「PayPay改悪」は次世代決済基盤UPIの呼び水になっている[吉田拓史]

PayPayが他社クレジットカードとの接続を切り「改悪」と非難された。国際的にはインドのデジタル決済システムUPIの台頭が目覚ましく、日本政府も触手を伸ばす。スマホ決済の次幕は、システムの大転換という過激なゲームチェンジなのだろうか。

「PayPay改悪」は次世代決済基盤UPIの呼び水になっている[吉田拓史]
2021年9月28日(火)、インドのベンガルールで、デジタル決済システム「PhonePe」の利用を宣伝する食料品店。PhonePeは本校で紹介する「UPI」の基盤に載っている。Photographer: Samyukta Lakshmi/Bloomberg

PayPayが他社クレジットカードとの接続を切り「改悪」と非難された。国際的にはインドのデジタル決済システムUPIの台頭が目覚ましく、日本政府も触手を伸ばす。スマホ決済の次幕は、システムの大転換という過激なゲームチェンジなのだろうか。


PayPayは5月1日に、自社の「PayPayカード」以外の他社クレジットカードの利用停止を発表したが、「改悪」との評判がSNSを中心に駆け巡り、同社は6月22日にその方針を撤回し、停止の適用を2025年1月まで延期すると発表した。

PayPayは他社クレカの排除の理由を「他社クレカを紐付けて決済を行うユーザーの割合がごく少数」であり、「PayPayを使うのであればPayPayカードを紐付けていただいた方が便利でお得」と説明していた。

覆された決定は、PayPayが他の金融機関・ノンバンクから独立した個人向け金融エコシステムになろうとしていることを意味する。すでにPayPayユーザーは、望みさえすれば、各種の支払いを PayPay銀行、PayPay本体、PayPayクレジットカードによって完結できる。PayPay側は顧客にそうするよう促してきた。

しかし、これは「首位固め」と捉えるべきではない。 PayPayは取扱高が2022年通年で10兆円を超え、日本首位だが、インドやブラジル、中国のようなスマホ決済が浸透した国のサービスと比べると、規模がかなり小さい(下記のブログを参照)。日本のスマホ決済は失敗しつつある、というのが実情で、その中でPayPayはまだ上手く行っているという見方が正鵠を射ている。

インドとブラジルのスマホ決済が日本を圧倒した理由
日本のスマホ決済はインドとブラジルに完敗している。日本が大きな遅れを取り戻す最も効果的な術は、インドとブラジルが中国を参考に築き上げたベストプラクティスを模倣することだ。

実態は、スマホ決済市場が想定よりもかなり早く成熟期を迎えた今、PayPayはこれまで投下した多額の投資を回収しないといけないという危機感に突き動かされたということだろう。

日本のスマホ決済の失態

日本におけるスマホ決済の設計について考察すると、その実体はクレジットカードの再構築とも言える。日本のスマホ決済では、加盟店からの手数料が1.6%〜3.2%の範囲に設定されており、クレカの課す手数料を圧縮しなかった。

PayPayらが課す加盟店手数料は、他国の先進的な例と比べると高い。中国のWeChat PayやAliPayは0.1%。ブラジルのPix、インドのUPIは基本的にゼロである。これは消費者や小売業者、ひいてはメーカーへの新たな課税である。メーカーは商品を小さくしたり、値上げしたりし、小売業者は価格転嫁するため、割を食うのは消費者だろう。

日本、インドのUPIシステムへの参加を真剣に検討中

河野太郎デジタル担当大臣は5月、日本政府はインドの統合決済インターフェース(UPI)への参加を真剣に検討していると述べた、とインドメディアWIONが報じた。インド政府は、日本がUPIに関心を持っていることに感謝し、相互運用性を高めるために共通のe-IDを認識するよう取り組んでいると述べた、という。河野は、UPIは「非常に便利な決済システム」であり、「政府間の相互運用性を高めることができる」「国境を越えた決済のもうひとつのスタンダードになりうる」と述べた、という。河野は、UPIシステムを徹底的に研究し、自国で実施できる方法をチェックするチームをインドに派遣すると発言した。

この発言から類推されるのは、日本がUPIを模範とした決済システムを開発し、国内で運用する。相互運用性が確保されたUPIが企図するクロスボーダー決済システムへ参加するということだ。

UPIは数ある新興国発の決済システムの中でもベストプラクティスの呼び声が高い(詳しくは以下のブログ)。UPIでは政府がPayPayのシステム部分を担い、アプリベンダーは背後のシステムに依存し、アプリを作るだけでペイメントサービスを消費者に提供できる。アプリベンダーからは、UPIの背後で実行される銀行口座間の取引が隠蔽されており、ベンダーはその点に配慮せず消費者向けサービスの開発に邁進できる。

UPI インド政府主導のデジタル決済共通基盤
UPI は、政府主導の多くのデジタル決済製品が相互運用可能なリアルタイム・モバイル・ペイメントを提供するためのソリューション。決済サービスプロバイダーがインド決済公社のサービス群を使用するためのインターフェイスであり、背後のシステムが銀行口座間取引を即時的に実行する。

また、銀行の不満を生みづらい、という利点もある。UPIでは、PayPayのようにシステムに「お金を載せる」のではなく、毎回の決済ごとにUPIを仲介役として口座間の送金が行われるため、口座を提供する銀行としても受け入れやすいシステムになっている。

仮に日本政府がUPIと同様のシステムを投入した場合、手数料2%のPayPayなどには生き残る術がなくなる。インドでも、アントグループとソフトバンクグループ(SBG)が株主だったPaytmが、UPI勢の台頭によって淘汰されたが、このシナリオをなぞることになる。小売店にある乱立した支払いサービスに対応するための端末が姿を消し、手数料の価格転嫁がなくなるだろう。

今後、UPIは暗号通貨以降の中央銀行デジタル通貨(CBDC)の台風の目となっていくことが予想される。5月下旬、シンガポールは自国のデジタル決済インターフェースPaynowとUPIとの連携を開始した。インド準備銀行のシャクティカンタ・ダス総裁は以前、他の数カ国もこのイニシアティブへの参加に関心を示していると述べていた。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

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今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)