テスラのバーチャルパワープラントが豪州の試験で好結果

1,000世帯を対象に太陽光発電と蓄電池を利用した21ヶ月間の実証実験

テスラのバーチャルパワープラントが豪州の試験で好結果

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要点

再生可能エネルギーの活用の鍵となる「仮想発電所」技術の試験が豪州で成功した。分散的な発電と蓄電、送電ネットワークは経済や都市の新たな形態を約束している。


豪・南オーストラリア州営電力会社SA Power Networksは、同州の1,000世帯を対象に、太陽光発電と蓄電池を利用した21ヶ月間の「先進的バーチャルパワープラント(VPP、仮想発電所)グリッド統合プロジェクト」の試験を実施し、成功を収めたと先月発表した。

VPPは、多くの顧客が保有するバッテリーや太陽光などの分散型エネルギー資源(DER)を、市場を意識した制御戦略の下で集約するもの。無数のサーバーを仮想化し、抽象化することで、より柔軟なコンピュータ資源としてユーザーに提供するクラウドコンピューティングのアナロジーのようなものだ。VPPは、再生可能エネルギーへの移行が進むにつれ、エネルギーシステムにおいてますます重要な役割を果たすことが期待されている。

2018年、SA Power Networksは、世界最大のVPPになることを目標とするテスラの南オーストラリアVPPプロジェクトが、VPPを配電網に統合するためのこの種の洗練されたアプローチを試験的に実施し、更に大規模な試験の必要性を認識した。SA Power Networksは、テスラおよびオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)と提携して、200万ドルの「Advanced VPP-Grid Integration」試験を開発し、オーストラリア再生可能エネルギー庁(ARENA)から100万ドルの資金援助を受けた。業界初となるこの旗艦プロジェクトは、テスラのVPP展開のフェーズ2を形成する1,000世帯を対象とし、2019年に開始された。

この世界初の試みの結果、SA Power Networksは、グリッド統合の新しいアプローチを用いてVPPの性能を2倍に高め、顧客とVPP事業者に大きな価値をもたらすことができることを示した。

テスラのVPPと電力会社のシステムをつなぐAPI

このプロジェクトでは、テスラのシステムとSA Power Networksのシステムの間で、インターネットを介して安全なリアルタイムのデータ交換を可能にするAPI(Application Programming Interface)を共同設計した。

これにより、テスラのVPPは、SA Power Networksに電子的に登録し、遠隔測定データを提供し、その場所で利用可能な実際の輸出容量を反映した動的な輸出制限を受け取ることができる。このソリューションを実現するために、テスラはPowerwall 2製品のグローバルファームウェアに変更を加え、SA Power Networksは南オーストラリア州のすべてのLVネットワークエリアで利用可能な容量を推定する抽象的なモデルを設計・開発した。これらのコンポーネントは2019年7月に無事納品されテストされた。

2019年10月以降、テスラは、様々なネットワーク条件においてAPI経由で受信した制限値の遵守を維持しながら、以前の静的な制限値であるサイトあたり5kWを超える送電量でVPPの運用に成功している。

このプロジェクトでは、時間的に変化する送電制限と場所ごとの送電制限によって、ネットワークの混雑時や予期せぬイベントの際にネットワークの供給品質を損なうことなく、太陽光発電が行われている時間帯にVPPの総送電容量を5MWから6~8MWに増やすことができることがわかった。また、この試験では、計画的なメンテナンスや計画外の停電の影響を考慮して、ローカルエリアの予測輸出制限を上書きする機能もテストされ、通信が途絶えた場合の安全で明確なフォールバック動作(縮退運転)も実証された。

時間的に変化する送電制限と地域的な送電制限により、DERをより高いレベルで適用することが可能になることがわかった。特に、太陽光発電時間と非太陽光発電時間の間でアービトラージを行う分散型エネルギー貯蔵VPPが有効だ。

またこのプロジェクトはVPPにおいて、電気系統の管理と同時に市場での電力の取引を使用することを初めて実証したものでもある。卸売エネルギー市場での実際の市場取引において、VPP運営者の収益を増加させることが確認された。

Image via Tesla

参考文献

  1. Advanced VPP Grid Integration. ARENA
  2. 将来の再生可能エネルギー社会を 実現するイノベーションの全体像: 変動性再生可能エネルギー導入のための ソリューション. IRENA

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