米当局、暗号資産を追い出す勢い:中東シフトで日本はどうなる?
暗号資産取引所の上位2社が米国から追い出されそうだ。業界の中心は、暗号資産を経由して移動するマネーと親和性の高い中東に向かうだろう。そして、Web3のロビイングが華やかだった日本はどうなるか?
暗号資産取引所が米国から追い出されそうだ。業界の中心は、暗号資産を経由して移動するマネーと親和性の高い中東に向かうだろう。そして、Web3のロビイングが華やかだった日本はどうなるか?
世界最大の暗号資産(仮想通貨)交換業者であるバイナンスと同社の趙長鵬最高経営責任者(CEO)が、トレーディングおよびデリバティブ(金融派生商品)の規則に違反した疑いがあるとして、米商品先物取引委員会(CFTC)が提訴した。
訴状によると、趙らは、大統領経済諮問委員会(CEA)の規定を故意に無視することを選択し、商業的利益を得るために規制の裏をつく戦略を実行した、とCFTCは主張している。詳しくは末尾の【補足】を参照。
世界2位の暗号資産取引所のコインベースも崖っぷちにいる。同社は22日、米証券取引委員会(SEC)が同社に対し、訴訟の可能性を警告する「ウェルズ・ノーティス(Wells Notice)」を通知したことを明らかにした。
コインベースによると、スポット取引や「ステーキング」商品である「アーン(Earn)」などに関連したものとなる見通しだという。ステーキングは、暗号通貨の保有者が、そのコインを投じてブロックチェーン上の取引の承認手続きに貢献し、その対価として高利回りを得る仕組みだ。
SECの見解では、ほとんどのトークンは証券であり、コインべースの主要な取引業務は、証券取引所または代替取引サービスとして登録する必要があるとのことだ。この見解は1年前からSECの公式見解だった。
SECはコインベースを行き止まりへと追い詰めているように見える。ブルームバーグが引用したニューヨークのJenner & BlockのパートナーであるKayvan Sadeghiの談話では、証券会社として登録されている企業が、暗号資産の取引や保管を促進するための実行可能な道は、既存の規制のもとでは存在しない。つまり、SECのロジックの中では、コインベースが合法的に米国で創業できる道は最初から与えられていないのだ。
中東が暗号資産の中心地に…
FTXが膨大なスキャンダルとともに海の藻屑となり、残された取引所の上位2社が米国での規制当局との法廷闘争を余儀なくされた。米政府が取引所産業を敵視しているのは明白で、長期的に見ると、操業の継続は難しいとみるのが自然だ。
暗号資産業界の軸足は、中東方面に移行するはずだ。ロシアの富裕層がウクライナ戦争の前後で資産を逃避させたドバイは、「様々な背景を持つカネ」が漂着する金融拠点としての地位を確固たるものとしつつある。
ドバイでは、痕跡の残らない対面取引の暗号通貨交換所が繁盛していると言われる。利用者は自国の通貨で暗号資産を購入し、アラブ首長国連邦(UAE)に渡航する。利用者は、暗号通貨ショップにおける相対取引(OTC)により暗号通貨とのUAEの通貨ディルハムを交換し、それをUAE内の金融機関に預けることができる。ブルームバーグが発見した暗号資産ショップでは、売り手は身分証明書を示し、いくつかの質問に答えるだけで、数分で手続きが完了するそうだ。これは暗号資産を経由して世界中の富を集めることに寄与するだろう。
シンガポールは、本土中国の富裕層だけでなく世界中の富豪のファミリーオフィスの拠点として「新たなスイス」としての地位を築いたが、暗号資産業者の全てを歓迎しているわけではない。本拠地を秘匿したまま世界中で操業するバイナンスはシンガポールでの許認可取得において、同国政府から拒絶を受けた。
日本は、暗号資産への課税を引き下げるようロビイングが行われ、与党の一部を動かした経緯から、ディアスポラの受け皿となる可能性はゼロではない。一方で、日本政府には欧米の規制を追いかける傾向があり、これまでの暗号資産への態度が劇的に変化する可能性も否定できない。
【補足】CFTCのバイナンス提訴の訴因
- コンプライアンス管理の迂回を指示。訴状によると、バイナンスは2019年7月から現在に至るまで、米国人に対し、商品デリバティブ取引を提供し、実行した。バイナンスのコンプライアンス管理は名目上のもので効果がなく、趙の指示により、バイナンスは、企業利益を最大化するために、従業員と顧客にコンプライアンス管理を回避するよう指示した、とされる。
- 許認可なしのデリバティブ販売。訴状は、バイナンスがCFTCに登録することなく、デリバティブ取引を促進する役割に基づき、指定契約市場またはスワップ実行施設として行動したことを告発。CFTCは、バイナンスが2020年8月にデリバティブ取引で6,300万ドルの手数料を得たとし、その口座の約16%が米国の顧客によって保有されていることが確認されたと主張している。
- テロ資金・マネロン防止策をとらず。訴状は、関連期間の大部分において、バイナンスのような先物取引業者(FCM)として機能する主体がそのような情報を収集する法的義務があるにもかかわらず、バイナンスはプラットフォームでの取引前に顧客に身元確認情報の提供を求めず、テロ資金やマネーロンダリングを防止・検出するために設計された基本的な遵守手順を実施しなかったと主張している。
- 米国での取引制限後もコンプラ迂回を指示。訴状は、バイナンスが米国の顧客のプラットフォームでの取引を制限するとした後も、バイナンスはその顧客、特に商業的に価値のある米国ベースのVIP顧客に、バイナンスのコンプライアンス管理を回避するための最善の方法を指示していたと主張している。