衆安保険 中華モバイルインターネット専業のインステック企業

衆安保険は、2013年にAnt Financial、中国平安グループ、テンセントの合弁で設立されたインターネット専業の損害保険会社。保険商品と保険技術を同時に提供する世界最大のインステック企業だ。

衆安保険  中華モバイルインターネット専業のインステック企業

衆安保険(ZhongAn)は、2013年にAnt Financial、中国平安グループ、テンセントの合弁で設立されたインターネット専業の損害保険会社。2013年に中国の最も著名な事業家である馬雲(ジャック・マー、Alibaba)、馬化騰(ポニー・マー、Tencent)、馬明哲(平安保険)によって共同設立されたエピソードはよく知られる。 このアイデアは非常にシンプルで、インターネット上で製品を販売する中国初の保険会社を設立するというものだった。

衆安は創立から四年経った2017年、香港証券取引所でIPOを迎えた。インターネット保険会社の初のIPOであり、その年に香港で最大のIPOでもあった。同社は初日に15億ドルの価値を記録。ソフトバンクは上場直後に株式の5%を5億5,000万ドルで購入したことが知られている。衆安の時価総額は9月4日時点で250億香港ドル(32億ドル)に達している。

衆安とKPMGの報告書Insurtech: Infrastructure for New Insuranceによると、近年、中国の保険市場は急速に成長している。2017年、中国の総一次保険料は3.1兆人民元(約4300億ドル)に達し、世界第2位の保険市場となった。オンライン保険は、業界全般よりもさらに速い成長を達成している。過去5年間で、中国のオンライン保険料総額は2013年の110億700万人民元から2017年の1835億3千万人民元へと約20倍に増加した。業界の成長の主要なドライバーとであるインステックを開拓したのは間違いなく衆安なのである。

香港上場3カ月後の2017年12月、衆安保険は香港法人「衆安国際」を設立、グローバル化の一歩を踏み出した。また、今年8月の中間決算発表では、衆安国際がソフトバンク・ビジョン・ファンドと2億ドルを拠出して合弁会社を設立し、海外企業に商品を販売することになっている。

衆安国際が重要視する市場はアジアであり、シンガポール、タイ、マレーシア、日本、韓国に進出。衆安国際はソフトバンクの投資先を潜在的なパートナーと捉えており、その最初の例がビジョン・ファンドが出資するGrabだった。衆安はGrabの直近のラウンドに投資し、同時に衆安国際とGrabはシンガポールで合弁会社を設立すると発表している。

衆安国際単体でも日本の損保ジャパン日本興亜との提携など海外展開を進めている。衆安は香港の「バーチャルバンク」のライセンスを取得する数少ない金融機関のひとつでもある。

デジタルビジネスの保険

同社の保険商品は電子商取引、オンライン旅行アグリゲーター(OTA)等のエコシステムを補完する役割を提供する。

同社が最初に市場に投じた商品は「返品送料保険」だ。これは、マーケットプレイスの淘宝網(タオバオ)などで商品を購入するときに商品が、予想したモノ・品質でなかった際に返品する場合の返送料金を補償する保険だった。

買い手はタオバオの支払いページで返送保険情報を確認できる。商品を返品する場合、保険会社は運賃の一定額を支払う。現在、この保険商品は、顧客向けの買い手のバージョンと、マーチャント向けの売り手のバージョンを備えている。返送が生じた際に売り手が支払うコストの一部を補填する保険も用意されているということだ。

返品送料保険の成長は著しく、2017年通年で、衆安は68億の返品配送保険を提供。 2017年の11月11日の「独身の日」、衆安は1日で3億件以上の保険を提供したのだ。

返品送料保険のほかにも「フライト遅延保険」や「スマホ破損保険」などの商品を開発してきた。これまで衆安保険は、日常消費・ファイナンス・航空旅行・健康・自動車保険の5大分野において300以上の保険商品を投入してきた。

衆安保険の5つの事業領域。300を超える保険商品を提供する Via 損害保険ジャパン日本興亜

このような多量の商品を短期間で開発する基盤となるのは、ソフトウェアエンジニアとIT関連担当者で社員の50%を超える、従来型の保険会社からは想像のできない人員構成だ。インターネット企業の製品開発と同様、商品担当者と開発者が最初から同一チームで商品開発に携わるという。

遺伝子による失踪保険

衆安のTonganbao Children's Safety Insuranceは、強力な遺伝子検査技術に基づいている。「Tonganbao システム」は、遺伝分析を使用して、各子供の遺伝子識別カードを作成する。分析結果は遺伝子の特性を示す数字で表され、各子供には個人の遺伝子「タグ」が割り当てられ、これが国家公安DNAシステムに入力される。遺伝子検査サービスは中安生命によって提供され、検査プログラムは人民法院(中国の司法府)によって完了される。

