米決済大手Stripe、2022年最大のIPOへ

デジタル決済サービスを提供するStripe は、来年中の株式公開に向けて、投資銀行と初期段階から協議を行っていると9月中旬に報じられた。中小企業やスタートアップの決済導入コストを引き下げた同社の上場は最大級のものになるだろう。

米決済大手Stripe、2022年最大のIPOへ

要点

デジタル決済サービスを提供するStripeは、来年中の株式公開に向かっていると9月中旬に報じられた。中小企業やスタートアップの決済導入コストを引き下げた同社の上場は、来年最大級のものになるだろう。


創業11年目の同社は、直接上場または新規株式公開(IPO)による市場デビューを検討し、投資銀行と協議していると、Bloombergが取材した関係者は語っている。

Stripeは3月に6億ドルを調達し、企業価値は950億ドルに達した。コロナ禍によって急速に進行したデジタル化の結果だ。コロナウイルス感染症のパンデミックが消費者のオンラインショッピングへのシフトを加速させた一方で、Stripeや同業他社は決済サービスに対する需要が膨らむのを享受してきた。

WSJが引用した同社の財務状況を知る人物によると、Stripeの昨年の収益は前年比で70%近く増加し、約74億ドルに達したという。決済を促進するために他の金融パートナーに支払う金額を除くと、16億ドルという。

データプロバイダーのCB Insightsによると、この企業価値は、TikTokの親会社であるByteDanceと並んで、世界で最も価値のある新興企業のひとつである。未上場株の取引所では、同社を1,500億ドルと評価する株価がついたとされる。

直接上場(ダイレクトリスティング)は2018年にSpotifyが開拓した、従来とは異なる上場手法。従来型のIPOが、証券会社や機関投資家に有利にできていたが、直接上場ではそれらのコストが大きく圧縮されており、発行体と既存投資家に有利になっている。以下のブログに詳しい。

IPOの衰退と直接上場の台頭
直接上場は米国のテクノロジー企業が高い注目を示す手法だ。プライベート市場の発達が、公開市場に対して影響力を及ぼしている。未上場企業にはベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティのような資金調達ソースが豊富にあり、上場に拘る必要性は低下している。

Stripeは決済処理の基本的なインフラで、通常、各取引の約2.9%(カード手数料が一般的に低いヨーロッパでは1.9%)の手数料を徴収している。

Stripeの手数料は決して安いものではないが、その魅力は、決済の導入コストを大幅に引き下げることだった。従来決済を手に入れるのに苦労していた中小企業や新興企業(弊社もその1社)にとって、非常に有用なサービスとなった。

Stripeはオンラインコマースを可能にするために、開発者が決済機能を実装できるAPI群を構築している。これらのAPIは、コンプライアンスとセキュリティを確保しながら、受け入れや処理から支払い、決済までのすべてを処理する。Stripeが提示しているガイドラインに沿えば、これらの導入のためにユーザー企業のソフトウェアエンジニアはほとんどコードを書く必要がないケースすらある。

過去10年の間に、Stripeはそのプラットフォームを決済処理にとどまらず、Stripe Connectを通じてより複雑なマーケットプレイスの取引を処理するまでに拡大してきた。

Stripeはまた、決済以外の分野にも力を入れている。昨年、Stripeの融資部門は、Lightspeed POSのソフトウェアを使用している小売業者など、顧客の顧客に中小企業向けの融資を行うことを発表した。また、Stripeがサービスを提供しているShopifyやその他のプラットフォームの顧客に、銀行口座やデビットカード、現金管理サービスを提供する取り組みも、今年中に開始される予定だ。

アイルランド出身の兄弟が創業

アイルランド人のパトリックとジョンのコリソン兄弟は、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学をそれぞれ中退した後、2010年にStripeを立ち上げた。二人は、自分たちの起業した会社がクレジットカード決済の承認を得られなかったことに不満を感じ、自分たちでソリューションを構築することを決意したという。

Stripeはまず、銀行が特に軽視していた新興企業との取引を開始。Shopify, InstacartやDoorDashなどの顧客がブレイクすると、Stripeもそれに合わせてブレイクした。

Stripeは静かに、しかし急速に成長した。2019年末には、世界中の何百万もの企業のために大量の決済を処理するようになり、Amazonなどの大企業を顧客に数えていた。

Stripeは新製品の導入や地理的範囲の拡大のために「次の10年を見据えて、2021年に向けて莫大な投資を行っている」という。

ただし、主要な拡大先の欧州にはすでに地元のフィンテックプレイヤーが雨後の筍のように増えており、多額の資金を集めている。欧州の細分化された市場を考えると、地域が多数の勝者を生み出す可能性は否定できず、米国での勝ち筋がそのまま応用できる場所ではないだろう。

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