日本のプライベート・エクイティに黄金期が来ている

日本のプライベート・エクイティ(PE)業界に黄金期が来ている。老舗財閥企業が系列を切り離す欲求を持っており、日本企業では引き受けられない大型案件が、海外勢に広範な機会を与えている構図だ。

日本のプライベート・エクイティに黄金期が来ている
2018年11月7日(水)、シンガポールで開催されたBloomberg New Economy Forum のパネルディスカッションで、KKR & Co.の共同会長、共同最高経営責任者、共同創業者のヘンリー・クラビスが発言。Photographer: Justin Chin/Bloomberg

日本のプライベート・エクイティ(PE)に黄金期が来ている。老舗財閥企業が系列を切り離す欲求を持っており、日本企業では引き受けられない大型案件が、海外勢に広範な機会を与えている構図だ。


米国のプライベート・エクイティ(PE)企業であるKKRは、企業価値の過小評価と円安を利用して、日本への投資を増やす計画だ。

コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の最高投資責任者であるヘンリー・マクベイは、フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで、「プライベートエクイティだけでなく、不動産、インフラ、クレジットなど、日本へのコミットメントがあり、成長を続けている」と語った。

マクベイによると、日本では、100以上の子会社を持つ企業が株式市場の中で大きな割合を占めており、そういった企業の子会社のカーブアウト(本体から切り離し、ベンチャー企業として再スタートさせること)が急速に進んでいるという。

2013年、KKRはパナソニックのヘルスケア部門を買収し、2021年に上場した。また、同社はスーパーマーケットチェーンの西友から半導体メーカーの日立国際電気まで、さまざまな資産を保有している。今年、KKRは不動産管理会社の三菱商事・ユービーエス・リアルティを20億ドルで買収した。

先月末にはベインキャピタルが主導する連合が実施していた日立金属の株式公開買い付け(TOB)が成立。最終的な買収総額は約8,000億円を見込んでいる。ベインキャピタルのPE担当マネージング・ディレクター、デヴィッド・グロスローは「日本は、PEにとって、ちょっとした黄金時代に突入している。我々や他の企業が行うようなPE取引を支援するためのインフラ整備が非常に進んでいる」と説明した。

ブラックストーン、ブルックフィールド、CVCなどの他のプライベートエクイティ大手も、日本への投資を強化している。「歴史的な円安と中国の地政学的緊張が、日本をより安全で安定した、流動性の高い投資先として位置づけ直させたからだ」とFTのAntoine GaraとKana Inagakiは書いている。

日本のPE(PE)市場は、2021年に取引額とディール数が過去最高水準を記録した。ベイン・アンド・カンパニーの報告によると、取引額は2020年比160%増の約2.7兆円、ディール数も45%増の134件となり、あらゆる規模の案件で大幅な増加がみられた。投資家も市場環境の改善を追い風に、2020年の6倍となる1.8兆円のイグジットに踏み切った。

「グロース・エクイティ案件が急増し、現在ではコミットされたエクイティの約40%を占めているものの、これは他の市場に比べてまだ比較的低い水準であることがわかっています」とベインのジム・ヴェルべーテン、セバスチャン・レイミー、大和梓は書いている。「PE投資家がグロース・エクイティやインフラストラクチャーなど幅広い戦略を追求するにつれ、ディールソーシングも多様化し、官から民へのディール、企業のカーブアウト案件、スポンサー同士の取引など、あらゆるタイプのディールが市場を牽引しています」

時代の変化

このような状況は、一昔前では考えられなかったことだ。海外企業が日本企業を買収することは、常に難易度が高かったのだ。カーネギー財団アジア・ダイアログ・プログラムのシニア・フェローであるRichard Katzは2021年にForeign Affairへの寄稿で「一般的な富裕国では、対内直接投資の80%はM&Aという形で行われるが、日本では14%に過ぎない。対内直接投資額が少ないのは、主にインバウンドM&Aが少ないからである」と書いている。

これは、第二次世界大戦直後、東京が外国企業による支配を恐れて対内直接投資を制限した時代の名残である。1960年代、日本がOECDに加盟するために正式に自由化しなければならなくなると、政府は「自由化対策」と称して、インバウンドM&Aを間接的に阻害するような施策を考案した。

「その内容は、巨大企業とその金融機関の株式持ち合いの復活、『系列』と呼ばれる水平・垂直の企業集団の強化、クロスボーダー取引に関する煩雑な規則など多岐にわたった」とKatzは書いている。

さて、Katzは「最も魅力的な買収対象は、系列に属しているために手が届かないことがほとんど」と嘆いているが、前述のKKRによれば、いまや財閥企業には系列を切り離すニーズが存在し、その買い手として有力なのは資金力がある海外勢である。

確かに経済の枢要な部分を海外企業に握られるのは、霞が関の流行語である「経済安全保障」に抵触しうるだろう。例えば、様々な国家安全保障に関連する重要事業を抱える東芝をどう扱うかはかなり難しい問題だ。しかし、中国の長期に渡る経済成長が好例だが、対内直接投資は使い方が上手であれば、抜群の効果を発揮する。概して言えば、30年間経済成長をしていないこの国に再度エンジンをかけるためには海外資本を使うことは合理的だろう。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

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1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

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今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)