ステーブルコイン崩壊が仮想通貨のドミノ倒しを引き起こすシナリオ
先週、暗号通貨エコシステム最大の脆弱性のひとつであるステーブルコインが業火に包まれた。ドルに連動するはずの無担保型ステーブルコイン・テラが暴落し、設計ではコイン1枚当たり1ドルの価値で取引されるはずのテラは15日午後3時現在、20セントで取引されている。
ステーブルコインは、暗号通貨界全体にとって不可欠なものである。その理由は、規模ではなく、流動性という重要な役割を担っていることにある。暗号通貨と実際のドルとの取引における技術的・法的問題を解決するために、暗号市場は独自の仮想ドルを考案した。これによりトレーダーは一度、法定通貨にお金を戻すことなく、トレーディングを続行する利便性が保証された。不安定なデジタルコインに賭ける合間に現金を安全に保管する場所となっているのだ。
いまや、暗号通貨市場の取引、ひいては流動性は、ステーブルコインに依存している。特に、分散型金融(De-Fi)はステーブルコインで動いているケースが多い。
テラが複雑でいかにも持続可能性の薄いメカニズムに依存してドルとのペッグを表現していたのに対し、流通するコインと同等のドル準備を持つと主張する伝統的なステーブルコインは安全だと主張する仮想通貨愛好家は多い。
ステーブルコインは複数あるが、テザー(USDT)、USDC、BUSD、テラの上位4種で市場の9割を占めている。それぞれのシェアは、46、24、10、10である。このうち10%が消失へのサイクルに入ったことは間違いない。
しかし、この最大のシェアを占めるステーブルコインであるテザーが、仮想通貨間の橋渡しとなり、暗号通貨全体の流動性を担保している現状を鑑みると、テザーが失われれば、暗号通貨界全体の安定性が失われるリスクがある。
このような重要な役割にもかからわらずテザーは脆弱性を露出している。テザーは先週、米ドルとの1対1のリンクを一時的に解除した。ビットコインや他の難解な暗号通貨とは異なり、ステーブルコインはその名前が示すように、ボラティリティを回避することを意図している。その安定性が今、疑問視されており、暗号市場全体が不安な状況にある。
同社は「検証済みの顧客」に対して1対1の1ドルでの償還を保証しているが、「テザー・トークンを裏付けるためにテザーが保有する準備金の流動性の低下、利用不能、損失によって償還の遅れが必要となった場合」は、償還が遅れる可能性があるという注意書きがある。
しかし、テザーの資産が本当にコインを完全に裏付けているのかどうかという疑問が根強い。それに関連して米国の2つの監督機関から罰金を科されてきたことも不安を助長している。
以前、テザーは、その準備金はすべてドルで構成されていると述べていた。しかし、2019年にニューヨーク州司法長官と和解した後、この立場を覆した。同社の開示資料から、現金はほとんどないが、正体不明のコマーシャルペーパーをたくさん持っていることが明らかになった。
仮にテザーが800億ドルのコインを流通させるために800億ドルの資産を本当に持っているとすれば、世界最大のヘッジファンドの仲間入りをすることになる。
ずっと規制の穴だった
ステーブルコインは規制の穴であり、この穴を活用しようという試みは絶えなかった。
たとえば、FBの仮想通貨「ディエム」(元はリブラ)もこの穴をつくことを選択し、ステーブルコインを採用した。リブラはビットコインとは競合せず、中央銀行、商業銀行のリテール部門と競合する。国家のマネタリーシステムの上にレイヤーを敷いて、自作の通貨制度を建てる挑戦だった。Facebookはリブラの準備金を低リスク金融商品で運用するが、運用益はFBのものになる。
暗号通貨という枠組みを利用してはいるが、リブラは中央銀行が発行する法定通貨に似ていた。既存の金融システムの制約から解放された法定通貨であり、Facebookの制約のなかに収まる法定通貨だ。そしてリザーブの多くを国内外の公社債や譲渡性預金(CD)、コマーシャル・ペーパーなどの短期金融資産に投資するMMF型の運用を宣言していた。
規制が速いか、それとも崩壊が速いか
規制当局や中銀の主な懸念は、テザーにも取り付け騒ぎが延焼し、最大手ヘッジファンドのサイズの資産が忽然とこの世界から消えることで、金融システム全体のショックにつながることだ。恐らくそれを避けるために迅速に規制を強化する方向に向かう見方が支配的だ。
だが、ステーブルコインの脆弱性がこれほどまでに露出し、同時に価値が莫大なものとなっているいま、それを崩壊させるインセンティブは様々なプレイヤーに存在することを注記しておこう。最悪のケースでは、コントロール不能の災害へと向かいうるのだ。