スポーツベッティング合法化の波に乗る英ギャンブル帝国
スマートフォンを使ったスポーツベッティングはパンデミックとともに世界中に驚くべき速度で浸透している。欧州の巨大ギャンブル企業は合法化が進む米国に大きな機会を見出している。
要点
スマートフォンを使ったスポーツベッティングはパンデミックとともに世界中に驚くべき速度で浸透している。英国の世界最大ギャンブル企業フラッターは合法化が進む米国等の新しい市場に買収を繰り返すことで、高速展開を進めている。
1月中旬、ニューヨークでオンライン・スポーツベッティングが合法化された最初の週末、人々がサービスに殺到した。ニューヨーク州は、モバイルスポーツベッティングからの収入として、2022年度に2億4900万ドル、2023年度に3億5700万ドルを見込んでいると、1月18日に発表された州予算案に記載されている。2027年度には、年間5億1800万ドルのモバイルスポーツ収入を見込んでいる。
スポーツベッティング事業者は、10年間にわたり州に51%の税率を支払うことに合意。州がもたらす収入は、ギャンブル依存症対策、青少年のスポーツプログラム、教育などに使われる予定だ。
ニューヨークでスポーツベッティング事業を開始した事業者にはDraftKings、Rush Street InteractiveそしてCaesars Entertainmentが所有するCaesars Sportsbookのほか、米国市場で最大のシェアを持つFanDuelも含まれている。
FanDuelはもともと実際に行われるスポーツの試合を対象に自分の好きな選手を集めて架空のオリジナルチームを作るシミュレーションゲーム「ファンタジースポーツ」の提供会社として設立され、主にDraftKingsと競合していた。
2018年5月、米国でスポーツベッティングの合法化が広がる中、FanDuelはアイルランドのブックメーカーPaddy Power Betfair(現フラッター・エンターテインメント)の米国事業と合併し、FanDuel Groupを設立することに合意した。Paddy Power Betfairは61%の支配権を持ち、時間の経過とともに出資比率を80%、100%に引き上げるオプションが付いている。
この合併は、米国のほぼすべての州でスポーツベッティングを実質的に非合法化していた1992年のプロ・アマスポーツ保護法が、最高裁によって違憲とされたことを受けて行われた。Fanduelはスポーツ賭博のプラットフォームを提供する準備を進めていたが、Paddy Power Betfairは、今回の合併により「将来のスポーツ賭博の機会をターゲットにする上で、非常に有利な立場になる」と述べている。
FanDuelでは人々がスポーツ競技の結果を推測するゲームを楽しんでいる。予想を戦わせながらスポーツを観戦する新しいスタイルは、ギャンブルとの相性がすこぶるいい。ライバル企業がその価値に気づく前にFanDuelを買収したことで、フラッターは州がギャンブルを許可し始めるとファンタジースポーツに耽溺し、スポーツベッティングの上客となりそうな人々の名簿とデジタルアクティビティを手に入れた。
その2年後の2020年、フラッターはオンライントーナメントのフランチャイズであるポーカースターズに120億ドルを投じた。2019年、フラッターは22億ポンド(約2700億円)の収益を上げ、ポーカースターズの運営会社スターグループは25億ドル(約2800億円)の収益を上げており、合併後の会社は世界最大のギャンブル企業の称号を手に入れた。
パンデミックの影響で何百万人もの人々が現金給付と多くの暇な時間を手にすると、早くもその買収が大当たりだったことが証明された。フラッターは、オンラインギャンブルの急増により、2020年上半期の売上高が22%増加したと発表した。同社のポーカースターズ部門では、ロックダウンで経済が停滞していた第2四半期に、1日の平均ゲーム客数が70%増加した。
パンデミック下では、賭けの多くは、1週間に10ポンド(13ドル)程度の「少額」で、「低コストの娯楽」になっているとピーター・ジャクソン最高経営責任者(CEO)は説明している。
賭博の規制産業化とデジタル化
賭け事はかつてはマフィアのものだった。今では規制が強化され、全世界で5,000億ドル規模のビジネスとなり、携帯電話での賭けが増えている。フラッターのような企業の経営者はアマゾンやマクドナルドの経営者がよく使う、コンバージョン率、顧客獲得コスト、従業員エンゲージメントなどのありふれた指標を使っている。ある種の投資家はいまだにギャンブルを救いようのない「罪深い」ものと考えており、酒やタバコ、ミサイルの販売業者と同じ範疇に入れられている。しかし、フラッターは200億ポンド(約3兆1,400億円)の時価総額を背景に、ロンドンのFTSE100株価指数の上位にランクインしている。
