10兆円大学ファンド、“低賃金”で1人も雇えず

鳴り物入りの10兆円大学ファンドだが、投資担当者への賃金設定が低いせいで人材が採用できていない。ここをケチると、最終的には手痛い損失を負う可能性を否定できない。

10兆円大学ファンド、“低賃金”で1人も雇えず
"Japanese 10000 and 1000 Yen Bills"by Japanexperterna.se is licensed under CC BY-SA 2.0

要点

鳴り物入りの10兆円大学ファンドだが、投資担当者への賃金設定が低いせいで人材が採用できていない。ここをケチると、最終的には手痛い損失を負う可能性を否定できない。


フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、10兆円大学ファンドの運用担当理事の喜田昌和は報酬水準が国際的な水準を大きく下回っているため、このファンドの最大の課題は優秀な運用担当者を集めることであると語ったという。

喜多は8月のブルームバーグのインタビューで、このファンドはオルタナティブ資産の専門家を広く採用する予定であると述べていた。「全体で少なくとも20人から30人を採用する予定で、ファンドの将来的な方向性によってはさらに拡大する可能性もある」と語っていた。

しかし、喜多は6月に雇用されたが、それ以降雇用された従業員はいない。低い賃金設定が障害となっているようだ。「人材を集めようとしているのは事実ですが、今のところ採用されているのは私だけというのが現実」「採用にあたっては、ある程度競争力のある報酬を設定したいと考えているが、ファンドの趣旨に共感してもらえることを期待している」と喜多は婉曲的な表現でFTに対して語っている。

FTが引用した政府関係者によると、大学ファンドの投資担当者の賃金は、GPIFの投資担当者の賃金(1.7兆ドルを運用する最高投資責任者の年収は約27万ドル)と同等のものになるという。

この種の基金の運用担当者の年収としては、著しく低いものだ。ハーバード大学基金の最高投資責任者の収入が約500万ドルであることを考えると、その水準は世界標準をはるかに下回っている。

内閣府科学技術・イノベーション推進事務局大学改革・ファンド担当室参事官補佐の伊藤 匠はFTに対し「特に日本では非常に難しい。JSTは公的機関であり、給与はそれほど柔軟ではないが、金融業界から非常に優秀な人材を採用したいのであれば、競争力のある給与を設定する必要がある」と語っている。

米国の大学基金を参考

大学ファンドは、3月末までの運用開始を目指している。科学技術分野での世界的地位が低迷している日本を盛り上げ、日本が保持している最先端の研究能力を支援するためには、迅速なリターンが必要だ。高齢化と人口減少が進む日本にとって、イノベーションは長期的な経済成長の鍵となる。

そのために、農林中央金庫のマネーマネージャーだった喜多は、年率4.38%のリターンを達成することを任された。この目標は、日本の巨大な年金基金の過去20年間の平均収益率3.7%を上回るもので、大学基金は比較的リスクの高い資産に投資する必要があることを示している。

3月に発表されたこのファンドは、これまでの日本の資金調達方法とは一線を画すものだ。来年3月の運用開始時には4.5兆円(400億ドル)の公的資金が投入されるが、大学からの資金調達や国債の追加発行により、「近い将来」には10兆円に拡大する予定だ。

このファンドは、日本および海外の株式に65%、世界の債券に35%を配分し、ポートフォリオにはプライベート・エクイティや不動産などのオルタナティブ資産も含まれる予定だ。

文部科学省の科学技術振興機構(JST)が運営するこのファンドは、今月初めに、中曽宏・元日本銀行副総裁やランディス・ジマーマン・ハワードヒューズ医学研究所最高投資責任者など5名の投資委員会メンバーを決定した。

科学技術振興機構のウェブサイトによると、運用担当理事の喜田は農林中央金庫では、20年にわたり資金運用を担当し、現在62兆円に上る同金庫の投資ポートフォリオのうち、オルタナティブアセットを担当したこともある。そのバックグラウンドを見る限りは、10兆円ファンドの投資方針は米国の大学基金よりも保守的なものになると予想される。公的資金で賄われ、保守的に運用される「日本的な」大学基金が現在見えている着陸点だろうか。

追記

米国の大学基金は日本の基金とは規模が異なる。大学基金はリターンの拡大を求める中で、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベート・エクイティに投資するようになり、新興企業を高速で成長させる繁栄のためのエコシステムになっている。

公開市場からプライベート資本市場への転換の背景
年金基金と大学基金が高リターンを追究するようになった

これは日本に欠けているもので、筆者自身、日本のエコシステムの窮状についてブログ記事を書いたことがある。

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