浮体式太陽光発電は火力発電キラーなのか?

浮体式太陽光発電(FPV)は急速に成長している。貯水池への設置で火力発電の多くを置き換える可能性があり、特にインドネシアとナイジェリアでは洋上への適用が可能で、莫大な発電が可能とみられている。

浮体式太陽光発電は火力発電キラーなのか?
2023年4月26日(水)、オーストリアのグラーフェンヴェルトにある採石場跡地で、Baywa r.eが運営する発電所に設置された浮体式太陽光発電パネルのアレイから外れたブイ。浮体式太陽光発電(FPV)の需要増加に対応するため、ヨーロッパの政府、企業、電力会社は、使用されていない工業地帯の利用可能な池を探し回っている。写真家: Michaela Nagyidaiova/Bloomberg

浮体式太陽光発電(FPV)は急速に成長している。貯水池への設置だけで火力発電の多くを置き換える可能性があり、特にインドネシアとナイジェリアでは洋上への適用が可能で、莫大な発電が可能とみられている。


米陸軍は6月、ノースカロライナ州フォート・ブラッグのビッグ・マディー湖に浮体式太陽光発電所を公開した。パネルの発電量は約1メガワット(MW)と予想され、一般家庭約190軒分に相当する。

FPVの設置は米国で勢いづき始めている。現在、米国における年間太陽光発電設備の2%に過ぎないが、FPVには独自の利点がある。初期費用は高くつくものの、水による冷却効果で陸上のパネルよりも発電量が多く、長期的に見れば効率的だ。さらに、特に人間が作った水域に設置する場合、土地利用との衝突が避けられ、より環境に優しくなる。

FPVを世界の水力発電貯水池のわずか10%に設置すれば、世界中で稼働している化石燃料発電所と同程度の電力を生産できる可能性がある、とコーネル大学天然資源環境学部准教授のPeter B. McIntyreらは科学誌「Nature」への記事(2022年)で述べている。

科学誌『Nature Sustainability』で2023年3月に発表された南方科技大学環境科学与工程学院准教授であるZhenzhong Zengらの国際チームの研究によると、ソーラーパネルで世界に存在する約11万5,000カ所の貯水池の表面の30%を覆うことにより、毎年9,434テラワット時の電力が生成できるとされている。

これは、米国全体の年間発電量の2倍以上に相当し、124カ国にある6,200以上の都市の電力需要を完全に満たすことが可能だ。これは、現在の太陽光発電の約10倍に相当する。パネルは水の蒸発を防ぎ、その過程で、「オリンピックサイズのプール」4,000万杯分の水を毎年節約することができるというおまけつきだ。

研究者は、米国ではフロリダ州、ネバダ州、カリフォルニア州の各郡が、FPVの採用によって使用量を上回る電力を発電できる可能性があると記述している。

欧州でも普及が進む

貯水池や採石場の湖に設置する浮体式太陽光発電システムは、ヨーロッパで人気を集めており、大きな可能性を秘めている。昨年春には、オランダの採石場湖で27.4MWの容量を持つヨーロッパ最大の浮体式ソーラー施設が稼働を開始した。オランダでは最近、さらに2桁MW級の設備がいくつか建設された。大規模なFPV施設もフランスと英国に設置されている。最大手のドイツ企業BayWa r.eは単独で、欧州で総容量約100メガワットのFPV設備を導入している。最近では、ギリシャで貯水池やその他の人工水域に総容量800MW以上の浮体式太陽光発電所を建設する計画を発表した。

浮体式ソーラーパネルが使用されていない工業用地を金鉱に変える
ソーラーパネルを水に浮かべて発電するというアイデアは、ベネディクト・オルトマンが初めて耳にしたときは、危険なギミックにしか聞こえなかった。

ドイツでも浮体式太陽光発電がトレンドとなっており、ラインラント=プファルツ州の採石場湖に1.5MWの太陽光発電所を建設する第一期工事が進行中だ。バーデン=ヴュルテンベルク州の採石場湖に設置された750キロワット(KW)のシステムは、稼働初年度、収量と強風下での安定性の両面で予想を上回った。発電された電力の75%は、砂利採取場の経営者が直接使用した。改正ドイツ再生可能エネルギー法(EEG)は、浮体式太陽光発電を含むさまざまな分野での技術革新入札を規定しており、さらなる設備開発に拍車がかかると期待されている。

洋上FPVの機会は、赤道直下のインドネシアと西アフリカに残されている。オーストラリア国立大学工学部教授Andrew Blakersらの最近の研究によれば、インドネシアだけでも年間約35,000テラワット時(TWh)の太陽光発電が可能であり、これは現在の世界の電力生産量(年間30,000TWh)に匹敵する。インドネシアの海域面積は640万平方キロメートルで、これはインドネシアの将来のエネルギー需要全体をFPVで賄う場合に必要な面積の200倍に相当するという。

Blakersらは、インドネシア群島とナイジェリア付近の赤道直下の西アフリカが、洋上FPVの最大の可能性を秘めている、と主張した(チャート参照)。

(a)最大風速、(b)最大波高、(c)最大風速と波高の組み合わせ。洋上FPVに適した場所ほど青から黄色、そして赤へと近づく。インドネシアと西アフリカが有望なようだ。詳細な地図はhttp://re100.eng.anu.edu.au/ Blakers et al(2023).

これらの地域の特徴は、洋上のFPVを保護するのに比較的安価なエンジニアリング構造で十分だ。世界のほとんどの海が嵐に見舞われる一方で、赤道直下には比較的静穏で穏やかな地域もある。論文では、世界の海洋を調査し、過去40年間に大きな波や強風に見舞われなかった地域を探し出している。

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