ギグエコノミーの終わりの始まり
世界でギグエコノミーの再考が進んでいる。一時は新しい労働スタイルやホットなアプリで人々の関心をさらったビジネスは、いまは労働者の劣悪な労働環境の象徴であり、欧米中の重要な政策的課題となっている。
要点
世界でギグエコノミーの再考が進んでいる。一時は新しい労働スタイルやホットなアプリで人々の関心をさらったビジネスは、いまは労働者の劣悪な労働環境の象徴であり、欧米中の重要な政策的課題となっている。
配車サービスUberのドライバーは同社の従業員であり、タクシーセクターの労働協約に該当すると、アムステルダムの裁判官が判決を下した。この訴訟は、労働組合FNVが6月に提訴したもので、Uberがドライバーに過少な報酬を支払い、独立した契約者ではなく、従業員として扱っていると主張した。
Uberは自社はライダーとドライバーを結びつけるテクノロジー企業に過ぎないと主張したが、裁判所は納得しなかった。「Uberとこれらのドライバーの間の法的関係は、雇用契約の特徴をすべて満たしている」と裁判所は判断した。
「本当の自営業者は、自分で料金を決め、仕事の進め方を決めることができる。Uberのために運転するドライバーの場合はそうではない。Uberは時給を決定し、誰がアプリにアクセスできるかできないか、誰がどの車に乗るか、どのように乗車するかを決めている」と組合のスポークスマン、Zakaria Boufangachaは声明で述べている。
FNVは今年初めに食品配送会社のDeliverooに対して同様の訴訟を起こしており、今回は独立した契約者に対する2つ目の勝訴となる。Deliverooはこの判決を不服として、オランダの最高裁判所に上訴している。Uberも同様に控訴する予定だ。
米国の最大の市場の一つであるカルフォルニア州でも状況は変わってきている。カリフォルニア州のギグワーカーの存在を正当化している法律は、UberやLyftのような企業が労働者を従業員ではなく独立請負人として扱うことを認めていたが、8月21日同州地裁の判事は違憲であり強制力がないと判断した。
UberやLyft、DoorDashなどの企業は、この法律のために2億ドル以上を投じてキャンペーンを行い、11月の投票で提案22号(Proposition 22)として承認された。Uber、Lyft、DoorDashなどの企業は2億ドル以上を投じてキャンペーンを行い、Service Employees International Union(SEIU)などの労働団体は反対した。
カリフォルニア州高等裁判所のフランク・ローシュ判事は、この法律は違法に「将来の立法府がアプリを使った運転手を労災法の対象となる労働者として定義する権限を制限する」と判断し、「提案22号全体が執行不能である」と断定した。また、判事は、将来の修正案が議会を通過するには8分の7の賛成票が必要であることも違憲であると判断した。
1月には、UberとLyftのドライバーのグループとSEIUが、この法律の無効化を求めて訴訟を起こしている。この法律では、プラットフォーム側は労働者への福利厚生や保護の提供を免除されているが、医療費補助や最低時給の提供は義務付けられている。Uber、Lyft、DoorDash、Instacartの4社は、この投票法案が可決された場合、労働者に柔軟性といくつかの便益を約束していたが、SEIUなどは、これらの福利厚生は正社員に与えられるものには及ばないと主張していた。
Prop 22の成立のためのキャンペーン組織であるUber、Lyft、DoorDash、Instacartを含むProtect App-Based Drivers & Services Coalition(PADS)は控訴する構え。法律が法廷で争われている限りは有効であるため、控訴審や上告審へと確定判決を先延ばしすることは、PADSの加盟社には利益がある。企業の提案22号キャンペーンのスポークスマンであるGeoff Vetter氏は「このとんでもない判決は、カリフォルニア州の圧倒的多数の有権者に対する侮辱だ」と述べている。
バイデン政権は最近、企業がギグワーカーなどを独立請負業者として分類することを容易にするトランプ時代の規制を無効にし、労働者の分類について雇用者に対してより厳しい執行姿勢をとることを示唆した。労働省は5月、UberやDoorDashのギグワーカーが連邦法上の従業員に区分することを困難にする、トランプ時代の独立請負規則を無効にすると発表している。
マーティ・ウォルシュ労働長官は声明の中で、「独立請負人規則を撤回することで、本質的な労働者の権利を守り、規則が発効した場合に起こるであろう労働者保護の低下を食い止めることができる」と述べていた。バイデン大統領は提案22号に反対し、これはギグエコノミー企業がカリフォルニア州のAB5法を「根こそぎ」にしようとしているものだと主張してきた。
中国も歩を揃える
米国の動きに敏感に反応してか、中国でも同様の動きがある。
中国の規制当局は7月下旬、ギグエコノミーのプラットフォームに対し、料理宅配の配達員が国内の最低賃金以上の収入を得られるようにすること、配達員がアルゴリズムによる不当な要求から解放されるようにすること、ライダーが社会保障を受けられるようにすること、労働組合に参加できるようにすることを命じた。
このガイドラインは、国家市場規制総局(SAMR)が北京の他の6つの政府機関とともに発表したもので、基本的な収入、労働安全、食品安全、適正な労働環境、保険加入など、宅配員の基本的な労働権を保護することを目的としている。料理宅配最大手の美団点評は、約300万人の宅配員を雇用し、2020年には1日平均2,700万件以上の食品注文を受け付けた。
ガイドラインは宅配員からの苦情を受けて作成されたもので、ギグエコノミーの雇用に関する規制が強化される可能性があると考えられている。SAMRは、人力資源社会保障部が他の7つの政府機関とともに「新しい雇用形態」で働く労働者の基本的な権利を保証するための別のガイドラインを発表した数日後に、この発表を行った。これは、食品配達員だけでなく、配車プラットフォームのドライバーやその他の配達員も含まれる。
このガイドラインによると、プラットフォームは、配達員が運営する地域の最低賃金以上の収入を得ることを保証しなければならない。また、配達員のパフォーマンスを評価するために、最も厳格なアルゴリズムを使用することも禁止されている。
さらに同じく7月下旬には、中国のオンラインプラットフォームに雇用されている配達員や配車ドライバーなどのギグ労働者は、ビッグテックとの交渉力を高めるために、組合の結成を奨励すべきだと、中国政府が支援する組合が発表している。
中国経済の大きな流れとして、格差是正がある。中国の習近平国家主席による「共同富裕」への言及が今年に入ってから急増している。最近では多くの資産家を輩出してきた国内テクノロジー産業に対する締め付けを強化。著名な実業家らをもてはやす風潮の行き過ぎも批判している。
共産党中央財経委員会が8月17日に開いた会議では、「高所得の規制・調整を強化するとともに、法に沿った所得を守り、過度な所得を合理的に調整し、高所得層と企業に社会への還元を増やすよう促す」方針が示されている。
時代はギグ・エコノミーに寛容ではなくなっている。
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