エヌビディアの対中禁輸は中国の台頭を早めた

禁輸措置のさなか、ファーウェイはエヌビディアのAI半導体に匹敵する製品を作ったようだ。まだ、GPUへの依存を断ち切るには至っていないが、国策企業が、米国企業のテリトリーを奪うのは時間の問題かもしれない。

エヌビディアの対中禁輸は中国の台頭を早めた
2023年6月2日金曜日、台湾の台北にあるエヌビディアのオフィスの看板。エヌビディアのジェンセン・フアン最高経営責任者(CEO)は、ワシントンと北京の間で緊張が高まっているにもかかわらず、世界最大のチップ市場の技術幹部と会談するために中国に向かっている。カメラマン:I-Hwa Cheng/Bloomberg

禁輸措置のさなか、ファーウェイはエヌビディアのAI半導体に匹敵する製品を作ったようだ。まだ、GPUへの依存を断ち切るには至っていないが、国策企業が、米国企業のテリトリーを奪うのは時間の問題かもしれない。


米国が対中禁輸措置をレベルアップしたのに応じて、NVIDIA(エヌビディア)が新たな中国市場向けAI半導体を投入する計画だ、と中国の科創板電報が9日に報じた。「HGX H20」「L20 PCIe」「L2 PCIe」というGPUはすでにサンプル生産の段階にあり、間もなく大量生産に入る予定で、自らは生産設備を持たないファブレスのエヌビディアのサプライチェーン管理能力の高さを示している。

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この報道は、米国の規制をかわすエヌビディアの新たな手法として波紋を広げている。米国が先月標的にした製品には、エヌビディアの中国向けダウングレードAI半導体の「A800」と「H800」シリーズが含まれる。米国政府は、抜け穴を防ぐ目論見で、AI向けではない最高級のゲーム用GPUである「RTX 4090」も事実上輸出不可能にした。エヌビディアの対応に対して、米政府がどう反応するかを見守る必要がある。

半導体コンサルティング会社Semianalyticsは、中国市場向けに調整されたGPUの1つは、大規模言語モデル(LLM)推論で中国外のスタンダードであるH100を20%以上上回る性能を発揮し、エヌビディアが来年発売を予定している次世代機H200に近い、と主張している。記事では、FLOPS、NVLink帯域幅、消費電力、メモリ帯域幅、容量、ダイサイズなどの側面をカバーするH20、L20、L2 GPUの詳細な仕様が、性能のより深い分析とともに紹介されている。

中国のインターネット企業はAIモデルの訓練やデータセンターの運用のために、エヌビディアのチップの獲得と備蓄を急いでいるとみられていた。フィナンシャル・タイムズ(FT)は、エヌビディアは、2024年まで中国からA800とA100チップの注文を50億ドル以上受けている、と報じていた。

しかし、中国の禁輸措置への耐性は驚くべきものだった。「中国版TSMC」に当たる中芯国際集成電路製造(SMIC)の7ナノメートル(nm)技術を採用したファーウェイのAI半導体である「Ascend 910B(中国名:昇騰910B)」がいま脚光を浴びている。この半導体は中国の複数の大手テクノロジー企業から注文を受けているという。例えば、中国の検索大手である百度は、8月にAI半導体に対する対中輸出規制が強化されることを予測し、ファーウェイからAscend 910Bを1,600個注文した、とロイターが報じた。注文の60%以上は10月までに納品されたという。Semianalyticsは、Ascend 910Bの性能は「A100」と「H100」の中間に位置する、とみている。

ファーウェイは2018年に前世代の「Ascend 910」を発表し、2019年に正式に発売された。オリジナルの「Ascend 910」は7ナノメートル・プロセスで製造されたという。当時、ファーウェイは自社のチップが世界で最も強力なAIプロセッサーだと主張したが、このチップは中国内外でエヌビディアの優位を崩すことはできなかった。エヌビディアは2020年と2022年にそれぞれA100とH100を発表し、AIチップ市場シェアの大半を世界的に席巻した。

中国の半導体技術の台頭は、目覚ましいものがある。9月、ファーウェイのチップ設計部門とSMICは、新型スマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載された「Kirin 9000S SoC」において、微細化レベルの高い7nmプロセス、積層技術を採用した製造に成功したと断定したとする半導体分析会社TechInsightsの分析は、世界を驚かせた。

ファーウェイの最新チップの衝撃:禁輸が中国の独自技術成長促す
欧米日の禁輸措置のなか、ファーウェイの最新スマートフォンと半導体が重要な技術ベンチマークを実現したことが確定的だ。輸出規制は裏目に出て、自主開発を促し、中国の半導体技術の「独立」を加速させたのかもしれない。

NVIDIAの新たな中国向けAI半導体は、すでに有効なライバルに行く手を阻まれている。ただ、AI半導体はソフトウェア面も同時に評価する必要があり、エヌビディアにとっては他社の追随を妨げる効果的な濠となってきた。ファーウェイがソフトウェアの開発でもエヌビディアに匹敵したと考えるのは時期尚早のはずだ。

しかし、中国を孤立させると独自技術成長促す、とASMLやNVIDIA、半導体業界団体が米政府に対して警鐘を鳴らしていたが、ここまで早くその兆候が出てくるとは誰が予想しただろうか。

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