ステーブルコイン崩壊が仮想通貨のドミノ倒しを引き起こすシナリオ

ステーブルコイン崩壊が仮想通貨のドミノ倒しを引き起こすシナリオ
Photo by Mariia Shalabaieva on Unsplash

先週、暗号通貨エコシステム最大の脆弱性のひとつであるステーブルコインが業火に包まれた。ドルに連動するはずの無担保型ステーブルコイン・テラが暴落し、設計ではコイン1枚当たり1ドルの価値で取引されるはずのテラは15日午後3時現在、20セントで取引されている。

仮想通貨の市場崩壊はどれくらいひどいか?
ドルに連動するはずの無担保型ステーブルコインUST(TerraUSD)が暴落。取り付け騒ぎの様相だ。仮想通貨業界には1つ大きな傷口が生まれたが、これが連鎖的なリスクを引き起こす可能性に留意しないといけない。

ステーブルコインは、暗号通貨界全体にとって不可欠なものである。その理由は、規模ではなく、流動性という重要な役割を担っていることにある。暗号通貨と実際のドルとの取引における技術的・法的問題を解決するために、暗号市場は独自の仮想ドルを考案した。これによりトレーダーは一度、法定通貨にお金を戻すことなく、トレーディングを続行する利便性が保証された。不安定なデジタルコインに賭ける合間に現金を安全に保管する場所となっているのだ。

いまや、暗号通貨市場の取引、ひいては流動性は、ステーブルコインに依存している。特に、分散型金融(De-Fi)はステーブルコインで動いているケースが多い。

テラが複雑でいかにも持続可能性の薄いメカニズムに依存してドルとのペッグを表現していたのに対し、流通するコインと同等のドル準備を持つと主張する伝統的なステーブルコインは安全だと主張する仮想通貨愛好家は多い。

ステーブルコインは複数あるが、テザー(USDT)、USDC、BUSD、テラの上位4種で市場の9割を占めている。それぞれのシェアは、46、24、10、10である。このうち10%が消失へのサイクルに入ったことは間違いない。

しかし、この最大のシェアを占めるステーブルコインであるテザーが、仮想通貨間の橋渡しとなり、暗号通貨全体の流動性を担保している現状を鑑みると、テザーが失われれば、暗号通貨界全体の安定性が失われるリスクがある。

暴落したテラ
暴落したテラ

このような重要な役割にもかからわらずテザーは脆弱性を露出している。テザーは先週、米ドルとの1対1のリンクを一時的に解除した。ビットコインや他の難解な暗号通貨とは異なり、ステーブルコインはその名前が示すように、ボラティリティを回避することを意図している。その安定性が今、疑問視されており、暗号市場全体が不安な状況にある。

同社は「検証済みの顧客」に対して1対1の1ドルでの償還を保証しているが、「テザー・トークンを裏付けるためにテザーが保有する準備金の流動性の低下、利用不能、損失によって償還の遅れが必要となった場合」は、償還が遅れる可能性があるという注意書きがある。

しかし、テザーの資産が本当にコインを完全に裏付けているのかどうかという疑問が根強い。それに関連して米国の2つの監督機関から罰金を科されてきたことも不安を助長している。

以前、テザーは、その準備金はすべてドルで構成されていると述べていた。しかし、2019年にニューヨーク州司法長官と和解した後、この立場を覆した。同社の開示資料から、現金はほとんどないが、正体不明のコマーシャルペーパーをたくさん持っていることが明らかになった。

仮にテザーが800億ドルのコインを流通させるために800億ドルの資産を本当に持っているとすれば、世界最大のヘッジファンドの仲間入りをすることになる。

ずっと規制の穴だった

ステーブルコインは規制の穴であり、この穴を活用しようという試みは絶えなかった。

たとえば、FBの仮想通貨「ディエム」(元はリブラ)もこの穴をつくことを選択し、ステーブルコインを採用した。リブラはビットコインとは競合せず、中央銀行、商業銀行のリテール部門と競合する。国家のマネタリーシステムの上にレイヤーを敷いて、自作の通貨制度を建てる挑戦だった。Facebookはリブラの準備金を低リスク金融商品で運用するが、運用益はFBのものになる。

暗号通貨という枠組みを利用してはいるが、リブラは中央銀行が発行する法定通貨に似ていた。既存の金融システムの制約から解放された法定通貨であり、Facebookの制約のなかに収まる法定通貨だ。そしてリザーブの多くを国内外の公社債や譲渡性預金(CD)、コマーシャル・ペーパーなどの短期金融資産に投資するMMF型の運用を宣言していた。

Facebookの仮想通貨Libra (リブラ) はマネタリーシステムをハックする
リブラはビットコインとは競合せず、中央銀行、商業銀行のリテール部門と競合する。国家の管理通貨制度の上にレイヤーを敷いて、自作の通貨制度を建てる挑戦。Facebookはリブラの準備金を低リスク金融商品で運用するが、運用益はFBのものになる。
Facebookの暗号資産 Libra (リブラ) 2.0の解説
Libra協会は2020年4月にホワイトペーパーのv2.0を発表した。Libraコインは単一通貨ステーブルコインとそれらのバスケットである複合ステーブルコインの二階層にマイナーチェンジ。規制当局の激しい反発と中国などのデジタル通貨(CBDC)開発の潮流が背景にある。

規制が速いか、それとも崩壊が速いか

規制当局や中銀の主な懸念は、テザーにも取り付け騒ぎが延焼し、最大手ヘッジファンドのサイズの資産が忽然とこの世界から消えることで、金融システム全体のショックにつながることだ。恐らくそれを避けるために迅速に規制を強化する方向に向かう見方が支配的だ。

だが、ステーブルコインの脆弱性がこれほどまでに露出し、同時に価値が莫大なものとなっているいま、それを崩壊させるインセンティブは様々なプレイヤーに存在することを注記しておこう。最悪のケースでは、コントロール不能の災害へと向かいうるのだ。

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)