債務不履行続出の商業用不動産は新たな危機の引き金か?

今年、金利上昇の影響で米地銀が数行倒れた。ここに続きかねない危機の震源が、商業用不動産である。特にオフィスでは状況が深刻で、空室率が高まっており、借入コストの上昇が追い討ちをかけている。

債務不履行続出の商業用不動産は新たな危機の引き金か?
2019年5月22日(水)、米ニューヨーク州マンハッタン区にあるブロードストリート85番地のオフィス。WeWorkは、ロンドン、マンハッタン、ワシントンで最大の個人オフィステナントとなり、全体で36カ国に425のオフィスを展開していた(当時)。写真家David 'Dee' Delgado/Bloomberg

今年、金利上昇の影響で米地銀が数行倒れた。ここに続きかねない危機の震源が、商業用不動産である。特にオフィスでは状況が深刻で、空室率が高まっており、借入コストの上昇が追い討ちをかけている。


サンフランシスコの中心街では、ここ数ヶ月の間に、いくつかのオフィスビルが3年前の4分の1の価格で取引されている。ソフトバンググループ(SBG)傘下のWeWorkは4月、サンフランシスコの自社ビルが抱えていた2億4,000万ドルのローンを不履行にした。商業用不動産(CRE)データを追跡するプラットフォームであるTreppによると、このビルは、CMBS(商業不動産担保証券)市場で最後に融資を受けた2014年には2,810万ドルと評価されていたが、新たな評価では950万ドルに過ぎなかった。

サンフランシスコでは、数十億ドルの債務不履行が予期されている。ウェストフィールド、ブルックフィールド・プロパティーズ、パークホテルズ&リゾーツなどの主要な不動産所有者は、ローンの支払いを停止し、不動産を明け渡す準備をしている、とフィナンシャル・タイムズが報じた

ウェストフィールドとブルックフィールドはサンフランシスコのダウンタウンモールを担保にした5億5,800万ドルのローンを不履行とし、パークホテルズは7億2,500万ドルのローンの支払いを停止した後、一流ホテル2軒を引き渡す予定だ。

これらの債務不履行は、サンフランシスコのCREセクターの苦難のシグナルを反映している。しかし、これはサンフランシスコに限った状況ではない。米国から欧州、香港に至るまで、世界中のCREが、10年にわたる低利融資の終焉を受け、次の危機を予測する投資家の焦点となっている。

香港のオフィスががらがらに[ブルームバーグ]
世界で最も高価な商業不動産の一つである香港のオフィスタワーが、これほど空っぽになったことはない。香港は、かつて世界の投資家や地元の大物たちがこぞって欲しがった市場の低迷を長期化させるかもしれない、独特の課題に直面している。

高い空室率、資本コストの増加、資産価値の下落など、課題はさまざまだ。金利上昇によってリスクのない国債がより魅力的になり、CRE投資家は流動性の低い資産に対してより高い利回りを要求せざるを得なくなった。一方、バリュエーションの下落は企業の借入能力の低下を招き、さらなる負債と評価額の切り下げという悪循環を生む可能性がある。

欧州は、歴史的に不動産利回りが低く、負債への依存度が高いため、特に影響を受けている。しかし、米国では、新築ビルや空きビルの過剰、リモートワークの継続的な普及により、より大幅な評価額の下落が見られている。

大手銀行、調査会社、アドバイザリー会社はCREセクターの将来について、それぞれ異なる見解を示している。以下は各機関の見解の要約である。

  • 英リサーチ会社Capital Economics:2025年までにオフィスの価値は35%急落し、2040年までに回復する見込みはない。これは、需要の減少、空室率の上昇、負債の償却のためだ。ハイブリッドワークやリモートワークが不動産を再構築する中、回復にはさらに15年以上かかると予想した。
  • ゴールドマン・サックス:オフィスビルには「機能的陳腐化」のリスクがあると警告している(4月上旬時点)。CREのオーナーが金利上昇にさらされること、借り換えが困難であること、融資条件が厳しくなっていることが主なリスクであると指摘している。また、CRE取引において小規模銀行が果たす役割の大きさにも言及している。
  • モルガン・スタンレー:CREの前途は厳しく、ピーク時からの価格の下落率は40%に達する可能性があり、2007〜2008年の金融危機よりも景気が悪化すると予測している(4月上旬時点)。空室率の上昇、不動産価値の下落、融資条件の厳格化に伴うローンの満期が迫っていることなどが主な問題として取り上げられている。
  • ムーディーズ:金利上昇、在宅勤務の増加、銀行セクターのストレスなどにより、特にオフィスセクターを中心にCREのリスクが高まっているとの報告書を発表した。報告書によると、オフィス向け融資にデフォルトリスクが存在し、と指摘している。CRE債務残高の約16.7%にあたる7360億ドルがオフィス向け融資で占められていると明らかにしました。さらに、CRE債務残高の16%を占める商業用モーゲージ担保証券(CMBS)についても、借り換え時に問題が生じる可能性がある
  • MSCI Real Assets報告書によると、米国のCRE業界では、今年第1四半期、不良資産は約640億ドルに達した。借入コストの上昇は業界に大きな影響を与え、価格を押し下げ、一部の所有者を債務不履行に導いている。経営難に陥る可能性があるのは、いくつかの地方銀行が破綻した後の信用収縮期に借り換えを必要とするビルが主である、と報告書は想定する

一部の観測者は危機を否定している。

  • PwC:高金利やパンデミックによるリモートワークへのシフトといった課題にもかかわらず、PwCはこのセクターは危機的状況にないとみている。取引量はすべてのセクターで減少しているが、状況が改善すればリース活動やディールフローは回復すると予測している。
  • バンク・オブ・アメリカ:CREセクターが直面している課題は管理可能であり、米国経済のシステミック・リスクにはならない。借り手はデフォルトを回避するために資金調達の戦術を取ることができると考えている。

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