血の海と化したフィンテック

昨年、我が世の春を謳歌したフィンテック新興企業の評価が公開市場と非上場市場の双方で崩壊している。米国の利上げ観測が確実味を増す中、新手の「消費者金融」は生き残りの試練にさらされることとなった。

血の海と化したフィンテック
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昨年、我が世の春を謳歌したフィンテック新興企業の評価が公開市場と非上場市場の双方で崩壊している。米国の利上げ観測が確実味を増す中、新手の「消費者金融」は生き残りの試練にさらされることとなった。


消費者金融のUpstart(アップスタート)はフィンテックの夢のような時期だった昨年、大いに注目を浴びたスタートアップだった。アリペイが提供する個人向け小口融資の「借唄」に着想を得て、世界中で借唄のクローン企業が増える中、アップスタートはその主要な1社だった。

アップスタートはアリペイ同様、銀行、信用組合、機関投資家などの金融機関と消費者ローンをマッチングさせ、そのサービスに対して手数料を課すことで収益をあげている。同社は、フィンテック企業向けのコミュニティバンクであるクロスリバー銀行を通じて、ほとんどのローンを組成している。一部の投資家は、それらを証券にスライスして、アップスタートが主催する取引で販売する。

しかし、他のフィンテック企業の例にもれず、アップスタートも炎に近づいている。第2四半期の同社は、投資家や銀行からの需要が急激に下がった。アップスタートは同四半期に、前四半期より31%少ない32万1,138件のローンをアレンジした。同四半期の収益は、前年同期比26%減の2億2,820万ドルだった。アップスタートは、資金調達の制約が続いているため、第3四半期の収益はさらに25%減少し、約1億7,000万ドルになると予想している。

事業環境の変化は著しいもので、このフィンテックという名を借りた消費者金融が、次の金融危機の火種になりうると言う有名人もいるほどだ。2008年に住宅ローン担保証券を空売りし、一躍有名になったマイケル・バーリは、後払い決済(BNPL)業者の増加や、消費者によるクレジットカードの利用が容易になったことから、無担保消費者金融に懸念を持っている。

データプロバイダーのCB Insightsの2022年第3四半期のデータを見ると、フィンテックの資金調達ブームが去ったことは明らかだ。世界のフィンテックの資金調達活動は2021年以前の水準に戻り、昨年がこの新興企業のカテゴリーにとって新常態というより異常であったことを示している。

2021年はフィンテックの年だった。CB Insightsのデータによると、2021年のベンチャーキャピタル(VC)の資金調達額の約5分の1がフィンテックに流れた。2021年にフィンテックのスタートアップが調達したベンチャー資金は1,315億ドルで、同年に誕生したユニコーンの3分の1がフィンテック企業だった。しかし、絶好調だった今年のフィンテックの資金調達が、VC投資全体とともに減少しており、VCの支出に対してフィンテックが占める割合も減少している。

金利上昇に脅かされ、投資家は財布の紐を固く締めている。 その結果、フィンテックの資金調達は激減している。リサーチ会社eMarketerの最新調査によると、平均的な取引額は2021年の3,200万ドルから2022年には2,000万ドルに減少した。7月から9月にかけて、10億ドル以上の評価を得てユニコーンの地位を獲得した企業は、前年同期の48社からわずか6社にとどまった。退出も停滞している。2021年の最終四半期には27社の上場があったが、直近の1四半期は2社だった。

データプロバイダーのPitchBookは第三四半期のレポートで、最近の伝統的なIPOや特別目的買収会社(SPAC)を通じた合併取引の多くは、投資家が期待したほど大きな儲けを生むには至らず、上場フィンテック企業の株価はピークから60%から80%も低下していると指摘している。PitchBookのアナリストであるJames Ulanは、現在のIPO市況の低迷は、IPOの実行をより困難にし、少なくとも短期的にはバリュエーションが低くなることを意味する、と概説している。

この傾向は、特定のグロースエクイティやレイトステージVCファンドのパフォーマンスに影響を与える可能性がある。米大手VCのジェネラル・アトランティックのマネージング・ディレクター、ポール・ステイマスは、「特にレイトステージの成長に関しては、昨年の今頃よりもディール環境が遅くなっていることは間違いないでしょう」と語っている。「非公開市場の期待値には、例えば公開市場の評価と比較して、まだ入札価格と応札価格の差があるようです」と語っている。

株式市場から始まった惨状は、非上場市場に届いている。10大フィンテック企業は過去1年間で8,500億ドルの価値を失ったが、新規株式公開(IPO)が難しくなるにつれ、BNPLを提供するKlarna(クラーナ)など、資金繰りに窮した最大手の非上場企業は、80%以上もの評価額の引き下げを受け入れざるを得なかった。

いつか、反攻が始まる時が来るだろう。米国だけでも、第3四半期にVCの未投資資金である「ドライパウダー」は2,900億ドルに達し、2016年から2020年までの平均の2倍に到達しており、実弾は十分にある。しかし、目下の地合いは、9月の米消費者物価指数(CPI)が予想を上回る伸びだったことに縛られている。FRBが利上げを決行したとして、様々なリスクにとらわれる一部の消費者金融業者がはたして生き残れるのかどうか、注視する必要がありそうだ。

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