要点

  • Axion(アクシオン)は、「プロダクトユーザーフィット」(製品とユーザーが適合している状態)にあり、たくさんのお金を賭けるのに値します。
  • アクシオンは製品開発の段階を「検証」から「成長」に転移します。
  • アクシオンは新しいWebアプリケーションとモバイルアプリケーションを開発し、積極的な事業開発を実行する準備ができました。

今回はこのアクシオンという製品が置かれた状況と今後の戦略について、説明します。「デジタルメディアの未来 #8」で触れた通り、まず私は、アクシオンの勝率、リターン、期待値を推定します。この推定を基に「製品が適切な賭けなのかどうか」を考えてみます。

1. リターンの推定

1.1 市場の概況

日本の消費者は、新聞、雑誌、書籍、漫画などに世界最大規模の支出をしてきました。それがデジタル化の進展で様変わりしています。新聞、出版の広告市場から、デジタル広告への移転は発生しました(2018年現在、1兆4000億円程度の移転)。しかし、「販売市場」からは、1兆4000億円がデジタル移転せず、ただただ消失しました。これは電子書籍、新聞のデジタル版の補填分を差し引いた数字です(Figure1)。

もちろん、「完全な消失」と表現することは難しいです。例えば、ファッション誌の需要がインスタグラムに転換されましたし、雑誌を読む時間がスマホゲームに取って代わられました。それでも、1兆4000億円はあまりにも減りすぎです。この背景は3つあります。

  1. 日本のデジタル広告単価が低いため、アナログの販売をデジタルの広告に転換したときに、市場規模が大幅に縮小する
  2. 消費者余剰。消費者が無料製品を利用している時「本来払ってもいい」と考えている価格との差が、消費者側の余剰になっている
  3. チャネルや消費形態の変化に対し、新興企業を含むメディア業界が効果的な収益化手法を用意できなかった
Figure1. 1兆4000億円が市場から消失。メディア業界はデジタル化を追い風にすることができていない。Source: Axion 事業計画書

1.2 仮説

消えた1兆4000億円のうちいくらかはデジタルサブスクリプション(有料購読)で救出できる。

1.3 獲得可能な市場 Total Availabel Market は3510億円

とはいえ、アクシオンは1兆4000億円の全てを救出できるわけではない。このサイトが明らかにしている通り、アクシオンは経済に的を絞っているため、私は「獲得可能な市場」(Total Availabel Market)を3510億円と算定した。最初のマーケットとしては小さくない。また一般ニュースへの領域拡大や動画や音声のようなメディアの多様化で、拡張可能性がある。

2. 勝率の推定

2.1 実験環境

次は勝率の推定をします。私は勝率の推定をするための「実験環境」を作り、それを今年の1月〜5月の間、試行錯誤をし続けてみました。

私が採用した手法は「特定の経済メディアに関連する需要を標本とし、その需要の課金転換可能性を推定する」ことでした。つまり、私は「デジタル経済」というニッチなニーズに対応したコンテンツを配置し、それに興味を示したユーザーの「滞在時間」を有料購読への転換可能性の兆候と考えることにしました。

  1. 対象ユーザーのみ。ノイズを減らすため、ウェブサイトのコンテンツはニッチなものに絞った。
  2. 滞在時間を計測する。
  3. 十分なスケールを確保する。

この設計には「このような経済情報を知りたい」という特定のインテント(意図)を持ったユーザーだけを呼び寄せ、ノイズを少なくする意図があります。

サイトをニッチな高品質コンテンツに限定することで「ルイ・ヴィトンの路面店」「ホームセンターのドリルドライバー売り場」のような条件の狭い空間を表現する目論見があります。

私はクリックベイトのコンテンツは徹底的に排除しました。

これで、それぞれのユーザーが代表するクラスター(たとえば、転職を検討する商社の若手従業員、2,3年後のキャリアを模索し始めたコンサルタント等)が有料購読を開始する可能性の兆候を掴むことができます。

この仕組みは資金力のないスタートアップでも簡単に構築可能なやり方です。

2.2 滞在時間とは?

