「自動車業界の人間ではソフトウェア開発を指揮できない」 VW CEOの更迭理由
フォルクスワーゲン(VW) のCEOの退任は「自動車業界の人間ではソフトウェア開発を指揮できない」という多くの自動車会社が抱える課題を浮き彫りにするものだ。ソフトウェア化は一朝一夕で成就するはずもなく、テスラに追いつくまでにはかなり時間を要するのかもしれない。
フォルクスワーゲン(VW) のCEOの退任は「自動車業界の人間ではソフトウェア開発を指揮できない」という多くの自動車会社が抱える課題を浮き彫りにするものだ。ソフトウェア化は一朝一夕で成就するはずもなく、テスラに追いつくまでにはかなり時間を要するのかもしれない。
先週、VWの主要株主であるポルシェ家とピエヒ家の代表を含む20議席の監査役会は、全会一致でヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)の交代を決議した。
彼の在任中は、VWの強力な労働組合との度重なる衝突に悩まされた。労働評議会は、ドイツ国内の30万人の労働者のほとんどを代表し、同社の監査役会の20議席のうち10議席を占めている。ディースは昨年、VWがドイツ国内で3万人の過剰雇用を抱えていることを内々に示唆し、労働組合から怒りを買った、とフィナンシャル・タイムズ(FT)紙は報じている。
VWの排ガス・スキャンダルを経た2015年にBMWから招聘されたアウトサイダーは、十分な味方を集めることができず孤立していたと言われる。
就任後、ディースは変化の必要性を認識していたようだ。彼は、VWには「ソフトウェア文化が必要だ」と繰り返し語っている。「VW、アウディ、ポルシュの典型的な文化とは異なる、長期的、ブランド的、複雑なもの」でなければならないという。Cariadは、基本的に週単位で展開し、ソフトウェアの人材にとって魅力的であるために、より速くなければならない。私は、CariadをグループやOEMのプロセスや文化から十分に引き離すことができるかどうか心配している。『コピー&ペースト』では絶対にうまくいかない」と彼はLinkedInに投稿している。
しかし、3カ月前、ディースはCariadとVWグループの他の部分との間の緊張関係を認識していたようで、LinkedInの別の投稿で不満をほのめかしている。
VWのソフトウェア部門であるCariadは、VWが幅広い車種を網羅する電気自動車の開発に不可欠な部門と考えられており、入社後、彼の最も重要な仕事の1つは、その立て直しだったと考えられている。EUは最近、2035年から内燃機関車の販売を禁止することを決議したため、この部門が特に重要な役割を果たすことになった。
しかし、自動車会社がソフトウェア部門を持つことのハードルは高いことはよく知られている。ブルームバーグの報道によると、Diessは、主要な新型ポルシェ(Macan EV)、アウディ(Project Artemis)、ベントレーのEVの発売予定を延期させる深刻なソフトウェア開発の遅れの責任を負わされた。ソフトウェアの問題でVWのIDモデルのデビューも延期され、顧客はアップデートを無線でインストールする代わりにディーラーに車を預けなければならない状態が続いている。
Cariadでの相次ぐ失敗によって、フォルクスワーゲンにおいて権力を持つポルシェ家とピエヒ家はディースの支持を取りやめた。 テスラのようなセミ・ソフトウェア企業に特徴的な「Done is better than perfect」の文化は、ドイツでは受け入れられなかったのだ(テスラ車の事故の中には精査を受けないといけないものがあるのは確かだ)。
自動車業界のアナリストであるマティアス・シュミットはブルームバーグの取材に対し、この部門には新しい血が必要だと述べ、ドイツの自動車業界の経営者が自分たちだけで問題に対処できるかどうか疑っているという。
「シリコンバレーから優秀な人材をヘッドハンティングするべきだった」とシュミットは言う。「自動車業界の人間では、ソフトウェアをリードすることはできない」ディースにはソフトウェアエンジニアリングのバックグラウンドはなかった。
「排ガス・スキャンダルへの責任追及をかわし、EV採用のような社内の軋轢を生むアジェンダを行うのに外様のディースを『継投』させるのは好ましかったが、もうそれは済んだし、ソフトウェア部門についてはより専門性のある人に任せたほうがいいから、そろそろ放逐するか」というのが同社上層部の本心のような気もする。
解任される前からディースの足元は失われていた。2021年12月、VWは経営陣を刷新し、外様のディースからいくつかの職責を奪う一方、自動車メーカーのソフトウェア部門であるCariadを率いる任務を課していた。
ライバルのEVメーカー、テスラのイーロン・マスクCEOは、ディースの退任理由をツイートしたマスクは、次のように述べた。「ソフトウェアこそが未来への鍵だ」