米国の企業とVC、中国半導体スタートアップに多額の投資

中国で雨後の筍のように生まれる半導体設計企業に米系の企業とVCが大量の資金を供給している。国家間はいがみ合うものの、資本と技術は国境をまたいでいる

米国の企業とVC、中国半導体スタートアップに多額の投資
Photo by Brian Matangelo on Unsplash

要点

中国で雨後の筍のように生まれる半導体設計企業に米系の企業とVCが大量の資金を供給している。国家間はいがみ合うものの、資本と技術は国境をまたいでいる


WSJが引用したニューヨークに拠点を置く調査会社ロジウム・グループのデータの分析によると、米国のベンチャーキャピタル(VC)、チップ業界の大手企業、その他の個人投資家は、2017年から2020年までに中国の半導体業界で58件の投資取引に参加しており、その数は過去4年間の2倍以上に上っている。

ロジウムの調べによると、2020年に米国のVCやその他の個人投資家が参加した中国のチップ分野の案件数は、過去最高の20件に達した。これは、米国の政策当局が中国による米国のチップ企業への投資や製品の購入を阻止しようとし始めた2017年以降、年平均14~15件の取引が行われていることを意味する。米国が中国からの投資に寛容であった過去4年間には、年間5~6件の取引にとどまっており、厳格化と同じ時期に投資が活発化したことになる。

サンフランシスコを拠点とするWalden Internationalは、中国の半導体に最も多くの投資を行っている米国の企業のひとつ。ロジウムのデータによると、2017年から20年の間に中国のチップ企業に25件の投資を行っており、取引全体の40%以上に参加している。

Pitchbook

WSJは分析会社PitchBookのデータを調査しており、WSJのKate O’Keeffe, Heather Somerville, Yang Jieらは「積極的な投資家の中には、大手チップメーカーのインテルも含まれており、現在、米国企業が製造をリードしているチップ設計ツールを専門とする中国のPrimarius Technologiesという会社を支援していることが、明らかになった」と記述している。

さらに、シリコンバレーのベンチャー企業であるセコイア・キャピタル、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ、マトリックス・パートナーズ、レッドポイント・ベンチャーズの中国関連会社は、2020年に入ってから、中国のチップ分野の企業に少なくとも67件の投資を行っていることが、WSJの調べでわかった。

セコイア・キャピタルの中国部門は、2020年以降、中国のチップ分野の企業に少なくとも40件の投資を行っており、その中には、米国が優位性を保ちたいと考えている先端技術の構築を目的としたものも含まれているとWSJは主張した。PitchBookによると、これらの案件には、沐曦集成電路(MetaX)と摩爾線程(Moore Threads)への投資が含まれている。両社とも、人工知能の学習に使用され、米国のNvidiaとAMD等が寡占しているチップ技術であるGPUを専門としている。

Moore Threads

もちろん、中国半導体企業の主要な投資家は中国でもある。

Moore Threadsは昨年10月に設立されたばかりで、GPUを自主開発し、AIプラットフォームを構築しようとしてている。同社のGPU製品はGPGPU(汎用計算に応用されるGPU)やHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)にも対応するものだ。

Moore Threadsは秘密主義の会社で、コアメンバーはGPGPUに強いNVIDIAを筆頭にマイクロソフト、インテル、AMD、ARMなどの出身者が揃うとされる。中国メディアのAI4Autoによると、創業者は2005年にNvidiaに入社し、2020年9月に退社したとされるJames Zhangである可能性があり、彼は同社の中国ビジネスのグローバルバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めていた。AI4Autoは、Winsoulが「GPU分野で15年間働いてきた」「世界的なチップ企業の中国市場でのエコシステムを構築した」人物と説明していることを根拠に推測し、業界関係者から確認が得られたとしている。

2020年下半期から、中国のチップ業界ではGPUへの投資がブームとなっている。同年6月には壁仞科技(Biren Technology)がシリーズAで11億元(約180億円)を調達。啓明創投(Qiming Venture Partners)、IDGキャピタル、Walden International Chinaがリードインベスターを務め、大手家電メーカー傘下のVC格力創投(Gree Venture Capital)も出資した。

今年2月には登臨科技(DENGLIN TECHNOLOGY)が、元禾璞華投資管理(Yuanhe Puhua)元生資本(GENESIS CAPITAL)がリードインベスターを務めたシリーズA+で資金を調達。北極光創投(northern light VENTURE CAPITAL)を含む既存株主らも出資に参加した。

製品化にも新たな進展がみられる。Biren Technologyは初のGPGPU製品「GPU+」がテープアウトし、実働検証を経て顧客にサンプルを配布し始めた。「天数智芯半導体(Iluvatar CoreX)」は1月、7nmプロセスで製造したGPGPU「BI」が昨年11月にテープアウト後の実働検証を終え、12月に量産に入ったと発表した。マイニング機器を手がける「芯動科技(Innosilicon)」は昨年8月、二つのGPU製品を間もなくリリースすると発表した。

Read more

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表 往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史
新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)