NVIDIA、AIクラウド新興企業を育成し大手の「併せ馬」に仕立てる

NVIDIAはAIクラウド新興企業を育成している。新興企業はクラウド大手のように代替AIチップを開発せず、NVIDIAに依存。武器(GPU)と軍資金(出資)を渡された新興企業は、大手に競りかける「併せ馬」に仕立て上げられた。

NVIDIA、AIクラウド新興企業を育成し大手の「併せ馬」に仕立てる
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NVIDIAはAIクラウド新興企業を育成している。新興企業はクラウド大手のように代替AIチップを開発せず、NVIDIAに依存。武器(GPU)と軍資金(出資)を渡された新興企業は、大手に競りかける「併せ馬」に仕立て上げられた。


先週、「GPUを担保にカネを借りられる」ことが証明されるという驚愕の出来事があった。AIクラウドベンダーのCoreWeave は、AI で需要の高いNVIDIAの H100 チップ 23億ドルの融資を確保した。この融資は大手ヘッジファンドのブラックストーンら大手が主導したもので、新参者による突拍子のない賭けではなかった。これは「GPUを担保に借金し、新たにGPUを買って担保にし…」という、「土地転がし」ならぬ「GPU転がし」が可能な時代に突入したことを意味する。まさしくGPUバブルである。

CoreWeaveはGPUクラウド市場の主要プレーヤーとして台頭し、特に急成長している生成AIの分野に対応している。CoreWeaveは2017年にコモディティ・トレーダーによって設立され、当初はGPUを使った暗号通貨、特にEthereumのマイニングに注力。2019年頃にAI特化型クラウドの提供に移行した。

昨年末からの生成AIブームによって急成長し、同社は多額の投資を集め始めた。4月のシリーズBラウンドで2億2,100万ドルという高額の資金を確保した。CoreWeaveが貸すGPUの提供元であるNVIDIAもこのラウンドで1億ドル参加した。

得られた資金は設備投資に振り向けられているようだ。CoreWaveは7月下旬、テキサス州プラノに新たなデータセンター施設を建設し、2023年12月31日までにフル稼働させることを発表した。米メディアVentureBeat によると、CoreWeaveは前回の会計年度3,000万ドルの収益を上げ、今年は5億ドルの収益を上げる予定。来年度の契約はすでに20億ドル近くある。

CoreWeaveのブラニン・マクビー最高戦略責任者(CTO)は、GPU不足は少なくともあと2~3年は続くと予想している。CoreWeaveは、AI企業にサービスを提供するだけでなく、創薬、タンパク質折りたたみシミュレーション、遺伝子検査などのライフサイエンス分野への進出も計画しているという。

大手もCoreWeaveを無視できない。Microsoftは6月、一部の顧客ワークロードをCoreWeaveのデータセンターに送ると発表した。MicrosoftはAzure部門のGPUのほとんどをOpenAIに振り向けていると言われる。今後、顧客からの要求が高まる分をCoreWeaveによって賄う考えのようだ。米メディアCNBCによると、MicrosoftはCoreWeaveのインフラに複数年にわたり数十億ドルを投じる可能性があるという。Microsoftは7月下旬の決算報告で、年次報告書のリスク要因を更新し、データセンター用GPUの確保の重要性について言及していた。

NVIDIAの掌の上

CoreWeaveの台頭を可能にしているのは、GPUを開発するNVIDIAの支援である。ここには戦略的な利得の一致がある。大手テクノロジー企業はNVIDIAからGPUを買い集める一方で、独自のAIチップの開発に大金をはたいている。一方で、CoreWeaveが対抗するために独自のAIチップを製造しておらず、NVIDIAからGPUを借りて貸す業者である。NVIDIAからGPUを仕入れられなければビジネスが破綻するため、NVIDIAの強い影響力下にあることは間違いないだろう。

NVIDIAはCoreWeaveのようなAI専業クラウドを優先していると言われる。NVIDIAは、供給が逼迫しているにもかかわらず、最新のAI用GPUをCoreWeaveに潤沢に割り当てている、と米メディアThe InformationのAaron Holmes, Anissa Gardizy, Amir Efratiは書いている。

NVIDIAは別の米国を拠点とするAIクラウドプロバイダーである Lambda Labsへの出資交渉をしている、とThe InformationのMaria Heeter, Kate Clark, Stephanie Palazzoloは報じている。Lambda Labsは、カリフォルニア州サンタクララのデータセンターと、テキサス州アレンにある別の施設を運営している。NVIDIAは以前、競合のCoreWeaveと同様、同社にも入手困難なH100 GPUを優先的に供給していた、とされる。Microsoft、Google、Metaとは異なり、両社は独自のAIチップを開発しようとはしていない。

今回の投資は3億ドルの増資の一部となり、同社の価値は10億ドル以上となる可能性がある。Lambda Labsは3月、OpenAIの共同創業者グレッグ・ブロックマンを含む多くの投資家から4,400万ドルを調達した。Microsoftは6月、一部の顧客ワークロードをCoreWeaveのデータセンターに送ると発表したが、The Informationによると、Lambdaとも同様の取り決めをしているという。

いまた、Oracleという巨人もNVIDIAの陣営に加わっている。同社は「オラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)」上で数千のNVIDIA GPUへのアクセスを提供している。

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By 吉田拓史