過酷な競争にさらされるVCが新興企業の最初期に殺到
過当競争と公開市場の不振にさらされたベンチャーキャピタル(VC)は、新興企業の最初期の段階に投資しようという動きを活発化させている。これまで楽園のようだったアーリーステージで競争の強度が高まることは間違いないだろう。
過当競争と公開市場の不振にさらされたベンチャーキャピタル(VC)は、新興企業の最初期の段階に投資しようという動きを活発化させている。これまで楽園のようだったアーリーステージで競争の強度が高まることは間違いないだろう。
セコイア・キャピタルは米国でArcというアクセラレーションプログラムを開始した。Arcに参加する創業者は、100万ドルの初期資金を受け取るだけでなく、セコイア流の「カンパニーデザイン」を紹介する7週間のプログラムに参加し、継続的な企業の立ち上げ、構築、拡大を目指す。カリキュラムは、セコイアのパートナーに加え、セコイアの投資先企業の創業者や経営者を含むセコイアのネットワークからの客員講師とビルダーが担当する。
セコイアは3月、欧州で先行してArcを開始した。欧州のArcでは「基礎的な講義、ケーススタディ、実践的な演習、グループでのフィールドトリップが組み合わされており、ヨーロッパの第1期生はストックホルムでKlarnaチームと一緒に学んだ」という。米国本国にはYコンビネーターという長期に渡り先行するライバルがおり、Yコンビネーターはセコイア・キャピタルの投資先の重要な供給元の性質を持っていた。
セコイアは、インドと東南アジアではセコイアは、Y コンビネーターのモデルに近いSurgeプログラムを2019年に開始した。同社は数百の応募書類と対面会議を評価した上で、半年に1回程度、15~20社のスタートアップを選定し、コホートでグループ分けを行う。コホートは16週間かけて、自分たちの声を見つけるための基礎知識、ベストプラクティス、仲間との関係の確立を学ぶ。
このようなコホートをこれまでに6回実施した同社は、Surgeを通じて112社の新興企業を支援し、後続のラウンドで合わせて15億ドル以上を提供している。セコイアは、Surgeのために1億9,500万ドルを2度にわたって調達したが、今後は、今月初めに発表したこの地域に向けた過去最高の28億5,000万ドルの「母船」から直接資金を供給するようになった。これに伴い同社はチェックサイズを最大300万ドルまで引き上げたという。
このようなセコイアの動きは、市場環境を反映したものだろう。ベンチャーキャピタル(VC)が最もリターンの優れたアセットクラスであることがわかって以来、ヘッジファンドやプライベート・エクイティが参入し、上場前のレイトステージはすでにレッドオーシャン化している。しかも昨年末からテック株安によって、レイトステージに投資した投資家は含み損を抱えている。
調査会社Pitchbookの米国のVC市場に関する報告書によると、米国のエンジェル・シード市場は、過去数年間に生まれた勢いの波に乗り、金利上昇、高インフレ、地政学的要因など、市場の逆風が吹く中、ディールサイズは引き続き堅調に推移している。米国のアーリーステージの案件もまた、パブリックマーケットの乱気流から少しばかり隔離された状態にある。ディール件数は、これまでで最高とまではいかないまでも、堅調に推移し、ディールサイズとバリュエーションも成長を続けている。
アーリーステージ案件は、第1四半期にラウンドを調達したレイトステージ企業とほぼ同じペースで、価値創造の速度(VVC)(企業価値の成長を年率換算した数値)の中央値は8,300万ドル(約110億円)に達している。VVCは、2021年通年の数字を大きく上回っており、過去数年にアーリーステージで見られた高倍率が、金利やインフレなどの逆風による影響をまだ受けていないことを示している。
おそらくこれには2つ要因がある。一つが、公開市場の不振から隔離されているセクターであることだ。もう一つが、独特なノウハウが必要とされてきたエンジェル・シードとアーリーステージがこれまでヘッジファンドやプライベート・エクイティの草刈場になっていなかったため、たったいま市場のギャップを埋める調整局面を迎えていることだ。
2021年のブーム時に最も攻撃的な投資家だったタイガー・グローバルもアーリーステージに移行したプレイヤーの端的な例である。フィナンシャル・タイムズの報道によると、3月に最新かつ最大のファンドで130億ドル近くを調達したこのヘッジファンド企業は、5月16日に投資家に対して、同ファンドの投資の半分以上がシリーズAまたはシリーズBラウンドであることを明らかにした。
タイガーは5月にエンジェル投資家のシンジケート投資プラットフォームであるAngelList Ventureの1億ドルのラウンドをリードしている。この動きは、アーリーステージ以前の最初期の企業の情報を得るための動きと想定されている。タイガーのTier1のスタートアップのインデックスファンドを作るという戦略は過激で、VC業界に大きな変化をもたらしたが、有力企業の最初期から投資に参加するという次のムーブもまた興味深いものだ。