ロボタクシー事業化時期が自律走行車企業の財務を左右する

中国の自律走行車企業である小馬智行(Pony.ai)は、資金調達パイプラインの乱れに悩まされている。同社はロボタクシーの事業化が遅れるシナリオを勘案し、リストラを行い、より素早く収益化が効く事業にリソースを分配している。

ロボタクシー事業化時期が自律走行車企業の財務を左右する
小馬智行(Pony.ai)の自律走行機能を搭載したSAIC Marvel Rモデル。出典:Pony.ai

中国の自律走行車企業である小馬智行(Pony.ai)は、資金調達パイプラインの乱れに悩まされている。同社はロボタクシーの事業化が遅れるシナリオを勘案し、リストラを行い、より素早く収益化が効く事業にリソースを分配している。


中国と米国で同事業を展開するPony.aiが事業のスリム化と人事異動を行った、と中国テクノロジーメディア36Krが11月初旬に報じた。36Krが関係者から入手した情報によると、インフラ・データ部門が縮小され、同部門に付属する上海データ部門も解散し、高精細マッピングなどの部門にも再編が及ぶという。

「現段階では重要だが中核とまでは言えない」とされたインフラ・データ部門は、主に自律走行システム開発のためのシミュレーションプラットフォーム、データマイニングプラットフォーム、データアノテーションシステムなどのツールやサービスを提供するとされており、北京、上海、広州にチームが配置され、その規模は100人以内に上るという。

米国R&Dセンターでは、インフラやマップの責任者に加え、知覚技術マネージャー・テクノロジー・リードのShuyang Cheng、コンピューティングシステム担当バイスプレジデントのLiu Yimingなどのディレクターが昨年全員退職し、100人の従業員がその半分に縮小した。

リストラの対象と自然減を含めると約150人の整理で、1,000人を超えるスタッフを擁する同社にとっては1割強の人員削減だったようだ。

Pony.aiは昨年、中国政府のテクノロジー企業への取締強化の一環で海外上場の規制強化が進んだことにより、IPO計画が頓挫し、資金調達のパイプラインが乱れた。この人員削減は追加の資金調達の難易度が上がったことと関連しているだろう。今年3月に同社が発表したシリーズDの評価額は85億ドルに到達している。以前、同社CEOは、同社のキャッシュは3年以上分の運転資金をまかなえると述べていた。

最近、自律走行車界隈では厳しい淘汰の風が吹いているが、Pony.aiのリストラはその状況を物語る最新の事例である。フォード、フォルクスワーゲンの大手2社が出資するArgo AIは先月、事業を停止。ソフトバンクグループ、トヨタ、デンソーを株主に数えるAuroraは、人員削減、役員報酬の削減、資産売却などを進め、ひいては会社をApple, Microsoftなどの潤沢な現金を保有するIT大手への事業売却を検討している。

自動運転車業界で深刻な淘汰が進行中
フォードとフォルクスワーゲン(VW)出資の自律走行車プロジェクトが頓挫した。長期に渡って巨額の先行投資を要する自律走行車ビジネスは、世界的な不況観測の中で、シビアな淘汰の季節を迎えている。

また、米中対立もまた、両国に拠点を持つ同社の労苦を引き起こしている。今年5月、カリフォルニア州自動車局(DMV)は、Pony.aiの試験許可を取り消した。一方、アリゾナ州ツーソンでは訓練を受けたセーフティドライバーを伴う自律走行車のテストを開始する計画が浮上している。

しかし、Pony.aiは、最終的な莫大な収益をもたらすと見込まれ、自律走行車企業による熾烈な競争の場であるロボタクシー事業自体を止めるつもりはないようだ。Pony.aiは今も中国の主要4都市(北京、上海、広州、深セン)で自律走行車のテストを行っている。今年4月、Pony.aiは、2022年に広州で100台のロボタクシー提供認可を獲得し、広州市南沙区でタクシーサービスを提供すると発表した。

同社は今年、北京で「中国で初めて」自律走行無人化実証運行のライセンスも取得した。「事業化と無人化の観点から、ポニースマートは2つの対応する結果を踏まえて、大きな進歩を遂げ、技術とビジネス状況を共に結合し続けています」と上海R&Dセンター副総経理の黄俊は語っている。

Pony.aiの第6世代L4自律走行ソフトウェアおよびハードウェアシステムを搭載したトヨタ・シエナAutono-MaaS車両が、先日の万博で中国に初公開された。「Autono-MaaS」は、「Autonomous Vehicle(自動運転車)」と「MaaS(モビリティサービス)」を融合させた、トヨタによる造語だ。Pony.aiによると、ADK(自律走行キット)搭載車の標準化生産の第1バッチを開放し、4カ月間の閉鎖路上テストを終え、2023年前半に中国の一級都市で自動運転移動旅行サービスを開始する予定という。

この車両では、独自のセンサーフュージョン技術アプローチを継承し、センサーの数量や設計を改良するとともに、LiDARの使用を拡大した。車体上部に4基のLiDAR、2側面に2基のLiDAR、3基のミリ波レーダー、11台のカメラを搭載し、そのうち7台を車体上部に、残りの4台を車体4側面に配置している。

ロボタクシーよりも早期実現できる収益化手段によって財務的な健全性を担保する試みも行われているようだ。前述の36krの報道によると、1年半の苦労の末、自律走行レベル「L2プロジェクトに注力し、北京チームは主に研究開発業務を担当し、ロボタクシーの運行は広州と深センで継続するとされている。

彭軍CEOは11月1日の全社メールで「ロボタクシーの大規模な事業化は5年以内に実現すると確信しているが、その前に事業効率を上げて我々が最良の状態で市場の変化に対応できるようにしなければならない」と綴っているという。

Pony.aiは百度米国法人で自動運転開発の主任アーキテクトを務めた彭軍らが2016年に設立。同社は、セコイアキャピタル、IDGキャピタル、モーニングサイドキャピタル、ジュンリアンキャピタル、トヨタ、一汽集団などから11億ドルの投資を集め、中国で最も評価額が高い自律走行企業(85億ドル)となっている。

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)