膨らみゆくデータセンターの水消費:地域社会との「水の取り合い」も

世界的に干ばつが増加している中、データセンターが大量の水資源を消費することは無視できない問題となっている。地域社会との水の取り合いに発展する可能性もある。

膨らみゆくデータセンターの水消費:地域社会との「水の取り合い」も
UnsplashMatt Palmerが撮影した写真

世界的に干ばつが増加している中、データセンターが大量の水資源を消費することは無視できない問題となっている。地域社会との水の取り合いに発展する可能性もある。


最近、Meta Platformsはオープンソースの大規模言語モデル(LLM)である「Llama2」を公開し、AI業界の注目を集めた。競合の大手テクノロジー企業以外は、無料で商業利用できる。これを微調整することで多くのプレイヤーが独自のLLMを持てることを意味する。大手企業に限られた特権を民主化する救世主のように映る(ライセンスの内容があとから改定されるかもしれないが)。

しかし、水資源の観点では、Llama2は危うい存在のようだ。カリフォルニア大学リバーサイド校の准教授、Shaolei Renは、Llama2のトレーニングに必要な水の総使用量は1,090 万リットル、水力発電を除くと 280 万リットルになると見積もっている、と米メディアInsiderが報じた

Metaは、このAIモデルのトレーニングに使用した水の量を公表していないが、同社は消費電力を公表している。Renはそれをもとに、エネルギーと水の使用に関してメタ社のデータセンターがどれだけ効率的かを調べた。その結果、今年初めに発表されたMetaの以前のモデル「Llama1」の約2倍の水を消費しているとの試算が得られた。

Renは、Microsoftの米国のデータセンターでOpenAIのLLMである「GPT-3」のトレーニングを行った場合、発電に伴う間接的な水使用量を含めないと、約1カ月で70万リットルの水を消費したと推定する研究を発表した。この研究は、ChatGPTとの20~50問の会話につき約500ミリリットルの水を消費すると概算している。

「典型的なデータセンターでは、1日あたり人口3万〜5万人の都市と同量の水を使用する」と、テキサス工科大学水資源センターのヴェンカテッシュ・ウダメリ教授兼ディレクターは米メディアNBCに対して語った。このレベルの水使用は、水が不足している地域では、水の供給をめぐる地域社会との潜在的な競争を引き起こす可能性がある、と同氏は付け加えた。

実際、そのような紛争は現実のものとなっている。ブルームバーグ・ビジネスウィークのClara Hernanz LizarragaとOlivia Solonによる報道は、Meta Platformsがスペインのタラベラ・デ・ラ・レイナで建設を予定しているデータセンターが、深刻な対立を引き起こしていることを明らかにした。

世界が干ばつに苦しむ中、AIデータセンターの膨大な水消費が非難の的に[ブルームバーグ・ビジネスウィーク]
干ばつが世界中に広がる中、データセンター事業者と隣接する地域社会との間で、地域の水供給をめぐる争いが起きている。

Metaは11億ドルのデータセンター建設を計画しており、年間約6億7,000万リットルの水を消費すると予測されている。このプロジェクトは1,000人の雇用を創出する可能性がある一方で、水使用量の増加に対する懸念も呼び起こしている。

オランダ北部では昨年、Microsoftのデータセンターが、同社が公表していた量の4倍以上の水を消費していることが明らかになると、市民の怒りが爆発した。このような問題に対して、Microsoftは、将来的にデータセンターで雨水を集めることを提案しており、水の使用者ではなく、純然たる供給者になる可能性がある。同社は2030年までにウォーター・ポジティブ(消費する水よりも多くの水を供給すること)になることを約束している。

デジタルインフラストラクチャの拡大が地球資源に与える影響が増えてきている中、データセンターの冷却システムが必要とする水量の多さが一部で問題視されている。世界的に見て干ばつが増加している現在、特に水源の供給が限られている地域では、データセンターの水消費と地元コミュニティの間で対立が深まる可能性がある。

参考文献

Shaolei Ren et al. Making AI Less "Thirsty": Uncovering and Addressing the Secret Water Footprint of AI Models. arXiv:2304.03271v1 cs.LG

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