清華大と独の新研究がEUVリソグラフィーの新手法を示唆

定常状態マイクロバンチング(SSMB)の実証実験が、Natureへの論文で報告された。あらたな光源として有望であり、最終的には精密産業を著しく進化させる可能性がある。SSMBには、半導体露光装置におけるASMLの独占を揺るがすかもしれない潜在性がある。

清華大と独の新研究がEUVリソグラフィーの新手法を示唆

要点

定常状態マイクロバンチング(SSMB)の実証実験が、Natureへの論文で報告された。あらたな光源として有望であり、最終的には精密産業を著しく進化させる可能性がある。SSMBには、半導体露光装置におけるASMLの独占を揺るがすかもしれない潜在性がある。


清華大学工学部物理学科のChuanxiang Tang(唐传祥)教授の研究グループは、ドイツ研究センターヘルムホルツ協会の材料・エネルギー研究センター(HZB)と物理工学研究所(PTB)の共同研究チームとともに、新しい加速器光源である定常状態マイクロバンチング(SSMB:Steady-state microbunching)の初の原理実証実験を報告した。Nature誌に発表された論文は、自由電子レーザーに用いられる通常はシングルショットの電子マイクロバンチングを、電子蓄積リングにおいて連続的に行えるようにすることで、定常状態の電子マイクロバンチングを実現する試みに着手している。

SSMBの原理に基づき、高出力・繰り返し周波数の高い、狭線幅のコヒーレント放射光が得られ、波長はテラヘルツから極端紫外線(EUV)リソグラフィまでカバーできる、と論文は主張しており、将来的には、EUVリソグラフィー光源への新たな技術的な道のりを提供している可能性がある。

最も近代的な光源は、粒子加速器に基づいている。粒子加速器は、電子をほぼ光速まで加速して特殊な光パルスを発生させる大型の施設である。

加速器を用いた光源には、主にシンクロトロン(円形機)と自由電子レーザー(直線機)の2種類がある。シンクロトロンは平均出力(単位時間あたりに生成される光子の数)が高く、波長が可変で広い帯域(波長範囲)を持つ光のパルスを生成することができる。高出力が可能なのは、粒子の「束」が機械の周りを何度も循環し、アンジュレータやウィグラーとして知られる一連の交互の極性の磁石を通過するたびに光を発生させるためだ。

自由電子レーザーは、電子の束を一度だけ使用するため、シンクロトロンよりも平均出力が低い。しかし、自由電子レーザーは、シンクロトロンによって生成される光よりも狭い帯域幅とはるかに高い輝度(最大100億倍の明るさ)を持つ光のパルスを生成することができる。自由電子レーザーでは、電子から放出された放射線が粒子に反作用して、粒子が束になって放射線の波長と同じくらいの大きさの領域になる。この「マイクロバンチング」(微細に集群する)した電子によって発生した光波は、コヒーレント(同調)であり、互いに補強し合うことで、上述したような驚くべき明るさを実現している。

実験では、ベルリンにあるシンクロトロンのMetrology Light Source(MLS)内の電子ビームを波長1064nmのレーザーで操作することで、リングの周囲を一周(48m)した後に微細に集群されたビームを形成することに成功した(図1)。中独の研究チームは、この2つのシステムの利点を組み合わせた放射光源でパルスのパターンを生成できることを示した。放射光源は、短くて強い電子の微細な集積を送り出すことで、レーザーのような性質を持つ放射線パルスを発生させるが、(放射光源のように)連続して互いに密着して追従することも可能である。

図1. SSMB原理実証実験の模式図。蓄積された電子バンチは、アンジュレータ内でレーザーによって変調される。蓄積された電子バンチは、蓄積リングの中で一回転するとマイクロバンチになり、コヒーレントな放射線を発生する。(画像クレジット: PTB/HZB)
図2. SSMB原理実証実験のイメージ。Image via 清華大学
図2. MLSで行われた実証実験の概要。出典:Xiujie DengのNovember 4-6, 2019 Source Workshop, Amsterdam, The Netherlandsにおける発表資料より。

Dengらは、バンドパスフィルターと呼ばれる装置を用いて残留する非干渉性放射を除去した後、マイクロバンチングされたビームから明確な信号を検出し、コヒーレントな放射が起こっていることを示した。彼らは、放射パワーの電子バンチの電荷への依存性を調べて、この発見を裏付けた。コヒーレントに発光するバンチの放射パワーはバンチ電荷の2乗に比例し、著者らはバンチ電荷を変化させて放射を分析することでこの2次依存性を観測した。

図3. SSMBの原理実証実験の結果(画像クレジット: Nature)

このアイデアは、約10年前に、スタンフォード大学の加速器理論家Alexander W. Chaoと博士課程の学生Daniel Ratnerによって、「定常マイクロバンチング」というキャッチフレーズが開発された。このメカニズムにより、ストレージリングが光パルスを高い繰り返し速度で発生させるだけでなく、レーザーのようなコヒーレント放射としても発生させることが可能になるはずだという仮説だった。

北京清華大学の若手物理学者であるXiujie Dengは、博士課程でこれらのアイデアを取り上げ、さらに理論的に研究した。Chaoは2017年にHZBの放射光施設 BESSY IIに加えて、PTBでMLSを運用しているどいつの加速器物理学者とコンタクトを取った。MLSは、「低アルファモード」と呼ばれる動作のために設計によって最適化された世界初の光源である。このモードでは、電子の束を大幅に短くすることができる。そこの研究者たちは、10年以上もの間、この特殊な動作モードの開発を続けてきた。「この開発作業の結果、MLSでSSMBの原理を経験的に確認するための難しい物理的要件を満たすことができた」とHZBの加速器専門家であるMarkus Riesは説明している。

図4. Metrology Light Source(MLS)の装置図。Image via HZB.


