テスラの蓄電システム日本参入の衝撃

バーチャルパワープラント (仮想発電所) 構築に弾み

テスラの蓄電システム日本参入の衝撃
高砂熱学 イノベーションセンター(茨城県つくばみらい市)にて稼働中のMegapack(夕景). Image by Tesla.

要点

テスラが日本での大型蓄電システムの導入を開始した。エネルギー源の多様化が求められ、容量市場や需給調整市場の設計が進む中、バーチャルパワープラント(VPP)の導入は不可避だが、その必要条件である蓄電設備に強烈なテコ入れが起きた格好だ。


テスラ大型蓄電システムMegapack(メガパック)が、高砂熱学イノベーションセンター(茨城県つくばみらい市)に設置され、2021年4月より稼働を開始した。Megapackは、同センターにおける発電設備である超小型木質バイオマスガス化発電、太陽光発電 約200kW により発電された電気を施設内の需要に合わせて適切に蓄電・放電することで、施設全体のエネルギーの自立化、電力の安定供給を支援するという。

さらに19日にはより規模の大きいMegapackの投入がアナウンスされた。テスラは株式会社グローバルエンジニアリング、株式会社エネ・ビジョンと協働し、Megapackを使った日本初の蓄電池発電所「北海道・千歳バッテリーパワーパーク」(北海道千歳市、2022年より稼働予定)を建設すると発表した。

「同パワーパークは、株式会社グローバルエンジニアリングにより運用される。グローバルエンジニアリングがアグリゲーター事業者として、太陽光発電などによる再生可能エネルギー電力、節電等により生み出されたネガワット電力、自家発電設備による電力、Megapackにおける貯蔵電力を同一グループ下でバランシングし、電力系統の安定化を図る。さらに、電力卸市場、需給調整市場、容量市場へも参加し、更なる系統安定化への貢献、収益化が見込まれている」とテスラは説明している。

日本経済新聞によると、グローバルエンジニアリングは北海道電力の送電網にテスラの蓄電池システムを接続し、電力の調整弁として機能させる。1キロワット時当たりの納入価格は5万円弱と従来の推計価格(24万円強、19年)を大きく下回る。電池の調達元は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)。テスラは有利な条件で取引できるとみられるという。

蓄電システムはどう働くか

これは多数の小規模な発電所や、電力の需要抑制システムを一つの発電所のようにまとめて制御を行うバーチャルパワープラント(仮想発電所、VPP)の日本への導入にとって弾みになるプロジェクトと言えるだろう。VPPは、日本ではまだ実証段階であるが、欧米では商業ベースでの取り組みが進んでいる。

現行の電気系統の課題は、需要と供給がリアルタイムに一致しないと、周波数や電圧が変動し、機器の損傷や停電につながることだ。電気系統自体には蓄電機能がないため、供給される電力と消費される電力のバランスを保つように制御する必要がある。

旧来の化石燃料による集中発電では、需要に応じて供給量を増減させることができ、制御するプラントの数も比較的少なかった。そのため、比較的簡単にバランスを保つことができた。

しかし、再生可能エネルギーが増えてくると、いくつかの課題が生まれる。1つ目は、コントロールが難しくなることだ。需要に応じて発電量を増やすことは容易ではない。また、発電量を減らさないようにしないと、せっかくのクリーンエネルギーが失われてしまう。2つ目は、不確実性と急激な変化。発電量を正確に予測することはできず、すぐに変化してしまう。3つ目は流通。たくさんの小さな発電機が独立して動作している。

風力や太陽光の発電量が多いグリッドでは、供給量にばらつきがあり、供給量の多い時間帯と需要量の多い時間帯が一致しないため、供給量は次のようになる。その結果、電力の余剰や不足が従来よりも大きくなり、しかもそれがかなり急激に変化することがある。電池は、余剰時には充電し、不足時には放電することができ、急激な変動や不均衡を補うために非常に素早く対応することができる。この迅速な対応は、実は革新的でもあり、従来の送電網よりも優れたものになるチャンスでもある。

この役割を果たすために、一般的な石炭火力発電所や天然ガス火力発電所と同じ大きさの巨大な蓄電施設を設置することができる。また、各家庭にすでに設置されている小型のバッテリーを活用することもできる。これらのバッテリーは、バックアップ電源や太陽光発電の消費を助けるなど、地域に密着した価値を提供している。このような小型バッテリーと太陽光発電を備えた家庭や企業を、仮想的な発電所に集約することができる。

電力卸市場、需給調整市場、容量市場にとって大規模かつ分散的な蓄電設備は必要条件だ。バーチャルパワープラントの最大の強みであり、従来の発電所との最も大きな違いでもあるのが、「柔軟性」、つまり電気系統のバランスを迅速かつ多彩にとることができる点にある。VPPは、集約された電力を利用して、取引所での電力価格の変動に反応し、グリッド内の既存の電力供給量に素早く適応し、取引を行うことができる。電力価格は、電力取引所の日中取引では1日に96回もの変動がある。1メガワット時あたり2桁、3桁の価格差があっても不思議ではない。

ソフトウェアがテスラの強み

テスラの強みはハードウェアの設計にとどまらず、ソフトウェアにある。テスラの共通のソフトウェアプラットフォームは、テスラ最大のストレージ製品であるメガパックから、何千ものパワーウォールで構成される仮想発電所まで、テスラ製品のエコシステム全体を支えている。テスラのソフトウェアは、エネルギー貯蔵以外にも、太陽光発電、自動車の充電、マイクログリッドやユーティリティスケールの発電所の運営に必要なテスラ以外の資産もサポートしている。

テスラの最適化ソフトウェアである「自律制御」は、機械学習、予測、最適化、リアルタイム制御のアルゴリズムで構成されており、光熱費の削減、デマンドレスポンスの参加、マイクログリッドの制御、エネルギーの卸売市場への入札に使用される。テスラの自律制御アルゴリズムは、経済価値を最大化するためにエネルギー資産の割当を自動化する。同社の自律制御製品にはAutobidder(電力売買の自動入札ソフトウェア)、Opticaster(リアルタイムエネルギー予測ソフトウェア)、Microgrid Controller(電気系統自律制御コントローラ)などがある。また、テスラは、バーチャルマシンモードなどの機能を用いて、より多くの再生可能エネルギーの供給を可能にするソフトウェアを開発した。

テスラは国内勢に対して価格と付加価値の点で大きなリードを築いているだろう。黒船来航によって日本のプレイヤーが競争力を身につけることを期待したい。

参考文献

  1. You, Shi & Træholt, Chresten & Poulsen, Bjarne. (2009). A Market-Based Virtual Power Plant. 460 - 465. 10.1109/ICCEP.2009.5212012.
  2. Yasuo Yorita. Recent Developments in Virtual Power Plants and Demand Response. IEEJ. July 2018.

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