WhatsAppは途上国の誤情報工作者の楽園:リンチ殺人から選挙撹乱まで

フェイクニュースにとって、FacebookやTwitterだけでなく、WhatAppも重要な拡散装置です。新興国や発展途上国では、リンチ殺人をもたらすや扇動に利用される例もあります。

WhatsAppは途上国の誤情報工作者の楽園:リンチ殺人から選挙撹乱まで

フェイクニュース、および、誤情報(Misinformation / Disinformation)にとって、FacebookやTwitterだけでなく、WhatsAppも重要な拡散装置です。発展途上国では、リンチ殺人をもたらす扇動に利用される例もあります。

下の画像は、「Viral Media Johor」と呼ばれるインドネシアのWhatsAppグループで広まり、そして後にナイジェリアのグループでも広まりました。画像には「この男はHIVウィルスに汚染された血液をお菓子に入れました。これは昨日BBCニュースの報道の画像です。あなたが大切に思う人に転送してください」と書かれています。画像は後にフェイクニュースだと判明しました。

2カ国のWhatsAppグループで拡散したお菓子に関する虚偽情報

Google、Facebook、Twitter、およびその他のソーシャルメディアが誤った情報を厳しく取り締まるにつれて、虚偽情報で人々を撹乱しようとする悪意の人々は、WhatsAppなどのダイレクトメッセージングアプリを標的にし始めました。

先進国では、WhatsAppはパーソナルなメッセージングアプリとして使用されています。しかし、発展途上国では、多くの人がソーシャルネットワークとして依存するものです。ここでは、何百人ものメンバーのグループに参加することも珍しくありません。人々はスポーツやエンターテイメントへの関心からメディアや政治に至るまでのトピックに特化したグループをフォローし、"Brazilian Grupos de Zap" などのウェブサイトを通じてそれらを見つけます。WhatsAppのグループごとのメンバー数は256に制限されていますが、グループ数に制約はなく、政治家、政党、または社会運動家が、何千ものグループを同時に運営することも珍しくないのです。

問題は、WhatsAppが特に誤情報に対して脆弱であることです。メッセージは受信者のみが読むことができるように暗号化されているため、アプリは個人は政府の検閲を恐れる必要がありません(監視されていないと一部の悪意の人は、悪意の行動をとります)。エンドツーエンドの暗号化のため、企業や政府、市民団体等が誤解を招くメッセージやリンクを事実確認または削除することは、不可能ではないにしても困難に近いのです。暗号化などの背景にある、市民の自由、独立、権利、を守る思想は、図らずとも個人が一定のリテラシーと倫理観を持っていることを前提としています。悲しいことですが、今のところ、そのような個人はこの社会において希少なのです。

暗号化で守られたコミュニケーションは、途上国の権威主義的な政府への不信と相まって、人々がWhatsAppを通じて得られる情報が、政府や企業の力によって「歪曲されていない」と考えることを促すようです。むしろ、プライベートな経路から広まるため、情報を信頼しやすくなります。途上国の大半のユーザーは高等教育を受けておらず、情報の正誤を見極めたり、センセーショナルな誤情報への脊髄反射を抑えたりすることが難しいにもかかわらず。

WhatsApp自体は、誤報の根源ではありません。政治的分極化、民族間の緊張、即時のコミュニケーションの高まり、政治家に対する不信の高まりはすべて、フェイクニュースが栄えている現在の環境に貢献しています。

世界に広がる扇動とパニック

WhatsAppには毎日600億件以上のメッセージが送信されています。これらには、陰謀説、予防接種の誤報、およびインドメキシコで致命的なリンチを引き起こした児童誘拐に関する噂が含まれています。

NewScientistによると、ブラジルのミナス・ジェライス連邦大学の Fabrício Benevenuto と彼の同僚は、ブラジル、インド、インドネシアの何千もの公共グループでの情報の広がりを補足しました。研究者は、政治討論に専念する公開 WhatsApp グループに参加し、3か国で最近行われた総選挙の前後60日間と15日間で、784,000の画像がどのようにユーザーによって共有されたかを追跡しました。チームは、画像の80%が2日後に共有されなくなることを発見しましたが、一部の画像は最初に表示されてから2か月以上も拡散を続けました。

