費者のもとにゲームをストリーミングするには非常にタイトな技術的要件をクリアしないといけないため、クラウド事業のトレーニングを積むには絶好の機会だったわけだ。

ただ、クラウドゲームでも今回も、サーバーはエクイニクスのようなデータセンター運営者のもとにホストしており、ハイパースケールデータセンターを構築するには至っていない。NVIDIAがハイパースケーラーの仲間入りをするのか、それともHPCに的をしぼって、共有型データセンターの一角を使う方針を堅持するのか、興味深いところだ。

📨ニュースレター登録とアカウント作成

ニュースレターの登録は記事の下部にある「Sign up for more like this」か右上の「Subscribe」ボタンをクリックし、登録画面で名前とメールアドレスを記入後、Freeプランから「Continue」に進んでください。記入したメールアドレスに「🔑 Secure sign in link for Axion デジタル経済メディア」という認証用のメールが届きます。その「Sign in to Axion デジタル経済メディア」をクリック頂きますと、登録が完了します。

Special thanks to supporters !

Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Mayumi Nakamura, Kinoco, Masatoshi Yokota, Yohei Onishi, Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, Sotaro Kimura, TAMAKI Yoshihito, kanikanaa, La2019, magnettyy, kttshnd, satoshihirose, Tale of orca.

寄付サブスク (吉田を助けろ)

吉田を助けろ(Save the Yoshi!)。運営者の吉田は2年間無休、現在も月8万円の報酬のみでAxionを運営しています。

月10ドル支援したいと考えた人は右上の「Subscribe」のボタンからMonthly 10ドルかYearly 100ドルご支援ください。あるいは、こちらからでも申し込めます。こちらは数量が99個まで設定できるので、大金を助けたい人におすすめです。

その他のサポート

こちらからコーヒー代の支援も可能です。推奨はこちらのStripe Linkです。こちらではない場合は以下からサポートください。

デジタル経済メディアAxionを支援しよう
Axionはテクノロジー×経済の最先端情報を提供する次世代メディアです。経験豊富なプロによる徹底的な調査と分析によって信頼度の高い情報を提供しています。投資家、金融業界人、スタートアップ関係者、テクノロジー企業にお勤めの方、政策立案者が主要読者。運営の持続可能性を担保するため支援を募っています。
Takushi Yoshida is creating writing/journalism | Patreon
Become a patron of Takushi Yoshida today: Get access to exclusive content and experiences on the world’s largest membership platform for artists and creators.

投げ銭

Betalen Yoshida Takushi met PayPal.Me
Ga naar paypal.me/axionyoshi en voer het bedrag in. En met PayPal weet je zeker dat het gemakkelijk en veiliger is. Heb je geen PayPal-rekening? Geen probleem.

出資希望の方のための資料

投資を検討の方は Twitter(@taxiyoshida)、または yoshi@axion.zone までご連絡ください。

Read more

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)