
クレディ・スイスの情報漏洩でいかに独裁者やスパイにサービスを提供したかが露見
【ニューヨーク・タイムズ】クレディ・スイス銀行のデータが流出し、国家元首、情報機関の幹部、制裁を受けたビジネスマン、人権侵害者などのために、銀行が数億ドルを保有していたことが明らかになった。
【ニューヨーク・タイムズ、著者:Jesse Drucker, Ben Hubbard】スイスの銀行の顧客名簿は、世界で最も厳重に守られている秘密の一つであり、世界の大富豪たちの身元や、彼らがどのようにして財産を築いたかを知る手がかりとなっている。
世界で最も有名な銀行のひとつであるクレディ・スイス銀行のデータが流出し、国家元首、情報機関の幹部、制裁を受けたビジネスマン、人権侵害者などのために、銀行が数億ドルを保有していたことが明らかになった。
自称内部告発者は、総額1,000億ドル以上を保有する1万8,000以上の銀行口座のデータを、ドイツの新聞「南ドイツ新聞」にリークした。同紙はこのデータを、非営利のジャーナリズム団体「Organized Crime and Corruption Reporting Project」と、ニューヨーク・タイムズをはじめとする世界の46の報道機関と共有した。
このデータは、1940年代から2010年代までに開設された口座を対象としているが、同銀行の現在の業務は含まれていない。
クレディ・スイスの口座に数百万ドル相当の金額を保有していると記載されている人の中には、ヨルダンのアブドラ2世や、エジプトの元大物政治家ホスニ・ムバラクの2人の息子などが含まれている。他にも、1980年代に米国などからアフガニスタンのムジャーヒディーンに数十億ドルの資金を流したパキスタンの情報機関の長官の息子や、長期にわたる汚職スキャンダルに巻き込まれたベネズエラの政府関係者などが口座を持っている。
クレディ・スイスは、超富裕層だけでなく、検索エンジンで名前を調べれば誰でもわかるような問題を抱えた人々にも口座を開設し、サービスを提供し続けていたことが今回のリークで明らかになった。
スイスの銀行は長い間、犯罪行為に関連したお金を受け取ることを法的に禁止されてきたと、スイスのマネーロンダリング防止機関の元責任者であるダニエル・テレスクラフ氏は言う。しかし、この法律は一般的に施行されていないという。
同銀行の広報担当者であるキャンディス・サンは、「クレディ・スイスは、同銀行のビジネス慣行とされる疑惑や推論を強く否定する」との声明を発表した。また、流出した口座の多くは、数十年前にさかのぼり、「金融機関に対する法律、慣行、期待が現在とは大きく異なっていた時代」のものであると述べている。
サンは、クレディ・スイスが特定の顧客についてコメントすることはできないが、流出したデータベースで特定された口座の多くはすでに閉鎖されていると述べている。「残りの有効な口座については、保留中の口座閉鎖を含め、適切なデューデリジェンス、レビュー、その他の管理関連の措置が取られたと確信している」と述べている。
サンは、今回の情報流出は、「当行と、ここ数年で大きな変化を遂げたスイスの金融市場の信用を失墜させるための協調的な取り組みの一環であるようだ」と付け加えた。
今回のリークは、2016年のいわゆる「パナマ文書」、2017年の「パラダイス文書」、昨年の「パンドラ文書」に続くものだ。これらはいずれも、銀行、法律事務所、オフショアの金融サービスプロバイダーの秘密の仕組みに光を当てたもので、犯罪で告発された人を含む富裕層や機関が、主に徴税者や法執行機関の目の届かないところで巨額の資金を動かすことを可能にしている。
今回の情報公開により、スイスの銀行業界、特にクレディ・スイスに対する法的・政治的な監視が強化されることになりそうだ。クレディ・スイスは、2人のトップ・エグゼクティブが突然解任されたことで、すでに動揺している。