この実験環境では、「滞在時間」はGoogle Analyticsの「平均ページ滞在時間」を指します。「セッション継続時間」は、最後のページ滞在時間を含まないため、短く出やすく、私の目的に沿いません。

2.3 実験結果

条件
  • 訪問者数30以上の記事のみをカウントした
  • 期間は2020年1月1日〜同年5月31日
  • 首位の『UPI インド政府主導のデジタル決済共通基盤」の期間は2020年1月1日〜同年5月1日。

結果

Figure2. ページ滞在時間上位20記事。Google Analyticsによって計測した。多彩なカテゴリの記事で長い滞在時間を計測することができた。作成:吉田拓史
  • フィンテック、デジタルマーケティング、デジタル経済、eコマース、プロダクトマネジメント、コンピューティング、メディア、評論などの幅広いカテゴリーの記事ページで十分な滞在時間を測定した。
  • 他、ページ滞在時間4分台の記事が10本。3分台が23本だった。

2.4 考察

  • 経済分野の有料購読メディアの「勝率」はいい水準にあると考えられる。今後の製品開発や事業戦略とその執行次第で、さらに勝率は上昇する可能性がありそうです。
  • 例えてみると、「ルイ・ヴィトンの店舗でバックや財布、アパレルを数分間物色した」「ホームセンターでドリルドライバーやペンキ、肥料を数分間物色した」という状況に類似するでしょう。彼らは特定のインテント(意図)をもち、それを実現するためにアクシオンを利用した。有料購読化への道筋を想定するには十分な結果でした。
  • Axionは、これを持って製品開発の段階を「検証」から「成長」に転移します。

3. ユーザー

  • 現状、アクシオンを訪れている人の所属する業種は、金融機関、会計事務所、コンサルティングファーム、新聞社、出版社、テレビ局、広告代理店、通信会社、インターネット企業、消費財メーカー、スタートアップなどに当たります。
  • アクシオンは、対象ユーザーとして、「50歳以下の日本企業に務めるビジネスパーソン」を視野に入れています。
  • 日本企業に務めるビジネスパーソンにスキルセットの転換期が訪れています。また、実質賃金が低落傾向にある中、教育コストや住宅価格は上昇を続けており、彼らは転職や昇進等で賃金を引き上げる必要があります。そのとき彼らにはデジタル経済に対応するためのスキルセットが必要不可欠なのです。
  • ユーザーの8割が男性
  • デスクトップが7割5分

4. 今後の展望

4.1 日本のインターネットニュース消費

まず日本のニュース消費においては、デスクトップは過去のものではありません。トラフィックの半分を占めています(Reuter, 2019)。デスクトップのトラフィックは基本的にすべてウェブです。

アクシオンのような経済メディアでは、ビジネスパーソンが仕事中に利用するデスクトップの優先度が著しく高いです。ビジネスパーソンには仕事の際の調べ物でアクシオンを使ってもらえると、それは「仕事の必需品」の地位を獲得する。末の長いお付き合いの始まりです。このビジネスにおいては、モバイルもまた必要不可欠ではありますが、一番ではないのです。

また、ニュース消費においては、モバイルにおいてもウェブのほうが重要です。モバイルウェブのリーチはアプリの2倍あります(ComScore, 2018)。検索の末にウェブページを訪問する、あるいはFacebook、Twitterの投稿をタップしてウェブページを訪問する、というユーザー行動を考えれば、当たり前のことです。

さらにもうひとつウェブのほうが重要な理由を示してみましょう。ニューヨーク・タイムズでは、トラフィックの96%は「非購読者」からもたらされます。同社のアプリにはダイナミックペイウォールが採用されており、非購読者は月に5本程度の記事を読んだ後は、ほかが読めなくなります。このため、非購読者の殆どがウェブで記事を読みます。アプリはほぼ「購読者専用」の位置づけです(Figure3)。