欧州では、実店舗のベッティングショップを運営する企業は、ウェブサイトやアプリの開発とマーケティングに必要な投資を行う余裕のあるグループに統合された。Paddy Power、Betfairなどをアイルランドの持ち株会社に統合したフラッターのほか、豪州のLadbrokes、Coral、Bwinを統合したエンテイン(Entain)がある。オンラインカジノやポーカーが軌道に乗ると、サッカー観戦者を賭けに熱中させるために、さらなる買収が行われた。いまではプレミアリーグを観戦していると山のようなベッティングサイトの広告を見ることになる。
一方、米国では、2018年以前に存在した合法的なベッティングは限定的でローカルなものだった。スポーツベッティングはネバダ州以外ではほぼ禁止されていた。そのため、アメリカの潜在的なライバルはオンライン・ギャンブルのノウハウを持っていなかった。
米国のギャンブル収益の予測はものすごい速度で上昇している。2025年までに、アメリカのスポーツファンにサービスを提供しているブックメーカーは、ゲーム総収益(配当を支払った後に得られるお金)で年間94億~127億ドルを手にすることができるとアナリストは予測している。
コロナウイルス感染症は、ほとんどのスポーツを一時的に中断させたが、ゲームやNetflixなどのオンライン娯楽の利用者を増やした。パンデミック対策などのために税金を必要としている米国の各州は、予想以上に早くスポーツへの賭けを合法化し始めた。いくつかの州では、これまで違法とされてきたオンラインポーカーやカジノゲームも許可された。そうなると、優良ブランドには年間50億ドルの利益がもたらされるかもしれない。
米国のスポーツベッティングは、勝者総取りの傾向が強い市場かもしれない。大手3社(FanDuel、Entainが一部所有するBetMGM、同じく「ファンタジースポーツ」サイトから胴元になったDraftKings)のシェアは、2018年には3分の1以下だったのが、現在は4分の3になっている。FanDuel自体は、市場の半分近くを支配している。アナリストは新規顧客獲得のために多額の損失を出しても動じることなく、この事業を180億ドルと評価している。
フラッターは4月頃、急成長するアメリカのギャンブル市場の株式に対する投資家の需要を利用するためにFanDuelの一部の上場を検討したことを明らかにしている。同社は声明の中で、「組織構造と資本構造を定期的に評価している」とし、「FanDuelの米国での上場を含む選択肢を検討している」と明らかにした。その後、この上場の話はあまり動きがない。
これは同業のDraftKingsとPenn Nationalの企業価値がともに急上昇していたことを加味したものだと推定された。米国を中心とするDraftKingsの時価総額とはるかに規模の大きいフラッターの時価総額はほぼ同水準であり、これは英国と米国のバリエーションの違いと理解されるからだ。
フラッターは42億ドルの取引でFanDuelの過半数の株式を95%に増やし、所有構造の整理を進めている。しかし、FanDuelの株式上場は、メディアグループであるFox Sportsが2.5%の株式を保有しており、持ち分を21%に引き上げるオプションが付いており、Foxと法的な争いに発展しているため、進展するか不透明だ。
米国での高揚感とは対照的に、他の地域では厳しい見通しが立てられている。英規制当局は、問題のあるギャンブルを抑制するために新たな規制を導入する予定だ。ドイツでは、オペレーターの利益を圧迫するような新しいルールが導入された。米国のスポーツリーグは強大な力を持っており、すでに賭け金への課税を求めている。
フラッターにとってのリスクは、ベッティングは反発を招きやすい商売だということだ。同社は、米国人の顧客1人を獲得するために291ドルを費やしており、そのほとんどが広告と最初のベットの補助金である。フラッターが利益を上げるためには、顧客が平均して少なくともそれだけの損失を出さなければならない。そのためには、彼らが数千ドルを賭ける必要があるかもしれない。フラッターは、他の上場ゲーム会社と同様に、ギャンブル依存症者を生み出すのではなく、ちょっとした軽い娯楽を提供する市場であることを強調している。
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