「SSMBチーム内の理論グループは、準備段階でマシンの最適な性能を達成するための物理的境界条件を定義していた。これにより、MLSを使って新しいマシンの状態を生成し、Dengと一緒に、我々が探していたパルスパターンを検出できるようになるまで十分に調整することができた」と、HZBの加速器物理学者であるJörg Feikesは報告している。HZBとPTBの専門家は、光の波がMLSの電子バンチと正確な空間的・時間的同期で結合された光レーザーを使用した。これは、バンチ内の電子のエネルギーを変調させた。これにより、数ミリの長さの電子群集が、ストレージリング内で正確に1回転するとマイクロバンチ(長さわずか1マイクロメートル)に分裂し、レーザーのように互いにコヒーレントに増幅し合う光パルスを放出する」と加速器物理学者のJörg Feikesは説明している。「コヒーレント放射を実験に基づいて検出するのは簡単なことではなかったが、我々のPTBの同僚は革新的な光学検出ユニットを開発し、検出に成功した」。

「SSMB光源の将来は、例えば、EUVの範囲で、光の可視スペクトルを超えてレーザーのような放射線を生成するということだ」とPTBの部門長であるMathias Richter教授はコメントした。「最終段階では、SSMB光源は新しい特徴のある放射線を提供することができる。パルスは高強度、集束、狭帯域だ。シンクロトロン光の利点と自由電子レーザーの利点を組み合わせたものだ」とFeikesは付け加えた。

Alexander Brynesは「この論文は、粒子加速器で高出力のモールバンド幅の光パルスを生成するための重要な一歩であるが、定常状態でのマイクロバンチングはまだ実証されていない。Dengらは、シンクロトロンで1回転した後、マイクロバンチングされたビームがコヒーレント放射線を発生することを示している。次の課題は、この方式が何回もターンを重ねてもこのような成果を達成できることを証明することである」と指摘している。

これを実験的に達成するのは、少なくとも3つの理由から困難である、とBrynesは主張している。「第一に、縦方向の滑りがあったり、ターン数が多くなったりするとマイクロバンチングが劣化する。第二に、高出力(キロワットレベル)の定常状態の放射を発生させるためには、入射レーザーパルスはターンごとに電子バンチの到着に同期していなければならず、レーザーキャビティとして知られるミラーの配置に合わせて配置されなければならない。そして第三に、ビーム中の電子間の集団的な相互作用は、フィードバックループを使って制御されていない場合、最終的には放射のパワーと明るさを低下させてしまう」。

「当初のコンセプトを改良したいくつかのスキームは、生成される放射線の特性を向上させることができ、Dengらの結果を超えることができる。このような方式を実証することは、かなりの技術的課題であるが、著者らの原理実証実験は、現在のシンクロトロンを凌駕する高出力、高輝度、小帯域幅の光源の実現に向けた道筋を示している。さらに、他のタイプの光源も開発されている」とBrynesは説明した。

ASMLの独占解体につながる?

Dengらが実証した光源は、EUVリソグラフィーに特化したSSMBをベースにした最初の光源は産業用途に適している可能性があるとされており、すでに北京近郊で計画段階に入っているという。

特に有望視される、フォトリソグラフィは、ICチップ製造において最も複雑で重要なプロセスステップである必須の精密装置だ。近年最先端のチップ製造で採用されるEUVリソグラフィーは、髪の毛の直径の1万分の1の波長の極紫外線を使ってウェハ上に回路を「彫る」ことに相当し、最終的には指の爪ほどの大きさのチップに数百億個のトランジスタを搭載できるようになる。オランダのASML社は現在、世界で唯一のEUVリソグラフィのサプライヤーであり、装置は1台あたり1億ドル以上の価格で販売されている。

EUV光源は、EUVリソグラフィの中核をなす基盤だ。光源から出たEUV光は、照明光学系(illuminator)を経て中央上のマスクにいたる。マスクで反射されたパターンは、投影光学系(projection optics)を経て右下のウェハに転写される。チッププロセスノードの縮小が進む中、EUV光源の電力要求はキロワット級に上昇していくと予想されている。要するに、EUV光には、短波長で高出力なものが必要とされるようになる。ハイパワーEUV光源のブレークスルーは、EUVリソグラフィーのさらなる応用と発展に不可欠だ。Chuanxiang Tang教授は「SSMBベースのEUV光源は、平均出力が大きく、短波長への拡大が期待でき、高出力EUV光源のブレークスルーに向けた新たなソリューションアイデアを提供する」と述べた

SSMBベースのEUV光源は、リソグラフィの自主研究開発において最もコアとなる問題を解決するものと期待されている。もしかしたら、将来、ASMLの独占を解体する重要な技術として登場するかもしれない。

参考文献

  1. Xiujie Deng, Alexander Chao, Jörg Feikes, Arne Hoehl, Wenhui Huang, Roman Klein, Arnold Kruschinski, Ji Li, Aleksandr Matveenko, Yuriy Petenev, Markus Ries, Chuanxiang Tang, Lixin Yan. Experimental demonstration of the mechanism of steady-state microbunching. Nature, 2021; 590 (7847): 576 DOI: 10.1038/s41586-021-03203-0
  2. Helmholtz-Zentrum Berlin für Materialien und Energie. "Accelerator physics: Experiment reveals new options for synchrotron light sources." ScienceDaily. ScienceDaily, 24 February 2021. www.sciencedaily.com/releases/2021/02/210224113109.htm.
  3. 清华工物系新研究成果有望为EUV光刻机提供新技术路线. 清华新闻网. 2021-02-26.

Eyecatch Image via 清華大学.

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