Figure3. ニューヨーク・タイムズのオーディエンスの96%以上は、ウェブサイトを訪問している。4%の購読者はウェブとアプリを併用。

また、購読者はニュースレターの読了を好みますが、これは、デスクトップでメールチェックをしている際に生じる行動です。ハードニュースを購読し、定期的に読む人々は、デスクトップウェブに重きをおいている場合が多いのです。

4.2 アプリ一本足は「203高地」を招く

モバイルアプリだけを開発しウェブを除外する戦略は、他のジャンルでは上手く言った例がごまんとあります。しかし、有料購読ニュースメディアの場合、しばしば、「203高地」(日露戦争で日本軍が見込みのない白兵戦を繰り返しおびただしい死者数を出した場所)になりえます。

なぜなら、モバイルアプリの世界は強者に有利にできているからです。ユーザーが頻繁に利用するアプリは大手テクノロジー企業が提供する数個に限られています。新しいアプリをインストールをしてもらうための費用はうなぎのぼりです。たとえば、3億円の資金調達が終わったスタートアップが、それをまるまるアプリインストール広告に投じても、その効果は、すぐさま溶けてしまいます。

それから上述したようにハードニュースの消費においては、ウェブが最優先されます。その最優先するものを最初から放棄していたら、結果は残酷なものになるでしょう。

僕は、顧客獲得費用が高止まりし、ユニットエコノミクスが悲惨な状況のまま固定化しているニュースアプリのことを知っています。もちろん、派手に広告を使っても損をしないという例外は存在しますが、有料購読ニュースのジャンルには例外は存在しないでしょう。

4.3 論理的に最も好ましい選択肢

論理的に最も好ましい選択肢は、すべての条件が整うまでモバイルアプリを開発せず、ウェブ1本で進んでいくことです。#8で説明したとおり、私は、ユーザー行動の洞察を積み重ね、開発を進めていくことで、効率性を高められると推定します。序盤はフリーミアムでマーケティング費用を圧縮しながらユーザーベースを拡大する戦略が購読者獲得に伴うコストの増大を防ぐことができるのです。

これにより、キャッシュバーンを想定の範囲内に入れることができます。

製品開発、デザイン、エンジニアリングについては次のブログで詳細に説明します。ここでは簡易な説明に留めます。

いわゆるマイクロサービスに基づいた疎結合のウェブアプリケーションを最初に作ります。これは製品開発に柔軟性をもたらし、大規模化したときに楽になります。あとからモバイルアプリを追加することを容易にします。

Figure4. ウェブアプリケーションのアーキテクチャ

条件が整ったら、モバイルアプリ部分を追加します。

Figure5. モバイルアプリケーションを追加したアーキテクチャ

この図は非常にざっくりしています。製品開発に関しては、別に詳細なブログを公開する予定です。

4.4 次善の策

ただし、現実社会と向き合わないといけません。アクシオンにコンテンツを提供する会社の方は、ウェブアプリケーションとモバイルアプリケーションの双方を見たいと思うはずです。

モバイルアプリのプロトタイプ(模型)は以下のリンクから。画面の一部をクリック(タップ)頂くと、画面遷移まで確認することができます。

https://sketch.cloud/s/YMwLe/eP09Om/play

コンテンツ提供者(パブリッシャー)に、このプロトタイプでコンテンツ提供を確信してもらえると好ましい。

Figure6. モバイルアプリのインターフェイス

5. 結論

  • 検証から成長戦略にシフトする
  • 状況によっては、ウェブとモバイルのアプリケーションを開発する

6. 追記

1年半前は上記の構成を自分1人で作るはずでした。もともとはインドネシアの新聞記者なので、経験はありませんが、勉強しながらやろうと思っていました。

ただ、開発に関しては素人が行うのではなく、専門の人がやるのが正しいのは明らかです。

現在、さまざまな選択肢を持っていますが、依然として、何を選択すべきか、あるいは、何も選択しないべきか、とても難しい。

とりあえず、次は製品開発に関して説明するブログを書きます。

参考文献

  1. Reuter, "Digital News Report 2019".
  2. ComScore, "2018 Mobile App Report".
  3. Digiday. "Inside The Wall Street Journal’s subscription strategy". Jan 22 2019.