“仮想発電所”の設置が進む米国

再エネの採用や電気系統のソフトウェア制御が背景

“仮想発電所”の設置が進む米国

平日朝 6 時発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、最新のトレンドを調べて解説するニュースレター。同様の趣旨のポッドキャストもあります。登録は右上の「Subscribe」ボタンから。

要点

米国ではバーチャルパワープラント(VPP)の設置・運用件数が増加している。再エネの採用や電気系統のソフトウェア制御が進む中、VPPビジネスの潜在性に多数のベンチャー企業が殺到している。


蓄電システム設置ベンチャーのSwell Energyは、ニューヨーク市を管轄する電力会社Con Edison社と共同で、テスラの家庭用蓄電システムPowerwallを利用したバーチャルパワープラント(VPP)をニューヨーク市クイーンズに建設することを発表し、今年2月承認された。このプロジェクトは300世帯が対象で、Con Edison社に500kWの電力容量を提供するだけだが、地域の電気系統をアップグレードするために多額の費用をかけずに済む利点がある。

Swellは、電力会社にPowerwallを使った蓄電プロジェクトを持ちかけ、家庭用電池パックの設置に補助金を出す代わりに、必要なときに電力の一部を利用できる契約を結んでいる。顧客は安価な蓄電システムを手に入れ、電力会社は安価な蓄電システムで配電網を管理できるという互恵的な関係になっている。

再エネ設備と蓄電池の設置と管理に携わるSwellは、長年にわたりテスラのPowerwall設置パートナーとして活動しており、すでに米国内でPowerwallを使ったVPPプロジェクトをいくつか実施した。Swellはテスラのエネルギーチームの初期メンバーであり、Powerwall事業を立ち上げたSuleman Khanが創業した。

Swellは、自社で太陽光発電や蓄電システムを製造していない。その代わりに、LG Chem、テスラといったパートナー企業の電池パックを、屋上の太陽光発電や家庭用エネルギー制御装置と組み合わせて「EnergyShield」という製品を提供し、システムの規模に応じて顧客に月々の支払いを請求している。クラウドコンピューティングの文脈において、LGやテスラがサーバーベンダーだとしたら、Swellはクラウドベンダーのポジションを狙っているとも言える(実際にはテスラはクラウド側まで進出してきている)。

Swellが関与するVPP事業は全米で進行している。例えば、Swellは1月、ハワイ公益事業委員会(PUC)が現地電力会社Hawaiian Electric社との2500万ドルの契約を承認し、オアフ島、マウイ島、ハワイ島を統合するVPPを通じて様々なグリッドサービスを提供することを発表していた。このプロジェクトでは、80MW以上の電池と組み合わされた25MW以上の太陽光発電と、それとは別に需要者側に配置される100MWhの蓄電設備を組み合わせて、3つの島の送電網に容量と周波数応答を提供するとともに、参加している約6,000人の電力請求額を削減することが目的とされている。

Swellは昨年12月、複数のファンドから4億5,000万ドルの資金調達をしたと発表した。Swellは3つの州の電力会社から、分散可能なエネルギー貯蔵施設を確立するよう委託を受けていることが調達の主目的と説明している。

この資金調達は、太陽光発電システム、蓄電池、VPPのセットが今後、大きなビジネスになることを物語っている。調査会社のウッドマッケンジーは、米国の分散型エネルギー資源(DER)は、2025年までに387ギガワットの容量に達し、その間の累積投資額は1,103億ドルになると予測している。

また、電気系統のソフトウェア制御を意味するVPPは、従来の卸電力市場で取引されている「電力量(kWh)」ではなく、「将来の供給力(kW)」を取引する容量市場を可能にすることでも注目されている。

住宅用太陽光発電米最大手であるSunrun社は、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州、ハワイ州でプロジェクトを展開。テスラは、バーモント州とオーストラリアでVPPを運営しており、シェル傘下のソンネンは、ユタ州とカリフォルニア州でプロジェクトを実施し、地元ドイツでのVPP事業を拡大している。発電機メーカーであり、最近バッテリー事業に参入したGenerac社も、Enbala社の買収により住宅用VPP市場に参入しようとしている。

📨ニュースレター登録とアカウント作成

ニュースレターの登録は記事の下部にある「Sign up for more like this」か右上の「Subscribe」ボタンからサインアップをお願いします。あるいはこちらから。

Special thanks to supporters !

Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Mayumi Nakamura, Kinoco, Masatoshi Yokota, Yohei Onishi, Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, Sotaro Kimura, TAMAKI Yoshihito, kanikanaa, La2019, magnettyy, kttshnd, satoshihirose, Tale of orca.

寄付サブスク (吉田を助けろ)

吉田を助けろ(Save the Yoshi!)。運営者の吉田は2年間無休、現在も月8万円の報酬のみでAxionを運営しています。

月10ドル支援したいと考えた人は右上の「Subscribe」のボタンからMonthly 10ドルかYearly 100ドルご支援ください。あるいは、こちらからでも申し込めます。こちらは数量が99個まで設定できるので、大金を助けたい人におすすめです。

その他のサポート

こちらからコーヒー代の支援も可能です。推奨はこちらのStripe Linkです。こちらではない場合は以下からサポートください。

デジタル経済メディアAxionを支援しよう
Axionはテクノロジー×経済の最先端情報を提供する次世代メディアです。経験豊富なプロによる徹底的な調査と分析によって信頼度の高い情報を提供しています。投資家、金融業界人、スタートアップ関係者、テクノロジー企業にお勤めの方、政策立案者が主要読者。運営の持続可能性を担保するため支援を募っています。
Takushi Yoshida is creating writing/journalism | Patreon
Become a patron of Takushi Yoshida today: Get access to exclusive content and experiences on the world’s largest membership platform for artists and creators.

投げ銭

Betalen Yoshida Takushi met PayPal.Me
Ga naar paypal.me/axionyoshi en voer het bedrag in. En met PayPal weet je zeker dat het gemakkelijk en veiliger is. Heb je geen PayPal-rekening? Geen probleem.

Read more

AI時代のエッジ戦略 - Fastly プロダクト責任者コンプトンが展望を語る

AI時代のエッジ戦略 - Fastly プロダクト責任者コンプトンが展望を語る

Fastlyは、LLMのAPI応答をキャッシュすることで、コスト削減と高速化を実現する「Fastly AI Accelerator」の提供を開始した。キップ・コンプトン最高プロダクト責任者(CPO)は、類似した質問への応答を再利用し、効率的な処理を可能にすると説明した。さらに、コンプトンは、エッジコンピューティングの利点を活かしたパーソナライズや、エッジにおけるGPUの経済性、セキュリティへの取り組みなど、FastlyのAI戦略について語った。

By 吉田拓史
宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

Google Cloudは10月8日、「自治体におけるゼロトラスト セキュリティ 実現に向けて」と題した記者説明会を開催し、自治体向けにゼロトラストセキュリティ導入を支援するプログラムを発表した。宮崎市の事例では、Google WorkspaceやChrome Enterprise Premiumなどを導入し、災害時の情報共有の効率化などに成功したようだ。

By 吉田拓史
​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史