半導体不況の出口が見えた? TSMC決算、アナリスト予想上回る
半導体製造の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)の最新決算は、予想を上回り、半導体不況の出口を期待させるものだった。でも、まだ十分な兆候とは言えないだろう。
半導体製造の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)の最新決算は、予想を上回り、半導体不況の出口を期待させるものだった。でも、まだ十分な兆候とは言えないだろう。
19日に公表されたTSMCの決算は、減益となったものの、売上、営業利益についてのアナリスト予想を上回った。同社はガイダンスでも、次の四半期の売上高を188億ドルから196億ドル、2023年通年の設備投資額を320億ドルと予想し、いずれもアナリストの予想を上回った。
魏哲家最高経営責任者(CEO)はアーニングコールで、「当社の事業は、業界をリードする3ナノメートル(nm)技術の好調な立ち上がりと5nm技術の需要増に支えられたが、顧客の継続的な在庫調整により一部相殺された」と述べた。魏哲家は「2024年はTSMCにとって健全な成長を遂げると言いたい」とし、来年は「業界全体よりも好調に推移する」と予想した。
韓国のサムスン電子が今月初旬に発表した第3四半期の業績ガイダンスが市場予想を上回ったことも加わり、ロイターのSarah WuとYimou Leeは、1年に及ぶ世界の半導体産業の低迷が、回復に向かうのではないかとの見方を示している。
TSMCは、ChatGPTの登場をきっかけにしたAIの急成長に期待を寄せている。世界中のテクノロジー企業はAIツールの開発を加速しており、これには台湾の企業が提供する先進のチップが不可欠である。NVIDIAのAI関連の製品群は、TSMCの技術や製造キャパシティに大きく依存している。
TSMCの売上構成の中心は、少しずつスマートフォンから、AIチップを含むハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)へと移行している。HPC部門の売上貢献は全体の42%を占め、前四半期の44%から減少したものの、前年の39%からは上昇した。
ファウンドリ(半導体製造工場)は、市況の回復を見て、設備投資を行うため、主要な半導体装置メーカーであるASMLの受注の回復によって市況の復活を確信できるだろう。ASMLは18日の声明で 、7月から9月までの純受注高は前四半期比42%減の26億ユーロ(4,100億円)であったと発表した。つまり、まだ、明確なシグナルから程遠い。
ピーター・ウェニックCEOは市況見通しについて含みをもたせた。「半導体業界は現在、サイクルの底を通過しており、当社の顧客は今年末までに変曲点が見えると期待している。顧客は、半導体業界の需要回復の形について引き続き不透明感を抱いている。(中略)2024年は、2025年に期待される大幅な成長に備えるための重要な年であるとも考えている」。
先端プロセスの行方
3nm、5nm、7nmののプロセスはTSMCの売上高の59%を占める。このようにビジネス上重要性の高い先端プロセスの展開では、収益源の集中というリスクが見られる。
TSMCは2022年最終四半期から「N3」として知られる3nmチップの量産を開始したが、台湾エレクトロニクス紙Digitimesの9月の報道によると、アップルは2023年を通じてN3の独占顧客となったようだ。予想されていたインテルの3nmチップ採用計画は2024年に延期され、アップルも発注を絞ったことでTSMCに打撃を与えたようだ。
ただし、アップルからは今後もN3の継続的受注を享受できそうだ。アップルのMacとiPad向けM3チップも3nmプロセスを採用すると予想されている。最初のM3デバイスには、13インチMacBook Airと24インチiMacが含まれると予想されており、どちらも早ければ今年10月に登場する可能性がある(*1)。
他方、半導体の高付加価値化を支えてきた要素の一つである微細化は、不確実性をはらんでいる。TSMCは台湾各地で2nmプロセスに対応した工場の建設を進行中だが、半導体の需要が低下し、市場動向が不確実であることから、特に新竹宝山の工場建設のペースが遅れており、工場の稼働開始が2026年に遅延する可能性が高いと台湾の科学技術専門メディア「科技新報」が業界関係者の情報として報道した。
脚注
*1:有名アナリストのMing-Chi Kuoは、2024年に登場する14インチと16インチのMacBook Proの新モデルにはM3 ProとM3 Maxチップが搭載されると予想する。