WhatsAppは、1月に、ユーザーまたはグループにコンテンツを転送するための制限を、一度に5人あるいは5グループまで引き締めました。この機能は昨年、誤情報のためにリンチ殺人が発生したインドで試行されました。

Benevenutoはプライベートコミュニケーションにアクセスできませんでしたが、パブリックグループから収集したデータに基づいてシミュレーションを実行し、コンテンツの広がりに対する転送制限の影響をテストしました。彼らは、転送の制限により、コンテンツの拡散が大幅に遅くなることを発見しました。たとえば、コンテンツ全体がネットワーク全体に到達するのに通常5日かかる場合、制限により拡散が50日に遅くなります。

サンタクララ大学助教のRohit Chopraは、ソーシャルメディアは、WhatsAppはインドの政治において重要な役割を果たしたと説明します。ヒンズー教徒の民族主義者(ヒンドゥーナショナリスト)であるバラティヤジャナタ党(BJP)とその強硬な首相候補であるナレンドラ・モディが政権を握るのを助けましたが、2016年の米国の経験とは異なる方法でした。BJPには独自の公式アプリもあります。これには、党員と支持者が投稿した、ヒンドゥー教徒以外に関する虚偽情報と扇動的な宣伝があふれています。WhatsAppは、特に外部の人と認識されている人々に関する恐怖を引き起こすために、噂や虚偽情報を広めるために使用された、と指摘しています。

新興国のニュース消費で圧倒的な地位

Reuters Institute Digital News Report 2019によると、多くの国では、昨年よりもFacebookで過ごす時間が短くなり、WhatsAppとInstagramで過ごす時間が増えています。ただし、Facebookを完全に放棄しているユーザーはほとんどいないため、Facebookは未だにニュースにとって最も重要なSNSです。

しかし、メッセージングアプリが至る所で成長し続けるにつれて、ニュースに関するソーシャルコミュニケーションはよりプライベートになってきています。 WhatsAppは、ブラジル(53%)、マレーシア(50%)、南アフリカ(49%)などの非西欧諸国でニュースを議論および共有するための主要なアプリケーションになりました。

ニュース利用におけるWhatsAppの爆発的な成長は、これまでのところ、ラテンアメリカ、東南アジア、アフリカ、南ヨーロッパ、およびインドに集中しています。これについては、最近の英語の話者に焦点を当てたReuters Instituteの単独レポートで取り上げました。 ブラジルとマレーシアの約半分の人々がニュースにWhatsAppを使用していますが、英国では9%、オーストラリアでは6%、米国とカナダではわずか4%です。これは英語話者に限った調査であり、実際にはアフリカ、インド、インドネシアを含む東南アジアでも、ローカル言語のニュースを読むために活発に利用されていると想定されています。WhatsAppには世界180カ国に15億人の月間アクティブユーザーがいます。

さらに、調査によると、プラットフォームや出版社が国民の信頼を築こうと努力しているにもかかわらず、誤情報や偽情報に対する懸念は依然として高いようです。ブラジルでは、85%がインターネット上で誤情報を心配しているという声明に同意しています。久しぶりに保守勢力が勝利した、2018年のブラジルの大統領選挙は、フェイクニュースの津波に見舞われ、デジタル空間の分極化(Polarization)は深刻だったとThe Guardianは報告しています。

参考文献

Jon Roozenbeek. Melisa Basol. Sander van der Linden. WhatsApp wants researchers to tackle its fake news problem – here’s our idea. 11. Jan. 2019. The conversation.

Donna Lu. WhatsApp restrictions slow the spread of fake news – but don't stop it. NewScientist. 27. September.

Krutika Kale. Cadbury Chocolates Contaminated With HIV?: We Tell You Why It's Fake. Boomlive. 8. Mar. 2018.

Reuters Institute Digital News Report 2019. Reuters Institute. University of Oxford. 2019.

Vindu Goel. Suhasini Raj. Priyadarshini Ravicahndran. How WhatsApp Leads Mobs to Murder in India. New York Times.

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