電池リサイクルがビッグビジネスになる兆候

リチウムイオン電池(LIB)のリサイクルはEVの世界的なサプライチェーン拡張のさなか、重要な一角を占める兆候を見せている。LIBの供給網を支配する中国がその競争の先頭にいる。

電池リサイクルがビッグビジネスになる兆候
Photo by Kumpan Electric

リチウムイオン電池(LIB)のリサイクルはEVの世界的なサプライチェーン拡張のさなか、重要な一角を占める兆候を見せている。LIBの供給網を支配する中国がその競争の先頭にいる。


LIBのリサイクルを手掛ける「恒創睿能」がシリーズBで3億元(約60億円)超を調達した。回収したバッテリーは自動で無害化処理を施したのち、乾式製錬や湿式製錬などの技術によってニッケルやコバルトなどの金属材料を分離、再びバッテリー産業において利用する。

現地企業情報サイト「知恵芽」のデータによると、恒創睿能とその関連会社は合計80件近くの特許を出願し、そのうち実用新案特許は50件以上、70%以上を占めている。さらに特許データを分析すると、リサイクル技術、リチウムイオン電池、粉砕機、処理ボックスの分野で豊富な技術スタックを実現していることがわかる。

世界中でリチウムが逼迫している中、LIB需要の高騰は止まらない。リチウムが不足しているため、一部のメーカーは減産を余儀なくされている。2026年には、新規プロジェクトの計画により、リチウム市場は再び黒字に転じると予測されている。しかし、そのほとんどは中国にあり、オーストラリアの硬質岩石鉱山や中南米の蒸発かん水池よりも処理コストが高い低品位の鉱床に依存している。

各国のリチウム産出量。EVに使える高グレードのリチウムの意ではない。出典:アメリカ地質調査所(USGS)。「Mineral Commodity Summaries 2022」
各国のリチウム産出量。EVに使える高グレードのリチウムの意ではない。出典:アメリカ地質調査所(USGS)。「Mineral Commodity Summaries 2022」

2000年から2018年にかけて、リチウムイオン電池(LIB)の製造数は80倍にもなった。2018年には、その66%が電気自動車(EV)に使用されている。今後予定されている電動モビリティの発展により、電池の需要は増加し、国際エネルギー機関(IEA)では2019年から2030年の間に、電池の需要は17倍になると予測した。

コンサルタント会社のBenchmark Mineralsは、メーカーが公表している計画を分析し、もしそれが実現すれば、2031年までに世界で282の新しいギガファクトリーが稼動するはずであることを発見した。中国に226ヶ所と電池のギガファクトリーが一極集中すると予想されている。インドネシアが24ヶ所と躍進を見せる一方で、日本は蚊帳の外に置かれそうだ。

中国に電池のギガファクトリーが一極集中すると予想される。出典:Benchmark Minerals

このようなLIBの需要の勃興と巨大なサプライチェーンの構築の中で、LIBのリサイクルはビッグビジネスになろうとしている。

LIBリサイクルの課題

ギュスターヴ・エッフェル大学の研究員(輸送用エネルギー貯蔵)であるセルジュ・ペリシエは、これまでは収益性の確保が難しかったLIBのリサイクル技術が急速に進化し、本格的な事業化が可能になりつつある、と指摘している。

LIBには様々な形態がある。EV用電池はニッケルやマンガンを含み、リン酸鉄技術の場合はリチウムを全く含まない。EV用電池はリチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、グラファイトがLIBの製造に使用される主要な原材料である。これらはすべて、需給が逼迫する材料であると認識されている。

いずれの場合も、まず電池を粉砕する必要がある。乾式製錬や湿式製錬の2つのプロセスは、電話やノートパソコン用のLIBをリサイクルして、含まれるコバルトを回収するために工業規模で行われている。コバルトは非常に貴重であるため、これを回収することで現在のLIBリサイクル分野の経済的収益性が確保されている。

しかし、EV用LIBは必ずコバルトを含んでいるわけではないので、リサイクルの経済性の問題は未解決だ。また、リチウム電池の技術は1〜2年ごとに変わるため、技術革新が早いことも課題だという。リサイクルの手法がその技術革新にキャッチアップしないといけない。

さらに、電池の寿命の定義自体も議論の余地がある。例えば、EVを走らせるための「トラクション」と呼ばれる電池は、容量が20〜30%低下した時点で使用不能とされるが、これを転用できる可能性についても追及されている。

事業化の探索は続く

アメリカ地質調査所(USGS)の報告書によると、北米とヨーロッパでリチウム電池をリサイクルしている企業やその計画は20社ほどあり、数年前までは1社しかなかったのが、今では2社に増えている。

4月に中国の車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)の子会社のCBLは4月14日、インドネシアにおいて地場企業2社との間で、ニッケルの採掘・製錬を含むEV用バッテリーの統合事業に関する協力を行うことで合意した。投資額は59億6,800万ドル(約8,200億円)を見込むプロジェクトにはLIBのリサイクル事業の構築も含まれている。

しかし、まだ事業化の探索は始まったばかりだ。今年初めにJournal of the Indian Institute of Scienceに掲載されたニューヨーク大学タンドン工学部機械工学科のニキル・グプタ教授らの研究によると、米国とEUでリサイクルされているリチウムイオン電池は1パーセント未満であるのに対し、ガス自動車や電力網に最も多く使用されている鉛電池は99パーセントもリサイクルされていることが判明した。この研究によると、リサイクルの課題は、常に進化する電池技術、危険な材料の輸送コスト、政府の不十分な規制など多岐にわたるという。

参考文献

  1. Harper, G., Sommerville, R., Kendrick, E. et al. Recycling lithium-ion batteries from electric vehicles. Nature 575, 75–86 (2019). https://doi.org/10.1038/s41586-019-1682-5
  2. Yanamandra, K., Pinisetty, D., Daoud, A. et al. Recycling of Li-Ion and Lead Acid Batteries: A Review. J Indian Inst Sci 102, 281–295 (2022). https://doi.org/10.1007/s41745-021-00269-7

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