中国市場の陣地を失う日系自動車メーカー、長期的な競争力に不透明感
EVの投入で出遅れる日系自動車メーカーは、中国市場から押し出されつつある。世界で最も急速に電動化する先進的な市場での苦戦は、日系メーカーの長期的な競争力に不透明感を投げかける。
EVの投入で出遅れる日系自動車メーカーは、中国市場から押し出されつつある。世界で最も急速に電動化する先進的な市場での苦戦は、日系メーカーの長期的な競争力に不透明感を投げかける。
中国汽車技術研究中心有限公司のデータによると、BYDは6月までの四半期にプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)とバッテリー電気自動車(BEV)を59万5,300台販売し、市場シェアを11.2%に伸ばした。
PHEVとBEVをあわせた新エネルギー車(NEV)は中国特有のカテゴリである。中国汽車工業協会(CAAM)は、今年のNEV総販売台数は、2022年の689万台から900万台に達すると予測している。
フォルクスワーゲン(VW)は合計で54万4,000台を販売し、そのうちBEVは2万3,433台、およそ4%だった。VWは、同センターのデータが利用可能になった少なくとも2008年以降、中国の自動車メーカーの中で最も売れているブランドであったが、最近BYDに抜かれた。テスラの販売台数は15万7,000台で、全体の12位である。純粋なEV販売台数では、テスラはBYDに次いで中国で2位である。
一方、日本車には赤信号が灯っている。7月上旬に公表された中国乗用車協会(CPCA)のデータによると、日本の自動車メーカー6社の中国における市場シェアは、1年前の21.6%から6月には17.8%に低下した。各社の合算された販売台数は、2012年以来、20%近く減少した。
日産は最悪の影響を受け、上半期の従来型車の販売台数は前年同期比24.4%減の35万8,509台に落ち込んだ。ホンダは22%減の52万9,691台。トヨタは、前年同期比2.8%減の87万9,400台で、無傷に近い。
ロイターが分析した業界データによると、中国における日系自動車ブランドの第1四半期の総販売台数は前年同期比32%減となり、市場全体の縮小ペースの2倍以上となった。
人員削減も起きている。25日、トヨタが現地大手の広州汽車との合弁会社で1000人を削減したことが明らかになった。
三菱自の状況は最もシビアだ。中国における三菱自の販売台数は、コロナ禍前の2019年が12万3581台で同社全体の10%を占めていたが、2022年は3万1826台とわずか4%にまで低迷し、さらに2023年になっても歯止めが効かなかった。3月からスポーツ多目的車(SUV)「アウトランダー」のエンジン車の現地生産を停止している。
中国生産車の輸出も伸び続ける
中国乗用車協会(CPCA)が発表したデータによると、今年上半期の中国の自動車輸出台数は前年同期比73%増の234万台だった。上半期の新エネルギー車(NEV)の輸出台数は前年同期比105%増の80万台で、自動車輸出全体の34%を占めた。
中国政府は、3月までの3ヶ月間で中国は107万台の自動車を輸出し、長年のリーダーであった日本を抜いた、と明らかにした。これは、世界的な競争において、中国メーカーが、日本メーカーに対して優位にたったことを意味しない。このデータはテスラの輸出分を含み、また日系メーカーの現地生産を加味していないためだ。依然として日本勢が得意なガソリン車が世界市場の主役である。ただ、中国の自動車輸出は著しく成長し続けており、中国メーカーが世界市場でより大きなパイを占める兆候ととらえることはできる。
日系メーカーの長期的な競争力に黄信号
中国の現地メディアは、日系メーカーが中国市場でシェアを失っている背景として、中国の消費者の嗜好がEVへと移行しつつある中、日系メーカーは競争力のあるEVの投入が遅れていることを挙げる傾向が強い。これらの報道には戦略的な側面があるのは確かだが、長年にわたりEVへの注力を続けてきた中国メーカーに対して、日本メーカーはEVへの継続的な投資をせず、出遅れていることは確かだろう。
また、ホンダの三部敏宏社長が「中国のソフトウェア定義自動車(SDV)の進化が凄いと聞いていた(中略)上海オートショーで現実を見た」と言ったように、ソフトウェアの採用でも差が広がっている。SDVの一つの完成形である自律走行車の探求でも中国は米国とタイトな競争を続けているが、日本には有力なプロジェクトがない。
中国市場は世界で最もEV化が速い市場であり、この市場を中国メーカーが占拠しようとしていることは、世界市場の趨勢を映し出しているかもしれない。実際、日本車天国だったタイやインドネシアでも、中国メーカーの投資を誘致するための政策がとられている。
英経済誌The Economistは、中国メーカーの海外進出を、日系メーカーが70年代に欧米市場に進出し、貿易摩擦を経て現地生産へと舵を切ったシナリオと比較している。1970年代に急成長した日本の自動車メーカーや、1990年代に急成長した韓国の自動車メーカーとの競争は、世界的な技術革新に拍車をかけたことに言及し、中国メーカーの台頭を歓迎すべきだと書いている。
日系メーカーは、長期的に競争力を維持できるか、不透明な時間帯に突入しており、将来的に「イノベーションのジレンマ」の格好の教材となる可能性を秘めている。