AI不動産仲介iBuyersの不都合な真実

近年、不動産市場の破壊者として日本でも採用の兆しがあるiBuyers。しかし、最近の研究によると、賢く立ち回る仲介業者が増えただけで、市場を効率化する救世主ではないことがわかっている。

AI不動産仲介iBuyersの不都合な真実
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要点

近年、不動産市場の破壊者として日本でも採用の兆しがあるiBuyers。しかし、最近の研究によると、賢く立ち回る仲介業者が増えただけで、市場を効率化する救世主ではないことがわかっている。


米インディアナ州中部では、最近、「iBuyers」(インスタント・バイヤー:「即時的な買い手」の意)が、住宅所有者に従来とは異なるルートで住宅を売買するサービスを提供し始めたとインディアナポリスビジネスジャーナル(IBJ)が報じた

OpendoorとOfferpadは、数週間前にインディアナ州中心部の住宅所有者にインターネットを利用した不動産サービスを提供することを発表。これらのiBuyer企業や、iBuyersサービスを追加したZillowやRedfinなどの企業は、住宅所有者が自分の家に現金でのオファーを依頼することができ、通常は24時間以内に提供される。

iBuyersは、従来の不動産業者のように比較市場分析を行うのではなく、独自に開発したソフトウェアを使用して、売却対象の住宅に関するデータ(立地、特徴、近隣の販売状況など)を収集し、価格を決定する。

一般的に、iBuyerのオファーは厳しい針の穴を通さなければならない。iBuyerの提示額は、住宅所有者に売却を納得させるのに十分な高さであると同時に、住宅が修理されて市場に戻されるまでに会社が利益を得られるような低さでなければならない。

IBJによると、ダンビルに拠点を置くWright Realtorsの不動産業者であるエリック・ミラーは、OfferpadとOpendoorのアプローチをよりよく理解するために、7月下旬に独自の実験を行った。彼は、30万ドルから31万5000ドルの価値があるというダンビルの自宅のオファーを両社に依頼した。

Offerpadは27万5,775ドル、Opendoorは29万7,800ドルと、両社ともミラーの見積もりを下回る金額を提示してきた。この手数料は、住宅所有者が自分の家を売るためにエージェントに支払う手数料と同等か、それよりも少し低い程度だとミラーは言う。

ミラーは、自分の家を実際に売るわけではないので、どちらの会社にも査定の予約を入れなかったという。しかし、ミラーは、iBuyersの修理要求はより広範囲に及び、売り手の利益の8%を食いつぶす可能性があると考えられたという。従来の査定では、必要な修理を確認するのみにとどまるが、iBuyersの場合は、新しい床材やキャビネットの備品など、美観のアップグレードを要求するため、修理費用がかさむ可能性があるとミラーは言う。

様々なiBuyersは、24時間の現金提供、90日までの柔軟な契約完了期間、そして地元での無料引越しや取引中止時の手数料無料などのインセンティブを約束している。iBuyersを利用して選択肢を探る一方で、手元に不動産業者を置いておくのは、悪くないかもしれない。

安く買って高く売るiBuyers

スタンフォード大学経営大学院助教授のグレッグ・ブンチャックのチームは、ミクロレベルの豊富な取引データと物件データを用いて、「iBuyersのビジネスモデルとその住宅市場および住宅所有者への影響を初めて分析した。その結果、iBuyerの市場シェアは、彼らが主に活動している不動産市場で大幅に拡大した。例えば、アリゾナ州フェニックスでは、iBuyersの市場シェアは、2015年には1%未満であったものが、不動産取引全体の約6%にまで拡大している。

iBuyerのビジネスモデルの核心は流動性提供者としての役割である。iBuyerの取引は、購入者が購入時に住宅に居住することを計画する標準的な取引とは異なる。一方、iBuyerは、売り手が引っ越す準備ができた時点で売り手から住宅を購入し、適切な占有者である買い手が現れるまで住宅を在庫として保有する。iBuyerは、これらの取引で約5%の平均的なスプレッド(差額)を得ていることがわかった。

