NVIDIA、パンデミック特需一服でゲーム部門が在庫調整

NVIDIAは、7月31日に終了した四半期にゲーム部門の収益が33%減少することを投資家に警告するという異例の措置を取った。長期に渡って享受してきた「パンデミック特需」が一服し、在庫調整を迫られた格好だ。

NVIDIA、パンデミック特需一服でゲーム部門が在庫調整
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NVIDIAは、7月31日に終了した四半期にゲーム部門の収益が33%減少することを投資家に警告するという異例の措置を取った。長期に渡って享受してきた「パンデミック特需」が一服し、在庫調整を迫られた格好だ。


具体的には、NVIDIAは現在、ゲーミングGPUの収益が前四半期比で44%、前年同期比で33%減少し、20億4000万ドルになった、と同社は8日に発表した。

ゲーマーや暗号資産マイナー(採掘者)向けのディスクリートGPUの収益は定期的に急降下してきた。2016年度第4四半期はディスクリートGPUの収益が減少し、2017年度第4四半期にもっと悪化した。2019年度第4四半期には、さらに大きな減少が見られ、その後、2020年度第4四半期にも数四半期の減少が見られた。これ以降、落ち込みはなかったが、今回の2023年度第2四半期の崩壊は想像を超えている。

ゲーム部門の収益が前期比33%減少する見通し。出典:NVIDIA
ゲーム部門の収益が前期比33%減少する見通し。出典:NVIDIA
大幅な業績の下方修正。ゲーム部門の調整が効いた。出典:NVIDIA
大幅な業績の下方修正。ゲーム部門の調整が効いた。出典:NVIDIA

(NVIDIAの会計年度では、2023年度は22年2月〜23年1月を意味する。他の年度も同様)

ゲーム部門が成長するのに伴い、サイクルと見られる下落幅は大きくなっている。これは、市況の波、NVIDIAの製品サイクルやディスクリートGPUの主要なライバルであるAMDからの競争圧力に依るものと推察される。

NVIDIAは、将来の需要の修正予想に基づいて、主に在庫と関連する引当金のために、約13億2,000万ドルの費用を償却する予定である、と同社は述べている。つまり、未使用のGPU在庫を大量に抱えていることになる。同社は、既存の注文を前払いすることを余儀なくされたと述べている。この取引慣行は、パンデミック時にGPUの需要が急増したときには理にかなっていたというが、生産調整したい今となっては両刃の剣となった。

米消費者向けコンピュータメディアPCWorldのエグゼクティブ・エディターBrad Chacosが指摘するように、ゲーミング機器メーカーEVGAは週末にGeForce RTX 3090 Tiを1,000ドルも値下げし、1,149ドルまで下げたという。NVIDIAのミッドレンジGeForceカードのほとんどは割引が行われてこなかった。NVIDIAのRTX 3060 Ti Founders Editionは現在米大手小売ベストバイで希望小売価格400ドルで販売されている。

さらに興味深いのは、ライバルのAMDが同じ価格圧力に悩まされていなかったらしい、という事実です。AMDのゲーム部門の収益は、2022年第2四半期に前年同期比32%増の17億ドルだった。同社のゲーム部門にはゲーム機用セミカスタムプロセッサとPC用GPUの両方の売上が含まれており、前者は増加したものの、後者は減少した。

一方で、NVIDIAにとって朗報もある。データセンター部門の成長神話は継続している。データセンター部門の収益は、第2四半期に61%増の約38億1000万ドルになる予定だそうだ。過去4年間、GPU、ネットワーク、サーバーを含むNVIDIAのデータセンター部門は、ゲーミングGPU事業の後塵を拝してきた。しかし、5月初旬に終了した2023年度第1四半期では、データセンター部門がゲームを上回り、今回のゲーム部門の調整でその差は開くことになる。

データセンターでのGPUの用途はAIワークロードが主体だが、HPCシミュレーションやモデリング、データ分析ワークロードもある程度ある。

もともとNVIDIAはゲーム一本槍の企業だったが、データセンターにおけるGPUの人工知能(AI)用途を発明して以来、データセンター部門が急成長し、二本柱になった経緯がある。現状、AIへの投資は世界的に進んでおり、特に中国と米国が覇権を争う中心的なカテゴリーにもなっており、この部門の長期的な需要は底堅いと言っていいだろう。AIのトレーニングをもっと安く行えるようにする大きな技術革新が起きない限りはそうだ。現状のAIのトレンドは「モデルが大きければ大きいほどいい」であり、NVIDIAの背中を押しているだろう。

次の四半期への懸念があるとすれば、それはインテルのチップが供給されないことだ。NVIDIAの「Hopper」GPUアクセラレータとDGX-H100サーバーは、8月から10月末までの2022年第3四半期に出荷が開始されると予想されているが、システムのCPUとして選ばれたインテルのXeon SPプロセッサ「Sapphire Rapids」の製造遅延がされており、NVIDIAはDGX-H100機をタイムリーに出荷できない可能性がある。NVIDIAがSapphire Rapids以外の選択肢を持っているかどうかに注目が集まる。

NVIDIAは8日に発表した声明で、2023年度第2四半期のデータセンター部門の収益は過去最高を記録するものの、“サプライチェーンの混乱”により「同社の期待にはやや及ばない」と述べている。

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