この「保険」は何のためのものか。衆安とKPMGの報告書Insurtech: Infrastructure for New Insuranceはこう説明する。

Tonganbao Children's Safety Insuranceは、遺伝子技術と保険を利用して、失踪した子供たちが我が家に戻ることを支援することを目的としています。 この製品を購入した後、消費者は”失踪児童保険”を受け取り、遺伝子検査を受けます。 子どもが将来行方不明になった場合、Tonganbaoは両親に補償を提供し、DNAプロファイリングを通じて行方不明の子どもを見つけて特定できるようにします。

超個人化健康保険

Bububao 保険は、モバイル端末、ウェアラブルデバイス、健康アプリ、およびその他の技術を使用して、大量の顧客健康データを継続的に監視および収集する Bububaoはこのデータを使用して、健康保険の個別の価格設定を提供する。

システムは顧客の過去の運動記録と予想される目標に応じて、動的な価格設定を伴う健康保険を顧客に提案する。保険に加入した後、顧客は毎日の運動目標を達成するだけでよく、これにより無料の保険やその他の特権を得ることができるという仕組みだ。

TonganbaoとBububao はプライバシーを気にしない中国でしか成立しないサービスかもしれない。

保険会社というよりはデータ管理・分析会社

衆安保険国際ビジネス担当取締役であるBill SongはDigital Insurance Agendaとのインタビューによると、衆安は、300を超えるパートナーシップから得られる多量の行動データを使用して、顧客が保険商品を必要とする瞬間を特定することができるそうだ。

「保険はデータゲームです。 将来、IoT、テレマティックス(移動体に移動体通信システムを利用してサービスを提供することの総称)、ウェアラブルコンピューターのすべてが膨大なデータを生成するでしょう。 問題は、このデータを使用して、新規顧客向けにカスタマイズされたソリューションを実際に開発するかです。 顧客が同じ保険商品を2度目に購入する場合、価格設定のさまざまなシナリオを検討できます。 「最近の購入で顧客の最新データを理解して使用すること」—それが好ましい方向でしょう

衆安は自動車セクターの提携先に「Data Cube(データキューブ)」と呼ばれるデータプラットフォームを提供している。データキューブは人工知能とアルゴリズムを使用して人々の行動、運転習慣、信用力を分析する。自動車保険会社はデータキューブから得られる洞察を基に新製品を開発しサービスを改良する。

衆安は、Sinosafe Asset InsuranceおよびUrtrust Insuranceと協力してデータサイエンスに関する研究所を設立・運営している。データキューブはこの研究所の研究結果の結晶だ。環球時報によると、衆安の自動車ビッグデータ研究所所長であるPeng Yongは、より多くの保険およびインターネット企業が同盟に参加することを望んでおり、研究所の規模が拡大することを期待していると述べている。

ニューヨークに本拠を置く経営コンサルティングサービスプロバイダーであるオリバーワイマンが発表したレポートによると、中国の自動車保険市場の価値は2016年の6,683億元(1,040億ドル)から2021年には1.2兆元に上昇すると予想されている。自動車保険技術市場は1,240億元から4,120億元に増加し、業界の黄金時代を示していると報告書は指摘する。衆安は自動車保険の開発、販売だけではなく、保険会社のための自動車保険技術のベンダーというポジションを獲得している。

このような高度なテクノロジー要件を可能にするのが、2016年11月2日に設立された完全子会社、衆安科技である。衆安科技は、ブロックチェーン、人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの分野における最先端の技術研究を専門とする金融テクノロジー企業である。 同社は、社内および社外のパートナーに効果的な技術製品と産業用ソリューションを提供することを目指している。衆安科技には、Tシリーズ(ブロックチェーン)、Xシリーズ(データインテリジェンス)、Sシリーズ(保険テクノロジー)、Hシリーズ(ヘルスケア)、およびFシリーズ(金融技術)の5つの製品ラインがある。

即時価格設定を可能にする1万パラメータのモデル

先述した電子商取引の返品送料保険は、動的で個別化された価格設定を特徴としている。 顧客が注文すると、会社のモデルは顧客に応じてプレミアムを計算し、情報をリアルタイムで保存し、製品の支払いページにすぐに表示する。 このプロセスには、データ処理能力、大規模コンピューティング、即時的に価格を算定するアルゴリズムが必要である。返品保険には、取引量の大きな変動とピーク時の非常に高いコンピューティングリソースを要することだ。

パーソナライズされた価格設定を実現する価格設定モデルは、顧客、製品、取引記録、ロジスティクス情報を含むさまざまな分野をカバーする「何万ものパラメーター」を備えている。 モデルは、特定の個人およびエンティティの個別の価格設定を即時的に算定する。

タオバオ等の頻繁かつ莫大な取引量に伴い生じる保険需要に対応するため、返送保険のシステムは平均で、毎秒3,500個の保険を引き受けられるように設計されている。ピーク時にはこのレートは最大100倍になるが、システムはその処理をも受容できる拡張性を確保しているという。

参考文献

  1. Insurtech: Infrastructure for New Insurance、衆安保険、KPMG
  2. 新しい保険ITプラットフォームを打ち立てる衆安保険・衆安科技:保険ビジネス、野村総研
  3. "WHAT CAN INSURERS LEARN FROM CHINESE INSURTECH GIANT ZHONG AN?", ACCENTURE INSURANCE

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