iBuyersは戦略はシンプルだ。安く買って高く売っている。

ブンチャックらの調査によるとiBuyersの購入価格は、非iBuyerの購入者よりも約3.6%低いと推定される。これは、iBuyersが購入した住宅を、同じ郵便番号、同じ時期に、同じ特徴を持つ他の人が購入した住宅と比較した場合の推計である。

iBuyersは家をリフォームしたり、物理的な改善を行ったりしない。この点で、iBuyersは「フリッパー」(中古物件を修繕して販売する業者)とは異なる。ブンチャックらの集めたデータによると、売り手はiBuyerに売却する際、平均して約9,000ドルの値引きをしている。売り手が支払うコストはこれだけではない。iBuyerとの取引における典型的な仲介手数料は、不動産業者の手数料よりも大きいからだ。

研究は、iBuyersの販売価格は、他の販売者が販売した同様の住宅と比較して約1.6%高いことを示している。したがって、iBuyersは住宅を販売する際にもプレミアムの一部を得ていることになる。iBuyersは、他の売り手が提供する同様の住宅よりも高い価格で物件を出品し、出品価格をより頻繁に調整し、出品行動においてより忍耐強いことがわかった。

これらの事実を総合すると、iBuyersのビジネスモデルの重要な側面の一つは、バランスシート上に在庫を保有し、他の販売者よりも「戦略的」に取引を行う能力であることが示唆される。

価値の低い流動性を増やす仲介業者

この研究が示す最も重要な情報は、iBuyersは限定的な条件においてでしか、流動性を提供しない、とブンチャックらが主張していることだ。iBuyersの拡大は、アルゴリズムで比較的正確に価格設定ができ、比較的早く転売できる流動性のある住宅という、特定の市場セグメントに集中しているという。2階建てで比較的安価な建売住宅のことだ。

このような画一的で比較的安価で大量供給されている住宅の売買で、iBuyersは活躍する。ただし、すでに十分な流動性がある市場でもある。Photo by <a href="https://unsplash.com/@brenoassis?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Breno Assis</a> on <a href="https://unsplash.com/s/photos/housing?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Unsplash</a>
このような画一的で比較的安価で大量供給されている住宅の売買で、iBuyersは活躍する。ただし、すでに十分な流動性がある市場でもある。Photo by <a href="https://unsplash.com/@brenoassis?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Breno Assis</a> on <a href="https://unsplash.com/s/photos/housing?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Unsplash</a>

「我々のデータが示唆するように、iBuyersには2つの利点がある。1つは、同時に複数の住宅を保有できるバランスシートのキャパシティを持っていること、もう1つは、売り手からすぐに購入できるアルゴリズムによる価格設定を行っていることだ」とブンチャックらは記述している。

彼らの調査は、不動産市場における流動性供給が、市場参加者にとって高い潜在的利益をもたらすにもかかわらず、なぜ制限されてきたかを明らかにしたという。

流動性の低い住宅は、売主にとって、空き家のままにしておくよりも、売却プロセスの間、その住宅に住んでいた方が相対的に効率的である。iBuyersのような流動性供給者は、再販のために住宅を保有しながら、空き家にしておかなければならない。したがって、流動性供給は、住宅がすでに比較的流動的で価格設定が容易な場合にのみ効率的であり、在庫として長く保有されることはない。

つまり、iBuyersは流動性の低い住宅の売却を可能にするのではなく、すでに流動性の高い住宅をより流動的にすることが示唆されている、とブンチャックは主張している。「言い換えれば、iBuyersの比較優位性は、市場に流動性を追加することを可能にするが、それは流動性の価値が最も低い市場の部分に限られるということである」

つまり、流動性を提供しても価値が低いセクターに流動性を提供する「新たな中間業者」が登場したに過ぎない。iBuyersは見事な発明ではなく、異なる戦略を持った仲介業者を増やしただけに過ぎない。不動産市場の問題を解決する救世主ではないのだ。

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