数年後、RISC-Vの津波が来る
RISC-Vチップを開発するファブレス企業が資金調達環境を背景に急増している。当初から普及が見込まれたローエンドから、データセンター向け、AIチップのようなハイエンドでの採用が拡大しており、これらは数年のうちに本格運用されるだろう。
要点
RISC-Vチップを開発するファブレス企業が急増している。当初から有望視されたローエンドから、データセンター向け、AIチップのようなハイエンドにまで採用が広がっており、数年のうちに市場シェアを急拡大させるはずだ。
半導体業界ニュースレターのSemiAnalysisは、8月末、Rivosという新しいハイエンドRISC-Vチップのスタートアップが誕生し、ステルスモードにあるというニュースを報じた。Rivosには多くの元Appleシニアエンジニアが含まれている。
かつてはAppleが自らチップを設計するという野心を持ち、インテルをはじめとする業界の人材の流入を促したが、最近はその逆が起こっている。
SemiAnalysisはRivosの共同創業者3人を紹介している。Rivos創業者の一人であるブライアン・キャンベルは、RISC提唱者の一人ジョン・ヘネシー現Alphabet会長(スタンフォード大学名誉学長)らが考案したMIPSベースのCPUを製造するSiByteで半導体エンジニアのキャリアを開始。この会社はブロードコムに買収され、合併後の部門で彼はプリンシパルエンジニアになった。
その後、著名チップ設計者Daniel W. Dobberpuhlが起業したP.A.Semiに入社し、エンジニアリング・ディレクターに就任した。P.A.Semiは最終的にAppleに買収されたが、P.A.Semiのチームは、大成功を収めた「Appleシリコン」の取り組みを開始した。キャンベルは Appleのハードウェアテクノロジー部門のディレクターにまで昇進した。これは、iPhone、iPad、Apple Watch、Mac、Airpods用に設計された半導体の幅広いポートフォリオのシリコンを担当する、非常に重要なポジションだった。
Belli Kuttannaは、CTOであり共同創業者。Kuttannaは、テキサス・インスツルメンツ、モトローラ、サン・マイクロシステムズでチップ設計を担当した後、インテルに入社した。インテルではインテル・フェローという名誉ある称号を得た。その後、クアルコムの技術担当バイスプレジデントに就任した。その後、再びインテルに戻り、ニューテクノロジーグループのチーフアーキテクトに就任した。
その後、シニアフェローに昇格し、インテル キャピタルのCTOに就任した。彼は多くの投資先の技術評価を担当し、数十社のスタートアップを立ち上げた。その中でも注目すべきはRISC-VチップのIPを開発、ライセンスするSiFiveへの投資だ。
マーク・ヘイターは、LinkedInで3番目に明示的に名前が挙げられている共同創業者。彼は、DEC、SiByte、Broadcomでシニアエンジニアリングマネジャーを務めた。その後、P.A.Semiに転職し、ハードウェア&システムアーキテクチャー担当の副社長を務めた。P.A.Semiが買収された後は、Appleの取締役を務めた後、新たにファブレス新興企業Agniluxを設立し、COO(最高執行責任者)兼システムアーキテクトを務めた。Googleがこの会社をステルスモードの段階で人材獲得目的で買収した。マークのGoogleでの最後の役職は、エンジニアリング・ディレクターだった。
他にもP.A.SemiからAppleに合流し、Appleでは、アーキテクチャ・検証部門のエンジニアリング・マネージャー、エンジニアリング・ディレクター、CPU設計のシニア・ディレクターを歴任したTse-Yu Yeh、クアルコムのR&DディレクターとしてAI推論機能を備えた製品を開発し、また、クアルコムのRISC Vの取り組みを主導したケン・ドクサー等がバイスプレジデントとして会社に参加している。これらの役員以外にも、さらに十数名社員がいるという。
3~4年後には彼らの仕事の成果が業界を揺るがすかどうか、非常に優秀なメンバーを揃えたチームなだけにその期待は大きい。
新興AIチップ企業がArmではなくRISC-Vを採用
RISC-Vでハイエンド市場に襲いかかったのはRivosだけではない。AIチップの新興企業でもRISC-Vが採用されている。
4月、元AMDのエンジニアであるLjubisa Bajicとジム・ケラーが率いるAIアプリ用のヘテロジニアス・プロセッサの開発会社であるTenstorrentは、SiFiveが開発したRISC-Vアーキテクチャをベースにした汎用CPUデザインのライセンスを取得したと発表した。汎用コアやIPをライセンスすることで、Tenstorrentは製品の市場投入までの時間を短縮することができる。
SiFiveの最新プロセッサであるSiFive Intelligence X280は、64ビット、マルチコア対応のRISC-Vベースのプロセッサ。SiFive Intelligence X280プロセッサは、現代の機械学習ワークロードを加速するために特別に設計されたベクトル命令の包括的な組み合わせであるSiFive Intelligence Extensionsを搭載している。
長年のインテル独壇場に風穴をあけ、今のiPhoneの進化の礎となるA4、A5の設計した、伝説的チップ設計者である、ジム・ケラー(Tenstorrentのプレジデント兼CTO)は「Tenstorrentのアーキテクチャは、Software 2.0の一環として、データで書かれたコードに伴う要求の高まりに対応している。現代のRISC-Vエコシステム向けにCPUとソフトウェアを提供する能力を持つSiFiveとの提携をうれしく思う」と述べている。
新興企業Esperantoは8月下旬、超大規模データセンター向けの1000コア搭載AI(人工知能)アクセラレーター「ET-SoC-1」を発表した。
ET-SoC-1のRISC-Vコアの数は1093個で、1チップ上に搭載されたRISC-Vコア数としては業界最高。7nmの1つのチップに、エネルギー効率の高いET-Minion RISC-Vプロセッサを1088個搭載する。このチップは、レコメンドエンジンの機械学習を対象としている。
Esperantoの創設者でありエグゼクティブチェアマンを務めるDave Ditzelは「われわれは社内で、『RISC-Vでハイエンドを実現できるということを業界に知らしめようではないか。熟練CPU設計者たちの実力を見せつける時が来た』と鼓舞し合った」と語っている。
数年でツールチェーンやエコシステムが格段に進歩する
RISC-Vの優れた特徴は、その拡張性とモジュール式ISA(命令セットアーキテクチャ)にあるため、同じハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)製品の中に複数のタイプのRISC-Vが存在する可能性がある。HPC領域で一般的なAI/MLなどのデータ量の多い計算を満足させるのベクトル処理、システム内の制御やデータ移動にも、同じ基本的なISAを異なる目的のために使用することが考えられる。
エクサスケール・コンピューティングに向けた競争においては、ドメイン固有アーキテクチャ(目的に特化したアーキテクチャ)の開発が現在のところ最善の解決策と目されている。
オープンソースでカスタマイズ可能なRISC-V ISAは、そこに至るまでの現実的で達成可能な道筋を提供しているが、まだ強固なインフラ、ソフトウェア/ハードウェアのツールチェーン、エコシステムが賭けている。これの構築には、業界全体が協力して取り組む必要があるが、数年でかなりの形になっているのではないだろうか。
RISC-Vは小さな組み込み機器から高性能なベクターアプリケーション、AIアプリケーション、そして高度にスケーラブルなアプリケーションまで対応できるISAになろうとしている。
中国でもRISC-Vチップの新興企業が百花繚乱だ。それは別のニュースレターで触れよう。
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